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エルーダ迷宮ばく進中(五十階層攻略中・ミステイク)64

 一服して落ち着くと、休憩所を消し去って攻略を再開した。

 何体か弱い敵を倒しながら、集中力を高めていきたかったが、そうなる保証はどこにもない。

 暗闇を照らす光の魔石もどこかゆらゆら揺れている。

 全員配置に就くと、通路の突き当たりの扉をそっと開ける。

 辺りを見渡し環境を確認する。

 寒ければブルードラゴン、暑ければ火蜥蜴モドキ、なんともなければコモドかワイバーンだ。

「なんともなさそうだ」

 二択になった。

 朝、最初の相手としては妥当な線だ。

 ワイバーンも寝ぼけていたのか弱かった。

 リオナの一撃で簡単に片づいた。

 だが、このときとんでもない事態が発覚する。

 別の出入り口を見付けてしまったのである。

 階段の上り下りからして、下層への出口ではない。明らかに上層に向かう入口部分だ。

「ショートカットルートに続いてるですか?」

 勇んで階段を上がるも、入口を塞ぐ扉は固かった。『迷宮の鍵』も効果なかった。

「反対側からしか開かぬのかもしれんの」

 これでは三つ目の扉なのか、ショートカットルートの扉なのか分からない。

 確認に僕が向かうことになった。

 その間、部屋の改装を行なって待つと言うので、昨日購入した資材も含めて、仕舞ったばかりの休憩所を『楽園』から出して設置した。

 地図の写しに新しい部屋を付け足すと、僕と一緒に行くと言うオクタヴィアと一緒に脱出した。


 外に出るとオクタヴィアはゲート前広場の芝に降りて、大きく伸びをした。

 照らす太陽に目を細め、風を浴びる。

 迷宮に閉じ込められていた鬱積を洗い流すと、僕の肩に戻った。

 四十九階層の入口から入り直し、出口のある浮島に飛ぶ。

 炎竜に気付かれるが、襲われる前に僕たちは五十階層に飛び込んだ。

「いない、いなーい」

 みんなの姿はどこにも見当たらなかった。

「ということはあの扉は第三の扉か……」

 僕たちは四十九階層に戻った。

 僕とオクタヴィアだけ外から五十層に転移したら、こっちに出てくるという事態を避けるために、祠経由のルートからまた入り直すのだ。

 消えた侵入者のことなど忘れて、炎竜は巣から尻尾をダラリと垂らしている。

「行くぞ」

 僕たちにはその浮島が必要なんですよ。と、いつもの調子で誘導してやり、混戦に導いた。

 その間に浮島を拝借する。

 ひとりで島を繋ぎ止めている鎖を切るのは意外に骨が折れた。その都度島が傾くからだ。

 ミノタウロスは炎竜をしっかり足止めしてくれた。

 しばらくオクタヴィアと暢気に空の旅を楽しんで、祠のある島に上陸する。

 下の戦いにもけりが付いたようだ。

 毎回あの城壁が落ちるのはデフォルトか?

 そしてそこからは朝来た道をひたすら進む。

 思ったより順調に戻って来れた。


「やっぱりショートカットルートの扉じゃなかったよ」

 僕たちは報告した。

 休憩所の窓枠が木製にすっかり変わっていて、雲母ガラスが嵌まっていた。玄関扉はまだだったが、絨毯が敷かれ、棚や箪笥、卓が置かれていた。

 もはや単色ではなく程よく木の温もりのある部屋になっていた。

「別の入り口がまだ四十九階層にはあるということかの?」

 見逃した扉などあっただろうか?

 階段を見遣ると、風が吹き込んできた気がした。

 オクタヴィアも振り返る。

 髭が揺れる。

「風…… 焦げてる」

 焦げてる?

