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エルーダ迷宮ばく進中(空の城・攻略編)48

 余裕を持って対岸に渡ると、残党狩りに精を出した。

 粗方、建物の構造は分かっていたので、行動は迅速だった。

「こっちは突き当たりだよ」

「了解」

 いくつか不明だったエリアも今回は形が残っているので、ロメオ君の地図作成にも熱が入る。

 昼には少し早かったが、切りがいいので見晴らしのいい場所を選んで、昼食を取ることにした。

 何もなければ美しい場所である。

 群島よりさらに頭一つ抜き出た位置に炎竜が巣にしていた浮島がある。三方向から繋がれた大きな鎖が伸びきっていた。

「若様、あれ」

 オクタヴィアが指差した。

 何かと思って下に見える小島を見ていたら、あることに気が付いた。

 それは水の流れである。

 昨日通ったような水路が群島の隅々まで行き渡っていて、島のいくつかには泉が設けられていた。そして末端だと思われる島からは水が雲海に向けて放出されている。

 それが、いつの間にか止まっていたのである。

「ほお、面白いの」

 エテルノ様が身を乗り出した。

「ああいう仕組みになっておったのか?」

 皆、理解できないでいると、エテルノ様はサンドイッチを頬張りながら解説を始めた。

「飛空艇と原理は同じじゃ。すべてはあの水の流れで決まっておったのじゃ。あの一番大きな島から水がそれぞれの島に供給されておって、それぞれの島がその水量を加減することで、全体のバランスを取っていたのじゃ」

「そうか、昨日はその水路が途中で破壊されたせいで、末端まで水が行き渡らなかったんだ」

「そうじゃ、水が蓄えられねば、島全体が浮力に負けてしまうのじゃ」

「なるほど! 水をあそこで生成して重さを加減してたのね」

「しかもほぼ全自動でじゃ」

 アイシャさんが島々を結ぶ鎖の根元を指し示した。

「あそこが水路の堰になっておるのじゃ。鎖同士が引っ張られれば、下に位置する島は水を放出し、上にある島は水を蓄えるように堰が自動で調節される仕組みじゃ」

「そうか、鎖の引っ張る力がそのまま堰の開閉に利用されているのか」

「それで全体のバランスが取れていたのね」

「凄い発明なのです!」

「そうか、何か昨日の景色と違うと思ったら、池や泉の水量が違うんだ」

 今は炎竜の巣が軽くなった分だけ、バランスを取るために水量を増していたんだ。

「参考になるのぉ」

 まったくだ。迷宮のでたらめな情報もたまには役に立つ。

「要するにあの島にはなんらかの水源が存在する可能性がある。迷宮の曖昧さかも知れないし、巨大な水の魔石かも知れない」

 正解は唯々、滾滾と沸き上がる源泉の湧き水だったのだが。


 難所の正門を突破したので、ここから最後の城まで、小島を渡りながら小競り合いが続くことになる。攻城戦は敵が圧倒的に有利だから、裏を掻きたいところである。

 何せ敵の位置が圧倒的に高い場所にあるので、考えないといけない。

「あれを使うのはどうじゃ?」

 アイシャさんが言った。

 全員が火竜の巣を見上げた。

「あれで乗り込むんですか?」

 ロザリアが嫌な顔をした。

「面白い!」

 エテルノ様は賛成のようだ。

 鎖から解き放ってやれば、城の高さまで昇ることはできる。

 城壁の上に出ることができれば、距離はあるが、転移できない距離ではない。


 食事が終わると一足先に炎竜の巣の小島に行き、穴を掘る。飛行石を見つけ出して、火竜の重さ分削ることにしたのである。

 重量を拮抗させておかないと、鎖を切った途端、どこまでも昇っていってしまうからだ。

 前回のようにチマチマやる気はない。鎖で縛られている以上遠慮は無用であるから、一度にごっそり奪う。

 鎖が伸び切ったままなら、掘った部分に飛行石はない。土砂を空いた穴に戻して次を掘る。

 浮島の構造上、転覆しないためには飛行石は島の重心より上、地表に近い場所になければならない。まして炎竜のような巨体が乗るとなれば、その重心はさらに浅い場所になければならない。

 だが浅いだけなら、島の重さを支えきれずに、飛行石は地面を突き抜けてしまう。当然そうなったら島は落下し、雲海に消えるしかない。

 石は浅い場所にあり、なおかつ頑丈な岩盤に支えられていなけれならない。

 となれば探す場所は簡単だ。

 地表面から露出している大きな岩……

 あのなかにある可能性が大きい。

 僕は慎重に掘り進めた。天井から穴を掘って、すっぽり島が落っこちる珍事は避けたいので、横から掘りつつ、天井部をさらに強固に固めていく。

 魔法で坑道を掘る要領と変わらない。落下してこないように天井を固めるのと同様、外に石が突き抜けないように。

「見付けた!」

 島の大きさからすればとても小さな石だったが、いざ、これを持ち帰ろうと思うと重石になる金塊が足りない。要するに炎竜と同じ重量の金塊ということだが。

『楽園』に用意しておいた持ち合わせをすべて投入しても足りないことは事前に分かっていたので、石の方をカットする。持ち帰る分は重量を相殺してゼロベースに、残りの大半を空の彼方に放棄した。

 回収した分だけでも、ちょっとした小屋ぐらい浮かべられそうだ。


 島のバランスが取れたので、ゲートを開き、みんなを呼び寄せた。掘り起こした土で手摺りを作ってやったのでロザリアも多少安心できるだろう。

 表面の土を少しずつ奪いつつ『楽園』に放り込んでいく。

 島が浮き上がり始めた。

 後は上に辿り着くまで隠れて高みの見物だ。

「見晴らしがいいのです」

「バリスタの矢が狙ってるけどね」

 高度がゆっくり上がっていくと、目の前に大き過ぎる城壁が現われた。


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