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エルーダ迷宮ばく進中(空の城・火竜暴走編)47

 炎竜の肉もいい結果は残さなかった。ドレイク同様、鶏肉もどきだった。

 リオナは撃沈。食卓のテーブルに深く沈んだ。

「あんなにおっきいのに……」

 オクタヴィアが同情したが、肉の味は大きさでは決まらない。

 リオナがドラゴンの肉で口直しを要求したが、うちの料理長は却下した。そもそも夕飯のレシピを変えさせたのはリオナである。自業自得というものだ。

「二日続けて、鶏肉……」

 だから鳥じゃないって。

「炎竜の肉は、炎竜の肉じゃ。他の何物でもない。そう思って有り難く頂くことじゃ。炎竜の肉など、一生掛けても口にできる代物ではないぞ」

 エテルノ様が長老らしいことを言った。

 確かにその通りである。

 理由は前回も言ったが、回収品には優先順位があって、金にならない肉を持ち帰る者などいないということだ。

 勿論、食べてみたら美味かったというのは結果論である。

 持ち帰れる容量に限りがある以上、得体の知れない肉を持ち帰るより、売れると分かっている部位を回収するのが、常識ある判断というものだ。

 仕留めた当人たちがその場でキャンプでも張って、試食するぐらいしか、実食するチャンスは案外なかったりするのである。

 無論、冒険者には解体屋制度がある。が、やはり解体費用や転送させるための魔力を考えるとでかい図体を丸ごとということにはならない。

 まして迷宮ではいらない物は放置しておけば魔石に変わるのだから、なおさらだ。

 ドラゴンの肉は破格の金額で取引されることが既に分かっているからこそ、肉も含めて解体屋に送られるのである。

 現状、エテルノ様が言うように、僕たちは道楽の限りを尽くしていると言っても過言ではないのだ。

 ドレイクの肉も炎竜の肉も、今度の肉祭りには、それぞれの肉としてそのまま出す予定でいる。

 後は料理人の腕次第だ。

 今日のところは鶏のささみだと思って我慢するんだな。その内、この町の腕のいい料理人たちがいい味付けを考えてくれるさ。

「炎竜は炎竜の味なのです」

 リオナ、凹んでいても味は変わらんぞ。


 エテルノ様は約束通り、地下の一室に手を加えることにした。

 行動はエルフとは思えぬ程、迅速なものだった。

 領主館に赴き、姉さんを呼び付け、借り受ける算段をしたらしい。手土産にドレイクと炎竜の肉を持って。

「美味い」とは言わずに「珍しい」とだけ言って手渡したらしい。

 厨房の連中が早急になんとかしないと、使用人たちは当分、味気ない肉を食べることになりそうだ。

 肉のことは兎も角、エテルノ様は自分の研究のためにと言って、姉さんから場所を借りることに成功した。高度な魔法を誰にも見せたくないと言い訳を用意して。

 おかげでハイエルフの禁呪を堂々と展開することに成功したのである。ただし、我が家ではなく道場の地下訓練場の隣、地下の研究施設にである。

 雨天時の訓練場と違って、普段から人が余り寄り付かない場所なので、格好の隠れ蓑だった。

 道場の門下生たちも、以前にも増して、研究施設を気にしなくなった。

「ある程度の量が溜まるまでは、ここで辛抱じゃ。量さえ集まれば、現地の空に実物を浮かべて、以後そのなかで拡張、拡幅が行なえる。我らの野望を叶える日もそう遠くはないぞ」

 元気だな、エテルノ様は。

 材料が集まるまで一任できそうだ。

 取り敢えず持ち合わせのミスリルで物品倉庫並みの小屋を造り、強固なセキュリティーを掛け、希少な物質を収めた。

 鏡像物質の研究も並行して行なうらしい。

「ハイエルフが自由に世界を旅する日が来るかもしれんの。時代錯誤の腐り人などと、もはや言わせまいぞ!」

「そんなこと言われてるの?」

「知り合いの糞ドワーフがな。我と大して背が変わらん癖に、髭が立派な方が偉いと勘違いしてる脳筋でな。あやつはいつも生意気だったのじゃ!」

 そのドワーフの葬式で、誰よりも泣いていたのはエテルノ様だったとレオが僕に耳打ちした。古い友人だったという。

 短命な友人との別れと、長い友人との別れとでは、悲しみの深さはやはり違うのだろうか?

 レオはそのドワーフには孫だけで十六人もいると教えてくれた。

 その内の何人かはレオにとっても大事な友人であるらしい。



 翌日、炎竜に興味を失ったリオナを引き連れて再攻略を開始した。ロザリアといい、戦力低下もいいところである。

 城に入ればロザリアも復活してくれると思うが、やはり足元の下が何もないというのは不安なものだ。

 僕でもミノタウロスが長柄の武器を地面に振り下ろす度に一瞬、冷やっとする。


 ミノタウロスには前回と余り変わらない結果をもたらすことになったが、炎竜には早々に退場して貰った。

 ナガレの一撃で落ちてきたところを、ミノタウロスの連中がタコ殴りである。

「ナーナーナ!」

 獲物を獲られて激怒したヘモジが、ミョルニルを振り回して、島を一つ破壊した。

「あの先に進もうってのに、壊してんじゃないわよ!」と、ナガレに怒られていた。

「もう、自重しなさいよ!」

 なぜか僕の胸が痛んだ。

「あれ? 炎竜は?」

 どこ行った?

「ヘモジ、落っことした」

 オクタヴィアが雲海を指差した。

「ナ……」

「ほんとに?」

「別に食えない肉なんてどうでもいいのです」

 冗談を混ぜながら僕たちは軽快に進んだ。

「でも今夜はドラゴンの肉ドンだそうじゃぞ」

「ドン?」

「どん?」

(どんぶり)だろ?」

 米と一緒に食べる奴だ。なんでも一椀で完結する料理の総称だそうだ。勇者が言ってた。

「どんぶり?」

「器のこと?」

(ぶり)が入っているのか?」

「お茶碗のおっきい奴なのです」

「ああ、あれか」

「あの器がなんだって?」

「取り敢えず、ドラゴンの肉だ!」

「おーっ!」

「サボってた神が帰ってきたのです!」

 サボってたのはお前だ!

 

 そしてようやく、昨日攻略した砦まで辿り着くことができた。

「ハーッハッハッハー。我が向かうところ敵なしじゃ!」

「エテルノ様、顔出さないで!」

 昨日の城門が傷一つなく目の前にそそり立っていた。

 城壁の上からは無数の矢が降り注いでいる。

 戦意を喪失していた昨日とは打って変わって皆やる気に溢れていた。

「どうやってあの石橋越える?」

「オクタヴィアの出番! 頑張る!」

「風通しをよくして進ぜよう」

 エテルノ様が衝撃波を放ったら門扉が吹き飛んだ。

「しまった、やり過ぎた」

 城門の上にいた弓兵諸共、皆吹き飛んだ。石積みの壁だけが残った。

「出番、なくなった」

 オクタヴィアがガックリと頭を垂れた。


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