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エルーダ迷宮ばく進中(空の城・火竜暴走編)45

 すぐにリオナたちは戻ってきた。

「生き残った奴らは次の島に閉じ籠もったです」

 音の届かぬ重厚な扉の向こうに逃げ込んだか。

「『鍵束見付けた』って」

 ヘモジが錆びた輪っかに大きな鍵がぶら下がった重そうな束を持ってきた。

「ん?」

「なんの鍵?」

「この大きさは扉だね。裏口でもあるんじゃない?」

 ロメオ君が見渡した。


「扉、見付けたです!」

 崩れた砦の最下層の床に木の扉があった。

「こっちも見つけた!」

 手前の扉が鍵の一つで開いた。

「おおー」

「武器庫だ!」

 ミノタウロスのサイズでは装備できないが、いい材質の物なら持ち帰ろう。

「お、持てる」

 ミノタウロスの短剣を手にした。僕には長剣もいいところだが『付与魔法』を施したらなんとか持てた。

「でもいらない」

 手入れはどれも行届いていたが、目に止まる物はなかった。

「無骨の限りを尽くしておるの。宝石の一つも出んとは」

 アイシャさんとエテルノ様がふたりして呆れていた。

 リオナが見付けた床下の扉を開ける。

 するとしゃがんで通るのがやっとの狭い通路が現われた。

「向こう岸に渡れるのか?」

「水路でも走っておったのじゃろう」

 盾を持たせたヘモジを先頭に歩かせた。

 こういうときランタンシールドがあると面白いな。

 今はヘモジの盾に直に光の魔石をぶら下げている。

 本人は嬉しそうに盾を振り回しては、その光跡を追い掛けてはしゃいでいた。

 四方を隙間一つない石壁に囲まれた通路を行くと崩れた崖っぷちに辿り着いた。

 戦闘で橋が落ちたせいで、そこを通っていた水路が分断されてしまったようだ。

 対岸の水路から滝のように水が雲海に流れ落ちていた。

 僕たちは引き返して地上に出ることにした。

「橋が落とされておるの」

 炎竜の奴が余計なことをして石橋を崩壊させていた。

 対岸には見上げる程巨大な城門がそびえ立っていた。

 その門扉は真っ黒な焦げ跡が付いている。

「ブレスの跡だな」

 丈夫な扉だ。

 だがそのブレスの衝撃でか、浮島一つ分が傾き、対岸の手前側がわずかに沈み込んでいた。傾いた分だけ対岸との間にわずかな高低差を生んでいた。

「これでは向こうから兵士を差し向けることはできないな」

 一段高いこちらからなら飛び移れるが、向こう岸からこちらに飛び移ることは不可能だ。城壁の上から飛び移るにも城壁は高過ぎた。

「迎撃がなかったわけじゃな」

 一旦、後退したが最後、閉じ込められた格好だ。

 ドラゴンの爪痕が城壁の一部を崩していた。扉からいけないと分かった炎竜は城壁を飛び越えたのだ。

 恐らく飛び立つとき踏ん張ったせいで石橋が落ちたのだろう。

 魔法障壁が効いていたのだろうが、今は機能していなさそうだ。

 ハイエルフの二撃で扉は吹き飛んだ。

 壁の内側は既に破壊尽くされていて、向こう側が丸見えだった。

 同士討ちして果てた骸が点々と転がっている。

 オクタヴィアのおかげで、ひどい有り様であった。

 とはいえ、今はまだ正気を保っている者たちが残っていた。

 城壁の狭間から散発的な矢が降ってくる。が、結界を抜けて来る気合いのある一撃は一つもなかった。

 お返しにハイエルフふたりは城壁ごとそれらを破壊した。

 すいません。回収するときのことも考えてくれます?

