エルーダ迷宮ばく進中(五十階層攻略中・レッドドラゴン)68
修正しました。
前話、一文追加。
>撃ち出すのは『魔弾』
>杖の先端に円盤が生まれた。一枚、二枚、三枚…… まだいける! 四枚。まだまだ……
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>撃ち出すのは『魔弾』
>杖で片手が埋まってしまうので、今回は短銃を構える。
>杖の先端に円盤が生まれた。一枚、二枚、三枚…… まだいける! 四枚。まだまだ……
レッドドラゴンの顔が蜃気楼のカーテンの先に晒された。見るからに凶暴。だがそれは一瞬。
飛び上がった身体を地に着ける瞬間だった。
ノーガードの顔面に『魔弾』が命中した。
このタイミングで来るとは予想していなかっただろう? しかも自慢の多重結界を越えて。
しっかり地に足が着いていれば、よけようもあっただろうが、慢心も手伝って無防備過ぎた。
ドラゴンの首は大きくのけ反った。
「固過ぎだろ!」
喉を鳴らしながら、ゆっくりもたげた顔面に残った金色の眼球がこちらを睨み付ける。
片側半分の顔面を大きくえぐり取られていた。
普通のドラゴンなら首から上を根こそぎ落せるだけの威力があったはずなのに。顔がでか過ぎるんだ。
ドラゴンは傷も治まらぬうちに大口を開けて奇声を発した。血が飛び散った。
猛烈な勢いで自己回復が始まる。
崩れた血だらけの牙の列がうねうねと整列していく。穿った肉が盛り上がっていく。
その間、視線を僕から外さない。
二枚目の円盤が光り出す。
「今度はもっと痛いぞ。どうする?」
ドラゴンは吠えた。
ハウリングだ!
衝撃でこちらの体勢を崩すつもりだろうが、別のお仲間が既に見せてくれたから慌てることはなかった。
僕たちの体勢は崩せない。
「術式追加。『魔弾』発射!」
閃光が再びドラゴンを襲った。既にドラゴンはこれがただの光の玉でないことを悟っている。
バサッ。
羽ばたいた。周囲の炎が捲り上げられた。
そうだ、奴には羽があったんだ!
でも残念。
『魔弾』は頭はそれたが、右膝に命中して爆発した。部屋中の炎が爆風で一瞬消え掛けた。
ドラゴンが墜落した。
「なんと……」
『魔弾』には前回以上の魔力を乗せていた。
直撃を受けた片足は付け根から蒸発し、片翼ももはやぼろ切れだ。
レッドドラゴンは悲痛な叫び声を上げた。痛みか? 怒りか?
再生がさらに早まった。
「さすがだな。まだ戦うか」
三、四、五枚目の円盤が一斉に回り出す。
ドラゴンはひるむことなく残った三本の足で体勢を立て直す。
前傾姿勢にならざるを得ない顔はほぼ再生が完了していた。
前脚も使って猛烈な勢いで突っ込んでくる!
そしてこちらの焼けた結界に向かって喉袋を膨らませた。
「ちょっと!」
ロザリアが慌てる。
「まだだ」
ドラゴンはブレスを吐かんと残った足と尻尾で踏ん張った。喉袋から炎が漏れ出している。
「ほんとに単細胞だったんだな」
怒りで周囲が見えなくなったか。
「よけてみろッ!」
レッドドラゴンの頭に閃光が三本突き刺さった。
上方三方向からの同時攻撃をすべて食らって消し飛んだ。
残り火を撒き散らしながら頭のない首が落ちた。
息をするとき、大概の生き物は咄嗟な動きができなくなる。咄嗟に動こうとすれば息を止めなければならないが、ブレスを吐いた瞬間からそれはできなくなってしまう。そんなことをすれば自分の口をブレスで焼くことになるのだから、その間の動きは緩慢になる。
頭を失った重い身体が炎の海のなかに沈んだ。
「やったです?」
部屋の熱気が急激に冷めていく。所詮、迷宮補正付きのかごの鳥だったか。
野生のアイスドラゴンは手負いでももっと怖かった。
「とどめはいらなそうじゃの」
エテルノ様は周囲を冷気で払いながら骸に近付いていく。
「倒せと言った覚えはないぞ」
アイシャさんが呆れながら後に続く。
「えー?」
「引き付けろと言ったのじゃ!」
エテルノ様は僕の足元を指差した。
え?
