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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第四章 避暑地は地下迷宮
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エルーダの迷宮再び(VSフェンリル)14

 箱の中身は全部偽物だった。

「なんだよ、脅かしやがって……」

 僕は肩を落とした。

 あれ? 


『リーダーの証』


「本物だ…… 本物が混じってる!」

『木の葉を隠すなら森のなか……』とはよく言ったものだ。まさか偽物のなかに本物が紛れ込んでいようとは。

 危うく見過ごすところだった。

 僕は箱をひっくり返して本物を探し始めた。

 十枚に一枚ぐらいの頻度で本物が出てくる。

「なんかこれってやばくない?」

 ロメオ君の言うとおりの品なら、これは大変な事態である。

 世界中がこの迷宮を狙って仕掛けてくることになる。戦争も起こりえる緊急事態だ。

 ふたりを周囲の警戒に当たらせて、僕は嫌な汗を掻きながら必死に本物を探る。

 怪しいおっさん連中のことなどすっかり脳裏から消えていた。


「九枚あった」

 僕は偽物を宝箱に戻すと立ち上がった。

「終ったよ」

 リオナとロメオ君はゴブリンの集めた備蓄のポポラの実を頬張っていた。

 ふたりの鞄やポケットのなかには赤い果実がいっぱいだった。

「一つちょうだい」

 リオナがポケットのなかの一つをくれた。

「余りおいしくないのです」

 人が深刻になってるのに何を暢気な……

 言っておくがこれもギミックだぞ。そんなに持ち出してどうする?

「少し早いが、撤収する。調べなきゃいけないことができた」

 ふたりは口をもしゃもしゃさせながら頷いた。

 確かにスカスカな味だ。

 これで腹の足しになるから不思議だ。魔素を含んでいるからか?


「予想だとあの人たちがフェンリルをゲート近くまで誘導しているはずですけど」

 帰路に就きながらロメオ君が言った。

 僕たちは来た道を半分ほど戻った場所にいた。

「いたのです」

 もう見つけたのか?

「三匹です」

 え?

「三匹?」

 リオナは頷いた。

「フェンリルは群れないんじゃなかった?」

 迷宮のやつらは群れるみたいだな。

「三匹はつらくないですか?」

 ロメオ君はさすがに心配そうだ。

「手遅れなのです。もう見つかったのです」

 相変わらず鼻のいい狼だ。

 いや、僕たちの周りに漂うこの甘い香り……

 しまった! さっき食べたポポラの実だよ!

 何やってんだ、僕たちは!

「考えてる暇ないのです!」

「そうだった!」

 消臭して、さらに風を起こして匂いを急いで散らした。

 僕は地面に手を当てると、土を盛り上げ、一気にトーチカを作った。

 ロメオ君がぽかんと口を開けて見ている。

 リオナはサッサとなかに収まると窓から銃を構えた。

「大丈夫なの? これで?」

「優位に戦うにはこれしかないよ。さすがに三匹同時には捌けないからね」

 壁に防御結界の術式を施し、急いで魔力を注いだ。

 障壁がドーム全体に展開するのを感じる。

 よし、これで一安心だ。

 僕はライフルの残弾をすべて抜き『魔弾』を装填できるようにした。

「見えたです!」

 でかい図体が窓の外に小さく見えた。

 相変わらず黄金色のきれいな毛並みだった。

「こっちを見失ったのか?」

 標的が定まらない様子だった。あっちを見たり、こっちを見たり、地面に鼻をこすりつけてみたりと挙動不審だ。

 臭いを消し過ぎたか?

『一撃必殺』を発動させるにはまだ距離がある。引き寄せなければ。

 リオナがクシャリとポポラの実をかじるとトーチカの前方に投げた。

 一匹のフェンリルが反応した。首を高くしてこちらを見詰めている。

 のっしのっしと警戒しながらやってくる。

「この距離なら普通の狼に見えるな」

 僕は照準を覗く。

 スキルが作動した!

 僕は『魔弾』を発射した。

 遠くでフェンリルの身体がねじれるように倒れた。

 残り二匹が一斉にこちらに駆けてきた!

 それぞれが不規則に蛇行を繰り返しながら迫ってくる。

 今にも地響きがしてきそうな迫力だ。

 リオナが右側から迫るフェンリルに発砲した。青い柄糸の『必中』ありの方だ。

 フェンリルは姿勢を崩して前のめりに転がった。

 でも死んではいない。

 脚に命中したが、倒れた位置が悪かった。下りの勾配に隠れてしまった。

 ここからではとどめが刺せない。

 もう一匹が死角を狙って、大きく迂回しながら接近してくる。

 トーチカの窓から見切れて、姿が確認できなくなった。

 突然、ドーンという衝撃が頭上の天井を襲った。

 フェンリルがトーチカを踏み付けたのだ。

「うわっ!」

 ロメオ君が頭を抱えた。

「大丈夫なのです!」

 リオナは落ち着いて窓に向かって赤い柄糸の銃口を向けた。

 衝撃が何度も僕たちを襲った。

 リオナがまたクシャリとポポラの実をかじるとトーチカの窓から外に投げた。

 衝撃が収まった。頭の上のフェンリルが警戒している。

 リオナが今度は勢いよく、思い切り遠くに実を投げた。

 条件反射だろう。フェンリルは獲物を逃がすまいと一瞬窓の前に身を乗り出した。

 リオナの銃口がすかさず轟音を奏でた。

 ズシンというこれまた大きな衝撃と共に窓が塞がれ、トーチカのなかが真っ暗になった。

 僕は『魔力探知』で周囲の安全を確認すると、光の魔石を灯した。

 そして天井の上にいるフェンリルが頭上には落ちてこないことを確認すると、壁に仕掛けた結界を解いた。

 フェンリルの重みでトーチカの一部が一気に崩れた。

 どかどかと落ちてきた壁が土煙を上げ、差し込んできた光と混ざり合って風の渦を見せた。

「ゴホゴホッ」

 全員が咳き込んだ。

 ロメオ君が魔法で粉塵を遠ざけた。

 僕は急いで結界を張りつつ、地面に穴を掘った。

 塹壕のような穴を堀り進みながら僕たちはフェンリルの骸の横に出た。


「いたぞ!」

 足をやられたフェンリルはびっこを引きながら、こちらに迫ってくる。

「誰が殺る?」

 僕たちはロメオ君を見た。

「僕?」

「やってみるです」

「レベル三十に通用するかやってみたら?」

 ロメオ君は頷き、詠唱を始める。

 詠唱は明らかに初級魔法の長さではなかった。

 ロメオ君の本気が見られる。

 次の瞬間、雷が三度フェンリルの頭上に落ちた。

 フェンリルはぐらりと崩れ落ちて動かなくなった。

 中級魔法、雷撃(トールハンマー)だ。

 僕は万能薬を差し出した。

「ご苦労さま」

 ロメオ君も自分の魔法が通じて嬉しそうだった。

 魔力の消費が大きかったみたいで少し青ざめていたが、万能薬を少し口に含んだだけで回復した。

「石を回収するのです」

 近場から回収していって最後に僕が殺った相手の魔石を回収した。

「全部はずれだ」

 風の魔石(中)が三つ、鞄のなかだ。

「このフロアってまずいね」

 確かに儲からないな。

「『リーダーの証』がなければ只の骨折り損だよ。その証も真偽はどうなるか分からないけどね」

 とりあえず次のステップだ。

 何はさておき、進行中の作戦を片付けなければいけない。

 怪しいおっさん撲滅作戦、いよいよ佳境である。



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