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エルーダ迷宮ばく進中(五十階層攻略中・模擬戦)71

 最後の夜ということで、全員が居残った。

 ロメオ君は三泊目になるので、帰った方がよくないかと言ったが、はなから親には何日掛かるか分からないと言ってきたから大丈夫だと言われた。

 こんな閉鎖空間に三日だよ? 『楽園』に一ヶ月いた自分が言うことじゃないけど、一旦帰ってもいいんじゃないだろうか?

 オクタヴィアも帰っていないが、こちらもヘモジとじゃれ合ってそれどころではないらしい。

「ヘモジ、畑はいいのか?」

「ナーナ」

 家の者に任せてきたらしい。

 肉球パンチが顔面にヒットした。

 ヘモジはオクタヴィアの二本の尻尾を持って壁に投げ付けた。

 オクタヴィアは身体をひねって壁に張り付くと、落ちる前に壁を蹴飛ばし、宙返りを決めて、ヘモジに踵落としを食らわした。

 ヘモジは身を翻して、側にあるクッションで叩き落とした。

 むぎゅーとオクタヴィアは床に伸びた。

「前にも言ったと思うけど、程々にしないと死ぬぞ」

「喉渇いた」

「ナーナ」

 ジュースをオクタヴィアの皿に入れてやると、ヘモジがオクタヴィアの元に運んだ。

 オクタヴィアはそれをペロペロ舐め始めた。

 ヘモジも注がれた自分のコップを呷って喉をグビグビ言わせた。

「休憩所で体力消耗してどうすんだよ」

「気力の充実」

「ナーナ」

 ストレス発散?

「外でやれ」

「ナーナ」

 ロメオ君が練習してる?

 外を見るとロザリアも参加していた。ロザリアが的を出して、それをロメオ君が撃ち落とす練習だ。

 どちらも発動基点を遠隔に設定しての練習だ。無事ふたりの杖にも癖が付いたようである。

 杖の力を借りながら反復練習して、今度はその身に焼き付けるのだろう。

「熱心じゃの」

 エテルノ様が窓を覗いた。

「ふたりとも真面目だから。やり過ぎなきゃいいけど」

「魔力が尽きたら戻るように言ってある」

 あんな風に小出しにしてたら、ふたりの魔力は尽きないよ。装備付与での回復量の方が多いはずだ。

 一時間したら切り上げさせよう。

 リオナは何やら絵を描いていた。紙は建築資材を巻いてきた包装の裏だ。

 覗かせて貰うとそこに描かれていたものは……

 ひとりでレッドドラゴンを狩る計画書だった。無双を使ってレッドドラゴンの首を切り落とすまでのプロセスが書かれていた。

 接着剤で足を床に貼り付ける? 

 足の甲の上は安全地帯? 

 顔を近付けてきたところで無双炸裂?

「接着剤は高温だと剥がれるぞ。他のドラゴンならまだしも、レッドドラゴンには効かないんじゃないか?」

 計画は破綻した。

 第一どうやって接着剤を踏ませるんだ?

 リオナは紙を丸めて捨てた。

「ブルードラゴンにするのです」

 周りが急激に進化するものだから、自分だけが置いて行かれると思うのは仕方がないことだ。でもリオナの存在意義は魔力に頼らないところにあるのだ。魔力を封じられたとき、このパーティの生命線になるのはリオナだ。

「やるか?」

 僕が剣の鞘を叩くとリオナの耳がピンと立った。

「やるのです!」

 ロメオ君たちに続いて、僕たちも外に出た。

「全力なのです」

「武闘大会仕様だからな」

「望むところなのです」

 僕は『楽園』に放り込んでおいた回収品を漁った。

 売るか、残すか決められず、今日まで保留したまま忘れていたがらくたを取り出した。

 僕は一振り、リオナは二振り選んだ。付与は多少あったが、売るか迷う程度の物なのでチェックだけして済ませた。

 リオナは二振りの短めの剣を構える。

「弾は出ないぞ」

「当たり前なのです! 武闘大会でも禁止なのです。それから結界もなしでよろしくなのです」

 えッ?

「望むところって言ったろ? 武闘大会仕様だって」

「結界砕こうと思ったら大変なのです。無双は危険なのです」

 無双使う気か!

 仕方がないので同意した。

 その代わり盾なら構わないと言われたので使わせて貰うことにした。勿論、魔法の盾以外の回収品という条件付きだ。


 魔石が光る薄暗闇のなかで対戦が始まった。

 リオナが合図と同時にいきなり突っ込んでくる。

 迎え撃つべく剣を振った。

 あっさり弾かれた。

 盾で二撃目を防ぐと、蹴りが盾に飛んできた。

 こちらに攻撃態勢を取らせないためだ。

 僕の重心は後方に流れた。

 リオナはくるりと一回転して、僕の足元を薙いだ。

 盾を落としてやると、咄嗟に剣を引いて、後方に跳んで間合いを取った、と思ったら首を刈りに来た。

 こいつ! いつ地面を蹴ってるんだッ!

