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エルーダ迷宮ばく進中(五十階層攻略中・にーく、にーく!)66

 昼食にはブルードラゴンの肉が出た。

 昨夜、夕飯に出す約束だったのだが、帰宅組になったせいで持ち帰ってしまったのである。

 リオナ自身も昨夜は忘れていたから、僕も思い出さなかった。

 そういうわけで、試食タイムである。獲れ立てのホーンドラゴンの肉もあるぞ。

 皆テーブルに調味料を並べる要領で万能薬を置いていく。

 エテルノ様は面白そうに様子を伺っている。

「一興じゃの。里ではこんなこと絶対させては貰えんからの」

「当たり前じゃ! 万能薬をこんな馬鹿なことに使うのは我らだけで充分じゃ」

 最初の肉が焼けてきた。プツプツと油が弾けて美味しそうだ。

 リオナが生唾を飲み込んだ。

 調理当番のロザリアが、目の前で肉をサイコロ状にカットしていく。

「どっちの肉ですか?」

 リオナが真剣に尋ねた。

「まずはホーンドラゴンの方からよ」

「さすがロザリアなのです。分かってるのです。真打ちは後からというのが相場なのです」

 ロザリアは苦笑いする。

「まずは一口、ご笑味あれ」

 一斉に口に放り込んでは万が一のときに困るので、順番に口に放り込んでいく。毒味の一番手は毒に一番耐性のある僕からだ。

 本体の見た目とは裏腹に、肉は恐ろしくジューシーだった。さしの入りも悪くない。見ただけで美味しさが伝わってくる。これは明らかに鳥肉とは違う。

 後はダークドラゴンを越えられるかだ。

「!」

 美味い。ドラゴンの肉のなかでもかなり上位にくる味だ。

「当たりだ」

 僕の一言で全員が待ってましたと一斉に口に放り込んだ。

 順番がどうなったとか言わないように……

「美味しい!」

「ほんとだ、これは大当たりだよ」

「倒すのは大変だけど報われたです」

「うまい、うまい」

「ナーナーナ」

 あっという間に皿のなかのサイコロ肉がなくなった。

 別の皿がやって来た。

「はい、本命のブルードラゴンの肉ですよ」

 前回同様、肉を切り分けるロザリアの手をじっと見詰める一行。

 そして毒味の番がやって来る。

 口元に運んだ段階でフルーティーな香りが鼻腔をくすぐる。

「あいつ、草食なのか?」

「雑食じゃ。何でもある物を爆食いして、腹を満たしたら雪山の巣に帰る。百年単位に起こる迷惑なイベントじゃ。エルフの森も何度か襲われたことがあるが、まさに根こそぎじゃ。森が一つ消えることもある。大木を枝の先から根っこの先まで丸ごと食いよるからの」

「えー。木を丸ごと?」

「獣たちは逃げ出せても、森は逃げられんからの」

「究極の草食なのです」

「雑食じゃ」

 一通りの説明が済んだようなので口に放り込んだ。

「毒はなし……」

 敢て感想は控えた。

「美味しくなかったですか?」

 リオナが心配して僕の顔を覗き込む。

「答えはそこにある」

 全員がブルードラゴンの肉を口に運んだ。

 誰も何も語らない。

 鼻に抜ける香りを楽しんでいると、語る言葉を忘れる。その後に来る心地よい歯触りと肉汁のうま味が常識を破壊する。そしてどっしりとした濃厚な肉の味が。えもいわれぬ幸福感。見事な余韻を演出する。

 溜め息しか出ない。


 全員がブルードラゴンをキャンセルして、ホーンドラゴンの肉を求めた。

 ブルードラゴンの肉はこんな場所で、今食する物ではないと全員が判断を下したのだ。

 誰だって最高級肉を片手間に別のことを考えながら食べたくはないだろう? どっしり椅子に腰を据えて、皿の上の料理のことだけ考えて、後先考えず腹一杯がっつきたいはずだ。

 思わず「今日はもうやめにしよう」と言いたくなってしまう。

 ホーンドラゴンの肉ですら、攻略中の冒険者の昼食には有り得ないレベルなのだ。ダークドラゴンの肉の次を張るレベルである。それだけで肉祭り一回分は催せたに違いない。

「こっちだって普通のドラゴンの十倍は美味しいのです」

「わたしはこっちで充分だわ」

「食べ過ぎたら動けなくなるし」

「みんな贅沢すぎるよ。この肉だって尋常じゃないよ」

「ダークドラゴンの肉ですら通常の値段の十倍だからな」

「余り高くなり過ぎると消費が滞るじゃろうの」

「もうある程度のドラゴンの肉は値下げした方がいいんじゃないの?」

「勿体ないのです!」

「だって消費しなきゃ、在庫減らないじゃないの!」

「一度、我が家の肉の在庫調整しないと駄目みたいだな」

「ブルードラゴン…… 肉の味も破格じゃったか」

 みんなに食べさせるのが楽しみだ。

 もう新しいドラゴンは結構ですとお断りを入れたい気分だった。

 でも、休憩ばかりしていては前には進めない。

 気合いを入れて前進だ!

「ブルードラゴンを希望するのです」

「ナーナ」

「ちょっと……」

「不吉なこと言うなよ」

「火竜いる!」

 オクタヴィアが言った。

 リオナとヘモジが後退った。

「ちょっと、あんたたち!」

 こら、戦闘前に騒がない。

「ナガレ、やらないのか?」

「それどころじゃ、あッ、後ろ!」

 雷が落ちた。

 張り付いていた天井から急降下してきた火竜を、ロメオ君が迎え撃った。

 火竜はそのまま落下して壁に突っ込んだ。

 後方からもう一体、羽を広げて迫ってくる!

「二体いたのか」

 雷がまた命中した。今度はナガレだ。

 火竜は床に仰向けに落下した。

 何かが頭上を通り過ぎた!

 ヘモジだった。

 宙返りをしながらミョルニルを振り下ろし、火竜にとどめを食らわせた。

「ナーナ!」

「『ドラゴンパワー全開!』だって」

 オクタヴィアが通訳を入れた。

「わたしは違うからね!」

 ナガレが叫んだ!

 ちゃんと仕事はしてくれるようなので何よりだ。



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