 そこまでは僕には分からないが。

 僕は理由を言わずに、オクタヴィアと一緒に階段を駆け上った。

「開いてる!」

 光が差し込んできていた。

 扉は崩れていた。

 すっかり瓦礫の一部になっていた。

 僕たちは隙間を乗り越える。

「どこだ、ここは?」

「危ない!」

 オクタヴィアが叫んだ。肩に乗ったまま僕を後ろに引っ張った。

「うわっ…… あぶなッ」

 足元に雲海が広がっていた。

 上の方でミノタウロスの反応があった。

「まさか!」

 遠くに炎竜の屍があった。

 角度的に言って…… ここは……

「炎竜に落とされたあの壁面か?」

 あそこにも、と言うかここにも扉があったのか?

 周囲を見渡すと残骸のなかに階段を見付けた。

 見上げると遙か先に城壁の頂があった形跡を見ることができる。

「これはさすがに……」

 見付からないはずだ。

 あの馬鹿でかい石積みの壁面のど真ん中にあったのだ。

「この調子だと、あの入口も繋がってるな」

 フロア入口の隣に浮いている浮島を見た。

 扉は開けたままにしてきただろうか?

「開いてるのです!」

 後ろからリオナの声が。

 ゾロゾロとみんなが階段を上がってくる。

「下を見ろ! 危ないぞ!」

 ゴンと重い音がした。

「あ」

 注意するのが早過ぎた……

 リオナが頭を抱えてうずくまった。

 頭上に架かるように垂れていた瓦礫に頭をぶつけた。

 下を注視した結果、頭上がおろそかになったようだ。

「大丈夫?」

 心配して魔法を掛けようとしたロザリアが固まった。

 階段を出た踊り場の先で床は途切れている。

 彼女は後ずさって、後ろから来るエテルノ様たちの道を塞いだ。

「なんじゃ?」

 僕は説明する代わりに炎竜の骸を指差し、場所を譲った。

「大丈夫か?」

 僕はロザリアと階段を降りた。

 みんなを待つ番になった。


「何しに迷宮に来てるんだか」

 本日はまだワイバーンを一体しか狩っていない。

 それなのに時は午前の休憩時間を過ぎようとしていた。

「朝からお茶ばかり飲んでるな」

 みんながお茶に興じたまま放り投げてあるテーブルから冷めたお茶の入ったポットを掬い上げて、自分とオクタヴィアのカップに注いだ。

 冷めたお茶に砂糖を足したら溶けずに残って甘かった。

 困ったことになった。

 五十階層がすべての入口と一つに繋がっているとしたら、僕の予測は外れたことになる。管理者に会いに行くためには特別なルートが必要だと考えていた僕には気付きたくなかった発見だった。ゴールが一つなら、僕たちの行き着く先はマリアさんたちが行き着いた先と同じということだ。

 みんなが戻ってきた。

「炎竜が開けてくれたですか?」

「まやかしでも太陽を浴びると気持ちがすっきりするのぉ」

 ん?

 エテルノ様の言葉の何かが琴線に触れた。

「ああーッ!」

 やってしまった……

 リオナもオクタヴィアも気付いた。

 すぐ横に開いたままになっている扉があるはずだった。

「ワイバーン、生き返ったですか?」

 もはや、扉の先にいるのはワイバーンとは限らない。

 これは新手の罠と言うべきか?

 僕たちは迂闊にも全員、一緒に扉の外に出てしまったようである。

 扉が閉じられている現実を鑑みるに、リセットされてしまったと考えるべきだろう。

 僕たちが攻略した部屋の扉は皆、目の前の扉同様、再び閉じられているはずだ。

「敵も一新されてしまったかの?」

 頷くしかない。

 目標を見失っただけでなく、成果までリセットされてしまった。

「問題ない! マップ情報は残っておる」

「別のドラゴンたちと相まみえることになるじゃろうがな」

 それが問題だ。

 もはやビギナーズラックのような敵の組み合わせはあるまい。

「取り敢えず、落ち着きましょう」

 ロザリアが言った。

 内心一番動揺しているのは僕だろう。

 ロザリアがティーポットの茶葉を入れ換えて、魔法でお湯を注いだ。

 冷静になると、リセットされたことより、ゴールが見えなくなったことの方が身にこたえた。

「新しい肉なのです!」

「ナーナ!」

 取り敢えずクリアーしよう。悩むのはその後だ。



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