 僕は牽制するために間合いのど真ん中に剣を振り抜いた。にも関わらずリオナはそれをよけて斬り掛かる!

 斬られることが確定したので、せめて威力を削ぐために間合いを縮めた。

 リオナは咄嗟に斬り付けている剣を引き、もう一方の剣で下から斬り上げた。

 悪手である。

 僕はそのまま体を当てにいく。

 リオナは半身をひねりながら、僕の肩を蹴飛ばして、その勢いで後方に引き下がった。

 やっと止まったか。

 と思ったのも束の間、身を深く沈めて床を蹴った!

 速いッ!

 擦り抜け様に一撃入れてきた。

 そのまま後方に回ろうとするが、まだ見えている。

 一撃目を回避しながら、前転してかろうじて次の二撃目をよけた。

 だがリオナ程の体捌きは僕にはない。

 盾で三撃目を防ごうと身構えたが、リオナは姿を消した!

「やばッ!」

 この場を離れるべく横転した。右か左、どっちに転がるかは一瞬の賭けだった。

 リオナの一手が空振りした。

 僕はかろうじて立ち上がった。開始一分でもうへとへとだよ。

 リオナは楽しそうである。

「結界ありにしないか?」

(ずる)は駄目なのです!」

 現状お前の方が狡いからな!

「楽しむのです」

 まったくもう、お前の動きに付いて行ける奴がこの世に何人もいると思うなよ!

『千変万化』で加速モードだ。力はいらない。スピードに極振りだ。

 ゼンキチ道場の兄弟子としてやってやろうじゃないか!

 こっちの加速だって悪くないはずだ!

 リオナが僕の一撃を弾いた。そして二の剣で僕の脇腹を突いてきた。

 僕は身体を引いて切っ先をやり過ごすと、下段から剣を切り上げ、逆袈裟切りにした。

 リオナはかろうじてよけた。

「今のをよけるか、普通!」

「エルリンが急に強くなったです」

 そう言えば、こいつゼンキチ爺さんとは相性が悪かったな。ヴァレンティーナ様にもエンリエッタさんにも勝ってるのに。

 もしかして……

 リオナが喉元に突きを入れてきた。

 僕はわずかに首をよじり切っ先を擦り抜けると、突いてきた手を切りつけた。

 リオナの反応が遅れた!

 ああ、そう言うことか!

 なるほど、ゼンキチ爺さんに弱いわけだ。

 リオナの攻撃は常に連撃を意識している。それ故の二刀流だから悪いことではないのだが、気がはやると防御が手薄になるようだ。連続攻撃に割り込めれば、リオナはタイミングを崩すだけでなく次の動作にまごつくことになる。割り込めればだが。

 こちらも割り込んだだけでは駄目だ。そのときダメージを与えなければ。

 だが、さらに加速したリオナに隙などなかった。向こうもこちらを警戒して大技を繰り出さなくなったが、兎に角、手数が多い。

 それを止められないのも情けない話だが。

 そろそろいかないと負けるな。

 もう盾が傷だらけだ。

 僕は盾を捨てる決心をする。だが、ただ捨てるのは愚の骨頂。利用する手段を考えなければ……

 リオナが壁を蹴って、身体を横によじりながら剣を薙いだ。

 次の一撃を食らわないためにはどうすればいいか? ただ受けては二撃目を食らう。受けるなら体勢を崩さなければ。

 ここはバッシュだ。

 僕は強烈に踏み込んだ。

 リオナは何もできずに床に降り立った。

「エルリン強いのです」

 盾の耐久もここまでだな。引っ掛かってくれればいいが……

 僕は盾を深く構えた。

 そしてリオナは僕の仕掛けた罠に嵌まった。

 リオナお得意の盾の死角から攻撃するあれである。

 でも、僕の盾はもう盾の役目をしない。捨てると決めた。執着はない。リオナが盾を弾く瞬間、リオナを斬る!

 リオナが消えた。

 盾を寄せ、身を隠す! 

 右か! 左か! 

 右だッ! リオナは右から現れた。

 本来なら剣が飛んでこない盾を持った左側を選ぶのがセオリーだが、リオナはあえてそれをしなかった。

 思惑が外れた。

 僕は盾を離し、剣に左手を添えた。両手持ちの剣速なら!

 リオナが迫る!

 手放した盾と反対方向に僕は動いた。

 リオナの反応が遅れた。

 僕は足を踏ん張り、リオナの切っ先を絡めつつ、剣を薙いだ!


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