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エルーダ迷宮ばく進中(五十階層攻略中・レッドドラゴン)69

9/11分に修正あり。前話、前書き参照。

 レッドドラゴン戦は攻略法が定まるまで多少の時間を要した。とにかく多彩な攻撃を繰り出してくるので、ルーティーンを引くわけにいかなかったのだ。

 僕自身、杖と短銃の二刀流ではバランスが悪いので短銃を引っ込めることにした。みんなに「トレントで銃を作ったらどうだ」と馬鹿にされるのも仕方ない。

 それでも対象を基点にしたエテルノ式を使えば『魔弾』がなくても有利に戦えるだろうと踏んでいた。

 実際そうだったのだが、ここであることが判明した。エテルノ式対象基点攻撃は杖を使わなければできないということだ。

 エテルノ様が遊んでいたときに杖に付いた癖であることが判明した。僕だけの術式展開能力ではあの便利な技は使えないことが分かったのだ。

 だがこれは好機であった。

 魔法使いの学習方法では模倣が何より有効な手段だった。特に相手の魔法を真似ること、体感に訴えることはイメージ発動型を選択した魔法使いには何より重要なことだった。魔法の指輪が有効だったように。

 できなければ、何かが間違っているか、足りないということだから諦めるしかないだろうが。

 エテルノ様の指導の下、僕は実戦のなかで対象基点法を多用した。

 その結果、翌朝には杖なしで敵の頭に有効打を入れるまでになっていた。一度に一発だけだが。

 これにより銃に持ち替えても一発だけなら『魔弾』を対象基点法で撃ち出すことが可能になった。

 敵は『魔弾』を接射されたのとほぼ同等の被害を受けることになる。減衰ゼロ。何より魔力の発生という予兆はつきまとうが、ほぼ瞬時に目標に到達するため回避不能の必殺技となった。

 結界を貫通するかについての考察は目下保留中である。

 ドラゴンや竜相手では『ドラゴンを殺せし者』の称号があるせいで確認が取れないのだ。エテルノ様に、スキルを持っていなかった昨日の段階で試して貰えればよかったのだが、気付いたときにはエテルノ様も称号を取得していてサンプルにならなくなっていた。ただ、本人曰く、結界の類いで困ったことはないと言うから可能なのではないかということだった。エーテルによる攻撃手段があるからとも取れるが…… 取り敢えず今は保留にする。

 兎に角、大いなる前進であった。

 こうなると僕の杖は引っ張りだこになるわけで、最初に手にしたのはアイシャさんだった。習得に一番近い位置にいるのは紛れもなく彼女なので、習得時間も短くて済むだろうということだった。

 もう一方で合理的な考えとして自分の杖にも癖を付けて貰おうという試みがなされた。一番効果を発揮すると考えられたのが回復担当のロザリアの杖だ。自分を基点にしなくて済むなら自ら危険な前線に出ずとも回復を遠距離から施せることになる。

 魔力の消費が大きい回復魔法では発動距離による減衰をもろに受けるため、手が触れる距離が最適とされる。それ程射程が短いものなのだが、これにより減衰を大幅にカットできる可能性が出てきた。

 癒やしの光でも可能でもあるのだが、個人を救済するにはオーバースキルだし、魔力の消費はもはや浪費と言えた。最低でも五人ぐらいは同時に回復してくれないと割に合わないということだ。何よりあれは眩しい。暗闇のなかではいい標的になってしまう。

 元々回復魔法は対象に施す魔法なのでロザリア自身というか、聖魔法には素地があるように思える。

 そんなわけでエテルノ様はロザリアの杖を使って戦闘に参加することになった。光魔法に特化していたので、僕の杖より使いづらそうだったが、そこは長老、光の矢をうまく使いこなして、戦闘に参加していた。

 手ぶらになったロザリアは最近鳴りを潜めていた『グングニル』を取り出した。予備として『楽園』に放り込んであった物である。



 昨夜の居残り組は先日の帰宅組となった。お泊まりはリオナと僕と召喚獣がふたりだ。ただ実質ふたりでは本隊と認識されるか分からなかったので、万が一のリセットに備えて、せめてあとひとり残って貰うことにした。そうすれはパーティーの半数の三人になる。

