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エルーダ迷宮ばく進中(五十階層攻略中・次なる一歩、その前に)73

「四十七階層?」

 エテルノ様が尋ねた。

「コモドドラゴンのフロアなのです」

「記録が……」

 ロメオ君が魔石を降ろして軽くなったリュックを漁った。

 そして自前の情報を書き留めた資料を取り出した。

「同じだ……」

 みんなも覗き込む。

「なんでこんな所に?」

 ヘモジが拾い集めた落書きの書かれた紙片もスクラップされていた。

「落書きは四十七階層の地図とリンクしてるんだ。ということは……」

 新しい落書きを見比べると、新しい点が見付かった。

 早速、僕たちは四十七階層の地図と照らし合わせた。

「ここって……」

「あのゴーレムの座っていたポイント?」

 記録と細かく摺り合わせる。

「若干ずれてる気もしないでもないけれど……」

 そう言えばこれらの点を繋いだ線がなんだったのか、未だ分からずじまいだ。

「あの大扉かな?」

「何もなかったじゃない」

「と言うことは……」

「ナーナ」

「何かある?」

「我にも分かるように説明せい!」

 明日、またここに来たときに、この落書きの拓本を取ることにして、外に出ることにした。

 ふと、昨日だか一昨日だかに見た夢を思い出した。格子が書かれた紙と丸められた紙くずが足元に転がっている夢だ。

 紙くずというのは四十七階層で見付けた落書きのことなのだと思い至った。

 だとすると格子が書かれた紙と言うのは?

 このフロアは格子といえば格子にも見えるが、部屋の大きさは皆ばらばらだ。おまけに通路だって格子状に繋がっているわけではない。

 まだ発見できていない何か?

 何かを見逃している。


「地上だーッ!」

 みんな大きく背伸びをした。

 アイシャさんの胸元に通りすがった男たちの視線が釘付けになった。

「よし飯にするぞ」

 スルーされたエテルノ様が歩き始めた。

 久しぶりの食堂での食事だ。

「ミートパイとホタテ!」

「焼き肉定食大盛りなのです!」

「焼き魚定食で」

「ナーナナ、ナーナ!」

 時間も時間なので、店はすいていた。

 東側のエリアは結局、明日に持ち越すことになった。拓本も取らないといけないし。

 そして四十七階層にもう一度、潜らなければいけない。

 管理者へと続く道がそこにあるかも知れないのだ。

「四十七か……」

 あのだだっ広いエリアを攻略しておいてよかったと思った。

 落書きのことを知らずにいたら、手掛かりに気付かずにいただろうから。完全に行き詰まっていたはずだから。

「お待たせしました」

 食後のテーブルにクッキーが山盛りになった皿が置かれた。

「誰だ、こんな物頼んだのは?」と皆、周囲を見回す。

「攻略がすべて済んだわけではないが、五十階層出口に到達した祝いじゃ」

 アイシャさんが言った。

 ワインとお茶のお代わりがテーブルに置かれた。

「祝いの本番は管理者を見付けた後になるじゃろうが、皆の努力に」

 グラスを掲げた。

 なぜクッキーを選んだのかは分からないが、ケーキを出されても小さな冒険者たちには食べきれなかっただろう。

 僕たちもお茶の入ったカップを掲げた。

「乾杯!」

「かんぱーい!」

 いきなりモシャモシャ音がする。

 ヘモジとオクタヴィアがほっぺたを膨らませてクッキーを頬張っていた。

「これ、甘い」

「ナーナ」

 ボロボロ、テーブルに滓を落とした。

 店のそれは普段の家庭の味とはまた違った美味しさだった。

「美味しい」

 それから、エテルノ様に四十七階層の話をした。特に後半部分は念入りに。

 エテルノ様は最初から僕たちと冒険をしたかったと悔しがった。

 お酒が入ったせいか、アイシャさんは多少自慢げだった。

 そうか、僕たちは地下第五十層の出口に辿り着いたんだ。

「あと十年は掛かると思ってたんだけどな」

「意外に簡単だったのです」

「百層ぐらいにもっと細分化してもよかったんじゃないかしら?」

 ロメオ君とリオナとロザリアが言った。

 ちょっと、もう少し感動しようよ。


 時間がまだあるので、僕は金塊集めに迷宮に戻ることにした。

 みんなはそれぞれ用事があると言うので、現場解散になった。

 ヘモジを連れて行こうと思ったのだが、畑が気になるようなので帰らせることにした。我が家の旺盛な食卓のためだ、止むを得まい。

 女性陣は買い物だそうだ。メルセゲルの町から始めるらしい。

 ロメオ君はずっと泊まり込みだったので、取り敢えず無事を知らせに家族の元に戻った。


 時間があると言っても日暮れまで二時間しかない。

 僕はさっさとタイタンフロアに行き、一石二鳥のサンドゴーレムを撃破した。タイタン部屋は面倒なので、四十七階層の宝物庫に向かった。


 日が変わったら勝手にリセットしてくれるフロアではないので、糸玉なしで進入し、リセットしてから酒蔵に跳んだ。この際、時間帯はどうでもいい。困るのはミノタウロスだけだ。

