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エルーダ迷宮ばく進中(お裾分け)57

 折り詰めにして貰って、リオナと一緒に専用ゲートに飛び込んだ。

 今回は時間優先だから、待ち時間は我慢することにする。と覚悟を決めたのだが、扉は思いの外早く開いた。

 担当が獣人族だったせいで、チェック項目を飛ばして、バウムクーヘンの匂いで判断したのかも知れない。

 確かにバウムクーヘンを大事そうに抱えてやって来る刺客もいないだろう。

 僕たちは急いで姉さんの元へ。

「お待ちください」

 姉さんはヴァレンティーナ様の執務室にいるようだった。

 使用人が衛兵に話し掛けて、そこからしばらく待たされた。

 いつもなら顔パスなのだけれど、どうやら先客がいるらしい。体裁を整えなければいけないようだ。

 僕も襟を正す。

 入室が許された。

 扉の向こうにがたいのいい先客がいた。近衛の格好だ。

「あッ!」

 第一師団の副団長がいた。

「ちょうどよかった。関係者全員に一応、状況確認をせねばなりませんでしたので」

「お茶まだでしたら、これ。『アシャン家の食卓』の冬の目玉商品…… の試作品なんですけど」

「それはいい。小腹が空いてきたところですよ」と副団長が笑った。


 バウムクーヘンはすこぶる高評を博した。

 特に母さんのレシピだったせいもあって、姉さんには懐かしい味だったかも知れない。

 僕は副団長にすべてを話した。わだかまりの件も含めて。

 今回の件で、状況は変わるのではないかと副団長は見ていた。歪みがあるのなら正すのが治政というものだ。当人も長く放置してきた責任の重みを痛感しているようであった。

 団の規範も変わるかも知れないと率直に語った。否、変えてみせると。

 来客がいたせいで、リオナは借りてきた猫のようになっていた。副団長がいくら気さくな人物でも普段のようにはいかない。副団長はヴァレンティーナ様との関係を知らないのだ。並んだら似ている部分に気付くかも知れないが、リオナはあえて姉さんの隣に陣取った。

 お菓子を届けに来ただけなので、お茶を頂いたら僕たちは退散することにした。

 リオナは少し残念そうだったが、ヴァレンティーナ様と話せない分、姉さんと会話が弾んだようで、それはそれでよしという感じだ。

 反面、僕は姉さんと言葉を交わすチャンスはなく、副団長とヴァレンティーナ様とばかりだった。

 部屋を出るとき、目を合わせただけだった。

 

 帰る途中、今日の戦利品を置きに道場地下の研究室に向かった。

 リオナは研究室の扉に気付かなかった。何度も来ているはずなのに。

「長老、凄いのです」

「こっちだ」

 施設のなかは何重にも仕掛けが施されていた。

 部屋に入っても許可のない者には部屋全体の大きさが把握できないようになっていた。倉庫部屋があるだけのようにまず錯覚するだろう。が、先へ続く扉は認識できないだけで存在している。

 なおかつ最深部は鏡像物質で塞がれている。

 リオナの手を引いて最深部の倉庫に入るとようやくリオナは呪縛から放たれる。

 きょとんとしている。

 ハイエルフの里が誰にも見付けられないわけである。

 僕は『楽園』から回収した鏡像物質をその場に下ろす。後はエテルノ様がやってくれる。

「どうなってるですか?」

「エテルノ様の魔法だ。誰も入れないようにしてるんだ」

「リオナも自由に入りたいのです」

「用あるか?」

 しばらく考えてから首を振った。

「エテルノ様に頼んでみな」

「我慢するです」

「すぐ空に浮かべてやるさ。そうすりゃ、自由だからな」

「頑張って欲しいのです」

 鏡像物質も金塊もまだまだ予定の量に程遠い。金塊を確保しなければ飛行石を取りに行くこともできないのでなんとか優先したいのだが、今は五十階層に集中するべきだ。でないと足元を掬われる。

 僕たちは外へ出た。

 出て行く者にはこの手の魔法は寛容なので、リオナもあっさり脱出できた。

 ナガレのいる中庭に寄ると言うので、一旦リオナと別れて、僕はヘモジの畑に向かった。

 屋根の梁の上でヘモジがオクタヴィアを抱えたまま寝ていた。

「あれ? オクタヴィアここにいたのか?」

 となるとハイエルフふたりはどこ行った? そう言えばレオたちは昼飯食ったのか? アンジェラさんたちは試作に掛かりっきりだったから、肉にありつけなかったんじゃ……

「ナーナ……」

 もう食えない? 寝言か。

 そう言えばお前たちは昼、どうしたんだ?

 もう日も陰ってきたから起こしてやるか。

「野性味の欠片もないな」

 オクタヴィアはだらーんと掛け布団のようにヘモジに抱きついた姿勢で寝ている。

「起きろ、帰るぞ」

「ん?」

「ナ?」

 完全に脱力している。

「昼は食べたのか?」

「ピノたちと食べた。道場で肉祭りした」

「ナーナ」

 ただの鳥肉だったけど最高だった?

 ドレイク辺りの肉を処分させられたのか?

「若様、焼き鳥知ってる?」

「焼いた鳥だろ?」

「違う、串に刺した鳥肉。照り焼き」

 え? それって異世界のレシピ?

「誰か来た?」

「若様の実家、醤油とか持ってきた。売店に置く奴」

「ナーナーナ」

 鳥肉、美味しくなった?

「マーベラス、ハモった」

「そりゃ、よかった」

「うん。よかった」

「ナーナ」

 食べたんならいいけど。

「若様何食べた? 甘い匂いする」

 クンクンと匂いを嗅いだ。

「美味しいおやつ」

「はー」

 ふたりは目を見開いた。

「この時間じゃ、お預けだな、もうすぐ夕飯だし」

「それは困る!」

「ナーナ」

 ふたりして僕の足元をグルグル回る。

「急げばまだ間に合うかも」

 ふたりは飛んでった。


「ドラゴンとの連戦か……」

 家路に就きつつ、思索に耽る。

 長老が結界を無視できるエーテルを操れるのは心強いが、全体の安全マージンをどこまで取ればいいのか見当が付かない。さっぱり分からない。ドラゴンもピンキリだし、カラードには一度も対峙したことがない。アイスでも無茶苦茶強かったのに…… 迷宮補正が効いてるのか、いないのか。

 どうやって安全を担保する? 部屋と言っても飛ばれれば近接攻撃はできない。向こうも逃げようはないのだが。安全に行くとしたら、やはり『アローライフル』…… 射程が長過ぎるか。天井までの高さを考えると手投げの方がいいかも知れない…… 防御に関しては試してみるしかないが。

 どんな強敵でも最初の一戦だけは避けて通れない。しかも、聞いたところでは迷宮を出てしまうと組み合わせもリセットされてしまうという話しだ。だとしたらこちらも交代制を採用しなければならないだろう。となると宿泊の用意も必要か。あの廊下に中型艇は置けないからな。

 テントのような物をユニットで組んでしまおうか、それとも現場でこしらえるか。休憩なども頻繁に取れるようにした方がいいかもしれないな。敵が敵だし。

 今からユニットを組むのは無理があるか……

 ヘモジたちの騒ぐ声がする。

 ロザリアと玄関で鉢合わせた。


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