「もう、地図どころじゃないよ」

 ロメオ君も瓦礫の多さに愚痴った。

 マッピングするにも部屋ごと潰されていたり、吹き飛ばされたりで原形をとどめていなかった。


 わずかに残った敗残兵を処分すると、ゲートを開いて、次の岸に向かった。

 踊り場的な浮島が三つ、破壊された長い回廊の途中にあった。

 瓦礫に埋まった階段が果てしなく続いている。

「弱音を吐くところじゃな」

 普通に歩いたら、中央の要塞に辿り着くまで半日ぐらいは掛かる道程だ。

 その間、上層からの攻撃に身をさらすはずだった。が、今はない。

 踊り場にある中門前の広場も弓の集中砲火が待ち構える要所だったのだろうが、こちらも今は瓦礫と化して機能していなかった。

 炎竜は回廊の屋根を押し潰しながら、要所を焼き払い、最大の要害に辿り着いていた。

 空から行けばいいものを。


 一々階段を上がってはいられないので、転移を繰り返すことにした。

 そこかしこに魔石が転がっている。

 時間的にアイテム回収は無理か。急がないと魔石まで虚空に消える。

 僕たちは討伐班と回収班に別れた。

 討伐班は残党狩りをしつつ周囲の安全確保。回収班は地図の作成をしながら、アイテムの回収作業だ。

 討伐は遠距離主体のハイエルフふたりとナガレと僕で行なった。リュックのなかで寝息を立てているオクタヴィアは何かあったときの連絡要員だ。

 敵は大分先まで引いているようだった。

 というより先程同様、回廊を分断され、戻って来られなくなっているようだった。

 残っている残党は皆手負いである。

 気合いに任せて攻めてくるが敵ではなかった。

「寝てないから!」

 リュックのなかから声が聞こえた。

 アイシャさんは手で顔を覆い、エテルノ様はこらえきれずに笑い転げた。

 後ろの柱の陰からこちらを狙っている最後の弓兵を、アイシャさんは衝撃波で雲海の彼方まで吹き飛ばした。


「いい時間だな」

 回収時間ももう限界だろう。

「一旦、脱出しよう」

 昼食のために地上に戻った。

 戻ってくるときは五十層から入らないとな。正規の入口の方は惨憺たる有り様だから、もしかすると足場がないかも知れない。否、もしかしなくてもだ。

 炎竜の被害のない裏から行った方がいいだろう。


「いやー、楽しかったのー」

 エテルノ様はすっかり上機嫌だった。

「こんなに楽しかったのは生まれて初めてじゃ」

 随分無駄な人生送ってたんですね。

「アイシャの気持ちがよう分かったぞ。まさにエルフの暮らしは寝て暮らすだけの猫のそれじゃ」

「オクタヴィアも楽しい」

 猫が反論した。

「そうじゃろうな」

 アイシャさんが苦笑いする。


「ナーナ」

 ヘモジがオクタヴィアに野菜スティックを進呈した。

 どうやら美味しい野菜にあたったようだ。

「それにしても迷宮攻略というのは想像しておったものと大分違うの」

 そりゃそうでしょう。まさか、ああいう事態になるなんて、こっちも考えてなかったからな……

「エルリンはいつも自重しろと言われてるのです」

「でもエルリンのせいばかりとは言えんじゃろ? 原因を作ったのはこやつじゃが」

「でも今までで一番豪快だったのは確かだよ。敵を同士討ちさせたのは初めてじゃないし」

「偉かったのは炎竜だったってことでしょ?」

 ナガレが自分の焼き魚をオクタヴィアに分けながら言った。

「ミノタウロスの軍勢もよう戦っておった」

 エテルノ様は長老らしく達観していた。

「まあ、午後からは敵の残党も増えるし、それらしくなるんじゃない?」

 ロザリアは活躍の場もなく、若干拗ねている。

「これで別ルートの扉があれば万々歳だね」

 ロメオ君が肉を頬張りながら言った。

 ない方が嬉しいのだが。


 昼食を大いに楽しんだ後、勇んで向かった裏口から見たものは……

「ないなーい」

「お城はどこ行ったですか?」

 一番大きな浮島がぽっかりなくなっている景色だった。

 群島の多くを引き連れて、消えてしまっていた。



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