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エルーダ迷宮ばく進中(五十階層攻略中・レッドドラゴン)67

 分岐はなし。次の扉を開ける。熱気も冷気もない……

 ホーンか? 新手か?

 おや? あれは…… 竜にしてはでかいか…… 

 こちらに気付いていない。首を振る仕草、まだこちらに気付かない。

 周囲の警戒心が薄くなる。

 あの暢気さはあれだ。

 オクタヴィアもリュックから出てきた。

「草竜だね」

 ロメオ君が言った。

 リオナがっくし。

 ヴィオネッティー領辺りでたまに見かけるこの辺りで一番スタンダードな竜だ。ミコーレから南に出る、少し物騒な土竜が草原にきて完全に呆けた感じの奴だ。羽はあっても滅多に飛ばない、アースドラゴンの弟子みたいな奴だ。

 草食で大人しい奴なのだが、民家に近いと追っ払われてしまう可哀相な奴だ。子供の頃、エルマン兄さんがペットにしようと頑張ったが、餌付け用の餌代が掛かり過ぎて頓挫したことがある。

「このままやり過ごすか?」

「扉向こうだから無理」

 オクタヴィアに真顔で返答された。

「一応、火を吐くぞ」

 髭がピクリとなった。

「可哀相だけど出てきた不運を呪うのね!」

 敵は暢気すぎた。一撃を食らうまでこちらを路傍の石ぐらいにか思っていなかったらしい。

 火を吐く間もなく、こちらの先制攻撃で簡単に倒されてしまった。

「残念な奴なのです」

 ほんと倒すうま味もないんだから。ドラゴンが獲れる場所では下位に位置する竜はほんと無価値だ。

 上層のフロアーだったら、いい標的になってくれただろうが…… 出番が遅かった。

 兎に角、ここでは魔石になって貰うしかないが、その待ち時間も惜しい気がする奴である。

「いなくても変わらないのです」

 リオナにぼろくそに言われてる。

 未確認なのは残りドラゴン一枠である。どの道、竜の枠に期待はしていなかったが、無駄に一枠潰された感は強い。


 扉の前に立っただけでも大当たりというか、はずれというか、びんびん殺気が伝わってくる。

 部屋の障壁を越えて漂うこの熱気。

「スルーしたい」

「駄目に決まってるのです」

「この威圧感を前にしてよく言えるな」

「肉が待ってるのです」

「そう言われるとな……」

 エテルノ様、そこ妥協するとこじゃないから。

「ひどい落差じゃな」

 同じレベルであるはずなのに全然さっきと脅威度が違い過ぎた。

「ブルーと同格、あるいはそれ以上。明らかに炎属性だ」

「レッドドラゴン…… 気に触っただけで国を一つ滅ぼすという厄介者ね。ドラゴンのなかでも凶暴さは断トツだって言われてる」

 ロザリアが『ドラゴン』に書かれていた内容をそのまま口にした。

「そんな奴の肉食いたい?」

「性格は味には関係ないのです。それに単細胞はやり易いのです」

 シーンとなった。

 みんな思ってるぞ。お前が言うなって。

「リオナは素直なだけなのです!」

 察する能力はあるようだな。

 ほっぺたをプーッと膨らませて抗議した。

「肉に関してはなんとかしたいのは同感だけど」

「エルリンに標的になってもらって、引き付けて貰えばよかろう」

 エテルノ様が言った。

「それで倒せるんですか?」

 ロザリアが尋ねた。僕も聞きたい。

「リオナが言ったことはある意味正しいのじゃ。あやつは一度怒らせると手がつけれなくなるが、それは執念深さの裏返しじゃ。痛烈な一撃を最初に食らわせてやれば、奴はお主を倒すまで躍起になって襲ってくるじゃろう。その間、周りは見えなくなるから残ったメンバーは仕掛け易くなるし、何より安全じゃ」

「痛烈な一撃ね…… エテルノ様の方がいいんじゃないですか?」

「この迷宮は我を嫌っておるからの。我の必殺技は封印されているようなものじゃ」

 嫌っているかは兎も角、迷宮内のエーテルの量は確かに微量だ。その微量なエーテルの大半を使ってヘモジとナガレの姿を隠して貰っているわけだから、それを使ってくれとは言えない。

「じゃ、やるだけやりますか」

 みんな気持ちは落ち着いたな。早鐘のように鳴る鼓動は奴の好物だ。弱みを見せたらつけあがるのが、この手の奴らの嫌なところだ。

「行くぞ」

 装備をガチガチに耐火仕様に変更して、小声で前進を促す。

「エルリンなら一撃で倒しても許すのです」

「そりゃ無理だろ?」

「その杖があればそうでもなかろう?」

 この杖を今一使いこなせていないから困ってるんですけどね。

「まあ、フォローは任せておけ」

 ハイエルフがふたりいて負けたら話にならないからな。

 ギイッ……

 うわっ!

 扉を開けた世界はイフリートの住処の如く、溶岩のように赤く燃えていた。まるで焚き口から覗いた竈のなかである。まだ何も始まっていないのに…… 結界は全開だ。

「よいか?」

 全員が頷くと、エテルノ様はまやかしを解除する。

 僕やロザリアが結界のために注ぎ込んでいる魔力もヘモジたちの存在もばれた。

 僕は万能薬をくわえる。

 結界の外は何もかもが燃えている。

 ジリジリと焼ける肌。照り返しで火傷しそうだ。

 そう思ったら結界が暗くなった。そして反射による熱波が消えた。

『光学操作』が発動した?

 いきなり炎の森が震えた。

 翼を広げ、怒りの衝動を吐き出すように、剥き出しの牙が怒号を発した。

 頬を振るわせ、憎悪をみなぎらせ、蜃気楼の向こうで尻尾を振り上げる。

 その間、僕は『千変万化』と付与魔法を唱えて、魔力の底上げをした。

 撃ち出すのは『魔弾』

 杖で片手が埋まってしまうので、今回は短銃を構える。

 杖の先端に円盤が生まれた。一枚、二枚、三枚…… まだいける! 四枚。まだまだ…… 五枚だ! 直列に重なった五枚の円盤が思い思いに回転を始めて光り出す。

 本体に踏み込まれる前にブレスを吐かれた!

 巨大な火の渦が、紅蓮の炎を蹴散らし迫ってくる!

 ブレスは構わなくていい。本体に照準を定める。

 ブレスと結界が接触する!

 鍋の底のように障壁が赤く燃え上がった。

 僕の『竜の目』は燃え盛る炎のなかに溶岩の塊を着込んだドラゴンの姿を捕らえていた。

「『魔弾』ッ! 発射!」

 杖から放たれた光の弾丸が衝撃の波を生みながら、炎の壁を切り裂いた。


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