 あくまで金が目当てなので、コモドとミノタウロスの戦闘は勝手にけりを付けて貰うことにして、僕は隠れて宝物庫の鍵を開けた。

 中身をごっそり頂くと、結果を見ないで四十九階層の宝物庫に向かった。


 しまった。ショートカットルートのゲートに出てしまった。

 城のなかの尖塔に出ないことには宝物庫は遠い。

 また猛者のひしめく城内を攻略し直さなきゃいけないのか……

 今日は無理なので、次はゴーレム倉庫だ。


 断然使い易くなった杖と『一撃必殺』で楽勝だった。ちょっと破壊力があり過ぎて、実入りが減ったが、修正は問題なかった。

 後金塊が手に入れられる所といえば…… タイタンしかないな……

 何が嫌って、タイタン部屋まで下りるのが嫌なんだ。

 タイタン相手だったらヘモジも来たかな?

 まだ夕暮れまで一時間あるな。

 しょうがない、四十七階をリセットするか。


 ルーティーンは四度繰り返された。

「時間切れだな」

 コモド対ミノタウロス軍の決着を見たら帰るとするか。


 装備を置くと、その足で宝物庫に向かった。

 回収したお宝を全部ぶちまけた。

 金塊をまず金型で成形して棚に収めていく。

 ミスリルを初め、他の資源も収めていく。

 硬貨を数える段になって、専用の板を用意した。

 枚数が増えたせいで、最近ずぼらな方法で数を数えている。

 今までは縦に十枚ずつ重ねて、高さを揃えて、一々数えていたのだが、もっと楽な方法はないかと考えた。

 そこで専用の板を製作することにしたのである。

 縦に積み上げると手が当たったりしてしょっちゅう崩れるし、揃える高さが意外に見えづらかったりする。どうしても揃えるのに慎重になりがちで、余計な時間が掛かっていた。

 だったら最初から倒しておけばいいだろうと、コインを縦ではなく、横に並べるという方法を採用した。

 まず、板の縁を枠で囲って、コインが落ちないように細工する。

 板を奥、または手前に、僕は奥に傾けているが、そうすることで揃え易くなる。

 コインを板の奥の枠に沿って一列に並べていく。

 枠の幅一杯にコインを横一列に並べると、ちょうど二百五十枚になる寸法である。

 ここからが味噌。

 横枠の一部を可変式にしておいて、枚数が揃ったら、そこから流し落せるように工夫した。落とした先に布袋でもあればいいだろう。

 四回繰り返せば金貨千枚の袋のできあがりである。

 千枚ではちょっと重くて持ち運びづらいが、苦労するのは商業ギルドの連中なので構わないだろう。


 重さと言えば、錘を使って天秤で量るという最も簡単な方法があるのだが、これには問題があった。なんと誤差が生じてしまうのだ。よくよく調べてみると十階層区切りで金の含有量が違っているようなのである。

 何もここまで凝らなくてもいいのに。

 天秤の傾きに影響が出てしまうから厄介だった。

「だったら階層ごとに分けておけ」と言うかもしれないが、これもまたできない相談であった。理由は簡単。階層ごとにきっちり一律になっていないのだ。一定数、含有量の違う物が必ず混ざってきてしまうのだ。

 二十階層のコインには十階層のコインと二十階層のコインと三十階層のコインが混ざってくるのである。深く潜る程上等なコインの割合が増えていき、三十階層になると十階層のコインが消え、代わりに四十階層のコインが混ざってくるという寸法なのだ。

 おかげで余計な手間を掛けなければならない。商業ギルドもそのことは分かっているのだろうが、面倒と天秤を賭けて黙認しているようだ。


 同じ要領で銀貨、銅貨も専用の板でこなす。

 この作業、やってみると意外に面白い。

 ヘモジ辺りにやらせたら、面白がってやるんじゃないだろうか?

 僕は(はた)でも織るかのように、金貨を枠に揃えては、横に流して、足元の袋にジャラジャラと落としていった。

 五袋作ったところでやっぱり飽きた。

「面倒臭ッ!」

 それでも以前より何倍も作業効率が上がった。

 一度に全部は無理なので、残りは床の一角に僕の名前だけ書いた札を置いて放置する。

 できあがった袋は僕専用の棚の宝箱のなかに。



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