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エルーダ迷宮ばく進中(五十階層攻略中・休憩所)61

 コモドには肺以外は魔石に変わって貰った。

 もう少しガツンと手応えのある奴と戦ってから休憩を取りたかったのだけれど、不完全燃焼のまま休憩タイムに。

 さて、ここで気分転換のための催しを行なうことにする。

 ドラゴン戦で緊張したみんなの気分をほぐすために用意したイベントだったのだが、現状、その必要なさそうであった。

 が、せっかく休憩時にやろうと予定していたイベントなので、僕は大量の砂が入った巨大な桶を『楽園』から取り出した。

 家一件分を土魔法で構築できるだけの大量の砂を、同じく砂で作った桶に放り込んできたのである。

 みんな状況が飲み込めずにきょとんとしている。

 唯一オクタヴィアだけが「砂場! 砂場!」と言ってはしゃいでいる。

 僕は大量の砂を使って壁を作り始めた。

「こういうことです」

 理解したようだ。

「なるほど。面白い」

 因みに用意した砂はミコーレ産である。

 砂なら砂漠フロアに山程あると思っていたのだが、よくよく考えればギミック扱いで持ち出せないのである。リオナとタイタンフロアを訪れた際、こっそり持ち帰ったのだが、無駄骨だった。手っ取り早く済ませようと思ったのだが、却って手間が掛かってしまった。

 ゼロから土魔法で材料を捻出することもできるが、そうなると休憩のレベルではなくなってしまう。

「天井はどうする?」

 アイシャさんが見上げた。

「通路に引っ掛からなければどうとでも。あ、でも圧迫感がない方がいいかな」

「了解した」

「扉はないのかの?」

 ぽっかり開いた入口を見ながらエテルノ様が言った。

「さすがにそこまでは」

「なんじゃ、気がきかんの」

「すいません」

「調理台はこの辺? 竈はいる?」

「水瓶も欲しいわね」

「それだと排水もいるのです」

「照明は壁に」

「魔石を置く燭台、誰か作って貰えます?」

「任せるのじゃ、お洒落なのを作ってやろう」

「テーブルはこんな感じでいいかな?」

「脚はもっと細い方がモダンよ」

「これ以上細くしたら折れるよ」

「芯になる物が欲しいわね」

「ヘモジの野菜スティックぐらいしかないな」

「ナ!」

 するわけないだろ。

「布を掛けましょう」

「植物も欲しいわね」

「窓の外の景色はどうにかならないですか?」

「外壁に蔦でも這わせて目隠ししたらどうじゃ?」

 庭まで造る気か?

「絨毯、絨毯!」

 オクタヴィアが床をポンポン叩く。


「見事に殺風景な部屋ができあがったわね」

 ほんと砂色一色である。

「よい気晴らしになったの」

「脱出班には足りない物を持ってきて貰うとよいじゃろう」

 全員くつろいでも余りある部屋ができあがった。ロフトスペースに居残り班のための寝床も用意した。本来これがメインのはずなのだが。

「内装もその内本物に切り替えていきましょう」

「それがいいのです!」

「とても迷宮攻略中の会話とは思えんな」

 皆笑った。

 台所で全員分のマグにお茶が注がれ、いい匂いが漂ってくる。

「エルリン、デザートなのです!」

「あ、そうだった」

 取り出したるはバウムクーヘン。

「おおおおおおッ」

 歓声が上がった。

 歓談に拍車が掛かる。

 砂が余ったせいか、開口部以外の壁の厚さが必要以上に分厚くできていた。

 ドラゴンでもこの部屋は踏みつぶせまい。当然のことながら外側には強力な結界が施してある。


「怖いのはブルードラゴンだけじゃな」

 御茶請も切れると、話はこれからのことに移った。

「飛ばれたときのことも考慮せねばな」

「逃げられるとすぐ回復されてしまいますね」

「完全回復まであっという間じゃ」

「急所を一撃で仕留められればいいんだけどな」

「心臓はとても狙えないわね」

 あの胸板を貫通するのは並大抵のことじゃない。

「となると頭しかないか」

「氷の壁も頑丈なのです」

「さっきは偶然うまくいっただけだからな」

「手投げでは鏃が凍らされてしまうのです」

「リオナには『アローライフル』を任せよう」

「ナナ」

「ヘモジにはこれだ」

「ナ?」

「『爆炎』のボルトだ。飛べないように羽を燃やせ」

「ナーナ」

 ヘモジのボウガンと一緒にあった大量の在庫では雑魚戦にしか使えないので、ゼロから新調した。取り敢えず二十本。

 魔石は超高密度に圧縮してあるから、強度も内部に蓄えてある魔力も充分のはずだ。限られた空間での戦闘なので、誘導やら複雑なシステムはこの際排除し、威力にのみ特化しておいた。射速さえ満たしていれば、衝撃判定さえ入れば破壊力で『アローライフル』に引けを取ることはない。

「他の全員は急所狙いだから、責任重大だぞ」

「ナーナ!」


 攻略を再開した。

 休憩所はそのまま『楽園』に放り込んだ。

 通路の先にある次の扉をゆっくり開けていくと、熱気が漂ってきた。

 一瞬。あれと思ったが、次の瞬間、何かが扉の隙間を抜けて、通路の床にぶち当たって燃え上がった!