 残ってくれたのはロメオ君だ。

 でもまだオクタヴィアの分だけ帰宅組が多い勘定になる。召喚獣がカウントされれば問題ないが、恐らくそうはならないだろうということでオクタヴィアにも残って貰うことにした。

 夕飯に最近、ご無沙汰のホタテを出すと言ったら、快く了解してくれた。

 帰宅してもアンジェラさんにお願いすれば食べられると思うのだが、それは言うまい。

「ホタテ、ホタテ! こんなにいっぱい」

 オクタヴィアが飛び跳ねて喜んだ。

 結果的にヘモジのサラダの量も増やす羽目になったが、リオナの皿の肉の量を見ては何も言い返せない。

「ブルードラゴンなのです」

 こちらも瞳がキラキラ光ってる。

 喜んでもらえて何よりだ。

 ロメオ君と僕はそれぞれをバランスよく頂いた。


 食後は暇つぶしに休憩所を見て回り、途中になっている大工仕事を引き継いだ。

 まずは玄関扉を設置した。

 ヘモジとオクタヴィアは食後すぐ新しく搬入したソファーの敷布の上で寝てしまった。

 三人で冒険者をしていたころを懐かしみながら、僕たちは大工仕事に精を出した。

「それにしても魔石がとんでもないことになってるね」

「ほんとまずいよね」

「まずいのです」

「特大がこんなにいっぱい……」

 テーブルにゴロンゴロンでかい魔石が転がっている。

 元々ドラゴン討伐は大人数でやるものだ。それに合わせた報酬が用意されていると考えれば妥当かと思えるが、実のところそうではない。持久戦にならない分だけ石が大きくなったのである。

「精霊石にならないだけ増しって感じだけど。もっといい何かに昇華できないものかな?」

「空中要塞の移動用の動力源とかは?」

「重量ゼロにできるから、飛空艇より省エネでいけると思うよ」

「質問なのです。飛空艇には飛行石、利用しないですか?」

「飛行石のことは商会にもばらしたくないんだよね」

「ばらしたら大変なことになるよ。ドラゴンの第二の肺がいらなくなるんだから」

「四十九階層に辿り着いた他の冒険者たちは考えなかったのかな?」

「考えたと思うけど、掘り出せたかは疑問だよ。重石に大量の金を使ってやっとあれっぽっちなんだから」

「ポケットに入れて持ち帰れるもんじゃないか」

「仮に持ち帰れたとしても手持ちの重量を超えることはなかったはずだよ」

「案外僕たちの知らない所で飛んでたりして」

「ショートカットルートのおかげで、興味を引かれなかったのかもね。マリアさんたちは気にしてなかったし」

「初めからギミックだと思ってるんでしょ」

「攻略重視だとこのフロアの方が美味しいからな」

「美味しい以前に危ないのです。毎日来る場所じゃないのです」

「一回来れば、報酬的にも充分だけどね」

「窓は全部付いたよね」

「中庭造ったの誰だよ。木を植えても育たないんだからな」

「枯山水だって長老が言ってたです」

「何それ?」

「知らないのです」

「石と砂で作る庭のことらしいよ」

「よし、ここはエテルノ様に任せた」

「そろそろいい時間じゃないか? 時計は?」

「さっきヘモジが――」

「こいつらここで寝るのか?」

「みたいだね」

「寒くはないのです」

 僕たちはロフト部分に上がって寝袋に入った。僕を真ん中に川の字になった。

「じゃあ、また明日」

「お休みなさいなのです」

「お休み」

 迷宮のなかに音はない。他のフロアでは冒険者たちの狩りも続いているだろうに。すぐ側にはドラゴンや竜もいるはずなのに。

 怖いくらいの静けさだった。リオナには何か聞こえているのだろうか?

 怖がってやしないか?

 そう思ったのだけれど、ぴたりと僕の背中に寄り添っているので僕は寝返りを打てなかった。


 その夜、僕はおかしな夢を見た。

 格子が書かれた紙と丸められた紙くずが足元に転がっている夢だ。目の前には『開かずの扉』があって、僕はそれを開けようとして――

 オクタヴィアに顔を踏まれて目が覚めた。

「朝になった。若様起きる。みんな来る前にご飯にする」

 僕たち三人は揃って大きな欠伸をした。

「太陽が欲しいね」

「うん……」


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