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エルーダ迷宮ばく進中(空の城・雑音)55

「五十階層ってどんな感じですか? 入った感じだと後戻りはしない方がよさそうでしたけど」

「わたしたちのときは三交代制だったな」

 リカルドさんが言った。

「三交代?」

「ああ、あのフロアの仕掛けには弱点があるんだ。それは前に進むか後戻りしなければ敵が湧かないというものだよ。つまり三分の一ずつ地上に戻し、休息と補充を繰り返す戦法を取ったんだ。本体をその場に留めておけば、一度通過した部屋に敵が再度現われないことを利用したんだよ」

「そうなんですか?」

「まあ、物量で対処したというところだな」

 大きなギルドなら上級者をかき集めて。それ以外の者たちなら定期的に組まれる集団戦に参加することでクリアーは可能だったらしい。今は率先して攻略する者はいないそうで、数年に一度行なわれるかどうからしい。

「ゴールまでは長いんですか?」

「そんなやり方だったからな、補充を待ったりした時間を含めて三日だったか?」

 リカルドさんがマリアさんに確認を取ると、マリアさんは頷いた。

「ドラゴン出たですか?」

 ふたりは周囲を見回した。聞き耳を立てている者がないことを確認すると小声で言った。

「既に迷宮でドラゴンを見付けている君たちだから言うが、三分の一はドラゴンとの戦闘だ。ただし、二種類だ。過去の記録からしてもそれ以上はない。しかも何が出るかは完全にランダムらしい。それこそフェイクやモドキのときもあるが、最悪カラードが出た記録もある。カラードが出た段階で最初からやり直しだな」

「後半ですか?」

「いや、出番もランダムだ」

 ええ? そうなの?

「最初に出くわした二体と最後まで付き合う格好になる」

「じゃあ、比較的早めにリセットするか決められるわけだ」

「その分、それまでは常に準備を完璧にしておかなければいけないがな」

「危なくなったら躊躇せず脱出することね。脱出はいつでもできるから」

「その場合、一番無念なのはすべてのアイテムを放棄していかなければいけないことだな」

「補充と一緒に回収班も入れたから、五十階攻略のときはいつもお祭り騒ぎだったわね」

「君たちのおかげで、大物狩りをする猛者たちも増えてきたからな。近いうちに攻略組を編成するイベントもできるかもしれんな。最近じゃ、四十三階層以上も賑やかなもんだ。その手前のレイスのフロアで痛い目に遭う者もまだ多いがね。その先に儲けが待っていると分かって装備に投資する者も増えたから、重傷者は大分減ったかな」

 賑やかなのは何よりだ。

「はい、手続き完了。ご苦労様でした」

 マリアさんは書類をトントンとテーブルに叩き付けて揃えた。

「君たちはどうするんだね? 五十階攻略は」

「一応全員ドラゴンスレイヤーなので、マップ作りをしながら考えます」

「だったらこれを持っていって頂戴」

 地図を渡された。

「個人的な記録だけど、わたしたちが進んだルートが記してあるわ」

「いいんですか?」

「挑戦する者には有料か無料かは兎も角、提供することにしてる」

 有料なんだ。

「君たちがこれまで提出してくれた地図情報に比べれば些細なお返しだがね」

「有り難く使わせて貰います」

「いいかね。強い敵とやりたいなんて思わないことだ。ときに連戦もあり得るのだから、余力は常にな」

 突然、乱暴に扉が開いた。

「大変だ。近衛の連中が!」

 職員のひとりが飛び込んできた。

「言わんこっちゃない! 下層に潜り込んだか!」

「いえ、十層で死に掛けてます……」

「十層?」

「地下十階はヒドラなのです」

 なんで十階なんだと皆、顔を見合わせた。

「冒険者を脅して儲かるフロアを聞き出したみたいで、たまたまその冒険者が知る限り一番儲かる狩り場がヒドラだったようで。ついでにそいつにゲートを開かさせて侵入したようです。なかで順番待ちをしていた他のパーティーからも知らせが参りまして」

「この時間なら狩られている時間だろ?」

「それが、九本首だそうで」

 昔は九本首と聞いただけで躍り上がっていたリオナも今じゃなんとも思っていないようだ。

「仮にも近衛騎士が十五人だろう。心配することは――」

「あの連中に予備知識があったとは思えませんけど」

「回収部位も知らないのです」

 僕たちがそう言うとリカルドさんは青ざめた。

「すまん、手を貸してくれ」

 リカルドさんと僕とリオナは呼びに来た職員と共に迷宮に急行した。

 マリアさんは業務を優先させて居残るみたいだ。

 ゲート前には人だかりができていた。

 リカルドさんは人垣を掻き分けて転移ゲートを踏んだ。

「行くぞ」

 僕たちはゲートの光に飛び込んだ。

「懐かしの十階層」

 十一階層から逆走して入った。その方がヒドラの巣には近かったからだが、状況を聞きたかった連中は反対側の正規の扉の前で屯していた。

「どうなった?」

「分からない。奥だ!」

 大声で言葉を交わす。

 目下近衛は戦闘中のはずだが、どこにいった? 暗闇が硫黄の匂いを引き立たせる。

 ヒドラの巣は結構奥まであって光が届かないので、誘導して手前で戦うのがセオリーのはずだが。

 暗闇に松明が見えた。

「松明で戦闘なんてやる気があるのか?」

 リカルドさんが先行しながら言った。

「でかい敵相手に松明では全容が掴めまい」

 僕は光魔法を飛ばした。

 すると惨憺たる状況が広がっていた。

 半数は既に倒れていて、残りの半数は出口も分からず、半狂乱になっていた。

「転移結晶の使い方も知らんのか!」

 動転して脱出用の転移結晶の存在を忘れているだけだろうが、情けない話である。

 まさか、持たずに来たとかじゃないよな。

 盾持ちが奮戦しているが、どうにか凌ぐので精一杯のようだ。装備だけは一流だから何とかなっているようだが。

 僕の掲げた光に安堵の色が広がった。

「下がれ! 馬鹿共、予備知識もなく戦える相手か考えろ!」

 リカルドさんが怒鳴った。

「うるさい、黙れ! 早くなんとかしろ!」

 それが救出に来た相手に言う台詞か。

 僕は容赦なく明かりを消した。僕たちは暗闇でも敵が見えるが、彼らはどうか?

「わ、悪かった! 頼む! 助けてくれ」

「しょうがないのです」

 リオナが消えた。

 僕が明かりを灯したときには『ヒドラの心臓』のある尻尾を切断していた。

 首の再生ができなくなったところで、僕は『無刃剣』で首をすべて切り落とした。


 撤収と時を同じくして、第一師団の副団長が事務所に迎えに来ていた。

 あの温厚な人物が烈火の如く怒って拘束を命じ、彼らは引っ立てられていった。

 十五人中四人が猛毒で、ふたりが外傷でこの世を去った。遺体は死体袋に入れられ、物としてゲートを通過し王都に運ばれた。

 北方貴族がいなくなって増しになったはずじゃなかったのか? 理由を知れば、少しは同情できたのだが、副団長がリカルドさんと話をしている隙に僕たちは逃げた。



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