「ばれた?」

 一旦扉の裏側に退避して様子を伺う。

 なんだかおかしい。

「ちょっと単体だとは思えないんですけど!」

 奇遇だな。僕もそう思ってたところだ。

 再び隙間から通路に何かが吐かれた。

 するとまたそれは燃え上がった。

「どこかで見たことがある気がするんだけど……」

 ロメオ君も感じていた。

「もしかして火蜥蜴って…… 竜なの?」

「サラマンダーはサラマンダーじゃろ?」

「蜥蜴じゃなかったんだ?」

「報告すべきか悩むところだね」

「人族がした勝手な分類じゃろ? 現実は奇なりじゃ」

「なんか竜のイメージ変わったのです」

「やる気が失せるな」

「愚痴をこぼしてないで手を動かしなさいよ。先に行くためにはここを越えなきゃいけないんだから」

 あのなナガレ、自分が蜥蜴の眷属かどうかの瀬戸際だぞ? もっと心配しろよ。

「数がいそうだね」

「レベルに見合うだけの数はいるだろうな」

「扉、開けるから」

 ロメオ君が前に出た。

 みんな後に続いた。

 僕は扉を開けるみんなを守りながら、障壁で敵を押し戻していく。

 アイシャさんが衝撃波で近場に張り付いている敵を黙らせた。

 ブレスに遠く及ばなくとも、燃える粘液には注意が必要だ。すぐに消えないことは周知の事実。火が点いたら最後、大火傷は必至である。

 その点だけは舐めて掛かるわけにはいかない。

「凄いの……」

 エテルノ様は天井も壁も床も敵だらけの光景を見て感心した。

「洞窟程じゃないよね」

「そうだな」

「驚いて損したのです」

「でも太った」

 オクタヴィアは既にリュックに退避している。

 太ったじゃなくて、大きくなっただろ? 確かに動きづらそうにしてはいるけれど……

 ヘモジも盾を構えた。

 確かにどこか違う気がする。

 みんなで遠距離攻撃を食らわして早々に退場願った。

「ドラゴンも複数なんてケースはないわよね?」

「否定できなくなったな」

 マリアさんたちの情報では複数出た話はなかったが。

 考え過ぎだろうか? ショートカットコースと仕様が違うこともありえるのではないか?

 記憶に留めておくべきか?

「これ! 火蜥蜴じゃないのです!」

 リオナが突然、声を上げた。

「え?」

 全員、リオナの足元に転がっている死体に集まった。

 僕は『認識』を働かせた。

「名前が出ない?」

「てことは新種?」

 近くで見ると顔立ちが違う気もするが…… そもそも火蜥蜴の顔をじっくり見たことがない。

「『ドラゴン』の図鑑にもないとすると、やっぱり竜ということかな?」

「そうだね。そういうことになるかもね」

『竜』の図鑑もどこかに落ちてないだろうか?

 あんまり興味は湧かないけれど、冒険者の嗜みとして必要かもね。『楽園』で探してみて、もし存在するなら、取り寄せることにしようか。

「火蜥蜴モドキ!」

「決定!」

 リオナとオクタヴィアに指を差されて断定された。

 ほんとにこいつが竜の眷属だったら、屈辱的なネーミングだろうな。

「これで出てくる敵は決まりね?」

「竜が二種類限定ならね」

「ブルードラゴン、モドキ、ワイバーン、火蜥蜴モドキ」

「なんとも精彩を欠く面子じゃの」

 コモド、モドキに、ワイバーンだからな。

「別の意味でリセットしたくなるな」

「まあ、まだ二種類だけと決まったわけではあるまい? ルートが違えば、仕様も変わっておるやもしれんし、気を抜かぬことじゃ」

「期待するのです」

「マップ情報を揃えるには、いい出足だと思うよ」

「わたしもそう思います」

「いろんなドラゴンを倒したければ、調査が済んでからやればいいさ。どの道それまでは全員揃って帰れないんだ。祭りはお預けだからな」

「早く攻略するには最高の組み合わせだったです」

 


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