「ほれ、お主らも早うせんか! 肉が焦げてしまうぞ!」
「一大事なのです!」
「大変だ!」
ロメオ君たちも消火活動に加わった。
僕は万能薬を飲みながら、エテルノ様の指摘を気にして周囲を見渡した。
入ってきた扉から随分離れていた……
単細胞は僕も同じか……
回復する程にゆっくりと魔力が浸透していく。杖がこっそりツケを回収しているのが分かる。 最終的に小瓶が三本空になった。
すっかり周囲が凍りついたところで、レッドドラゴンの勇姿を拝むことができた。
「思ったより小さかったのね」とロザリアは言った。
『カラードでも』という枕が付くのだが、確かに対峙したときより小さく見えた。
それだけこちらにプレッシャーを掛けていたということだろう。
補正の掛かっていないレベル百以上の現実には一生遭いたくないな。
「足がもう復活してるのです」
「儲かった」
オクタヴィアが見上げる。
怖いねー。
「最後はどうなるかと思ったぞ」
アイシャさんが僕に笑いかける。
「ほんと単細胞でよかったですよ」
「リオナの言った通りなのです」
たまたま当たっただけだろ。
全身鎧を着込んだような壮観な姿だった。草竜などとは違って、戦うために生まれてきたような姿だった。
焼けた肉をナイフで削って、リオナがこっそり口に運ぼうとする。
「万能薬の瓶の蓋は開けておいた方がいいぞ」
全員の注目を浴びた。
「あんたね!」
教育係のナガレが駄目出しをする。が「我にも少しよこせ」とエテルノ様が言うものだから試食会が始まってしまった。
「最後のあれは我の真似か?」
エテルノ様が肉を食いながら僕に言った。
「魔法使いの成長の鍵は発想と模倣と実践するための基礎知識ですから」
以前、クラース・ファン・アールセンの所で戦っていたエテルノ様が出所の分からない魔法を放っているのを見た。どうして次々兵士たちが倒れていくのかそのときは分からなかったが、僕の杖で遊んでいるとき、それに気付いた。
術式には発動の基点を定める記述が必要だ。自分を基点に設定することが当世では当たり前になっているが、古い書籍にはいきなり対象に向ける物も存在する。
エテルノ様の魔法は自分を基点にしない。
動き続ける対象に基点を定めることは難しくはあるが、そもそもイメージ発動型は術式に依存しないのだ。多少の困難は仕方ないが、普段転移を繰り返している身としては、咄嗟の空間把握能力には多少の自信はある。
「妖精族は空を飛び回るからの。自分を基点にしていては、的が定まらぬのじゃ。我に羽はないが、対象に定める方がやり易いのじゃ」
「どこまで強くなるつもりじゃ、お前は?」
「この杖があってのことですよ。さすがに本気の五発は撃てませんからね」
「迷宮を破壊しないようにセーブしての本気じゃろ?」
「だから分割にしたですか?」
リオナが肉を持ってきた。
「全力で戦って敵わなかったら凹むだろ?」
「リオナはいつも凹んでるのです」
「僕の分まだある?」
「いっぱいあるのです。でも先に回収して欲しいのです」
感動が薄いところを見ると味は今一なのかな?
僕はレッドドラゴンを『楽園』に放り込んだ。
そしてリオナが持ってきた焼け残った肉片をナイフで削いで口に運んだ。
「え? 美味しい!」
「上位の入れ替えが激しいのです」
「僕はブルー、ダーク、レッドの順かな」
ロメオ君が言った。
「えーっ、ブルー、レッド、ダークに決まってるでしょ!」
ナガレが言い返した。
味覚音痴が随分人間らしくなったものだ。
「わたしはダーク、レッド、ブルーかしら?」
「それはない!」
ロザリアが全員から否定された。
「なんでよ、いいでしょ、別に!」
「上品さならそうであろうが、肉のガツンとした味を比べるなら、ブルー、ダーク、レッドじゃろう」
「そうか? 我はブルー、レッド、ダークじゃな。ダークは嫌な思い出もあるしの」
「ホタテ、駄目?」
オクタヴィアが僕に顔を近づけて呟く。
「別に食べたい物を選んでるわけじゃないから」
「お主はどうなんじゃ?」
「ロメオ君に一票」
「ナー」
ヘモジが喜んだ。どうやら同じ選択だったらしい。
「あんたはどうなの?」
食べてばかりで黙っているリオナにナガレが聞いた。
「そんなの決まってるのです! ブルー、ブルー、ブルーなのです!」
それを言っちゃお終いよ。




