インターバル2
前話、タイトル変更しました。
まず空気を内と外で遮断する。これは普段、炎攻撃や毒攻撃から身を守るためにしていることなのでさほど難しいことではない。
そして気圧の差を作り出す。結界内の気圧を下げるにはどうしたらよいか?
正直分からない。
異世界では魔導具を使ったり、熱した空気を密閉容器に閉じ込め、冷ましたりとかいろいろあるらしいが。それでも瞬時にとはいかないらしい。
思い出した! 何か既視感を感ると思ったら、バイブルの勇者も同じことをしていたのだ。彼は真面目に空を飛ぶ魔法にチャレンジしていたのだ。結局、彼も二段ジャンプまでだったが。それでもお城の城壁を越えたこともあった。
城壁越えで思いだした!
『身体強化』のエキスパートが我が家にもいたじゃないか!
エルマン兄さんだ。
兄さんの場合はスキルと装備がメインだけど、身に纏う『魔弾』は身体強化のようなものだ。三連合わせ技で、『災害認定』のお墨付きを貰ってる。
『付与魔法』…… 取得してみるか。
『千変万化』とハイブリットで兄さんの『魔弾』に追いつけるか? いや、あそこまでいかれてなくていい。
よし、決めた。取り敢えず取得する。スキルを育てるよりは苦労しないだろう。
それにしても誰が魔法を教えたのか?
子供たちに聞けばいいか。
目の前に肉をぶら下げられているかのように目をキラキラさせて、施設を見学している子供たちと合流すると、僕は尋ねた。『付与魔法』はどうやって身に着けたのかと?
すると子供たちは口を揃えて言った。
「若様の家に転がってる本を読んだって、ピノが言ってぞ」だそうだ。
ピノは昨日の今日で寝坊してるのか? それとも冒険に出かけたのか? ここにはいなかった。
そんな本あったかな…… 僕が読まずとも、我が家の人間は希少本以外、いつでも書庫の閲覧は可能だからな。帰ったら探してみるか。
そうか、ピノから広がったか。ていうか、あいつエルフ語をいつ勉強したんだ?
我が船上クルーたちはピノを含め、誰も参加してなかった。
そうだ、旅の後片付けをしてるのかも知れない。
リーダーがこんな所で寄り道していてはいけない。
僕は急いでドックに向かった。
「感心、感心」
ゲートを出ると、作業しているみんなの姿が目に入った。
「遅いぞ! 兄ちゃん」
ピノが剣を箒に持ち替えて、格納庫で掃き掃除をしていた。
「もう、砂でジャリジャリだよ」
「後ろの扉全部開けろ。今そっちに飛ばしてやるから」
細かい場所にたまった砂埃を風魔法で巻き上げ、コンテナ搬入用の後部ハッチの方に少しずつ押し出した。
「そういや、『付与魔法』広めたのお前か?」
「え? あ…… うん」
「獣人は魔力がないんだから、無闇に教えるなよ。卒倒したらどうすんだ」
「違うの。ピノが発音の勉強してるのを他のみんなが勝手に聞いてただけなの。ピノが悪いんじゃないんです」
チッタがピノを庇った。
二階の掃除をしていたようだ。チッタとチコが窓の内側の拭き掃除をしていた。外側は外からはピオトとリオナが脚立に乗って拭いていた。
レオが絨毯に浄化魔法を掛けていた。みんな寝転がるところだから家具を寄せて入念に行なっている。
「誰に、教わったんだ?」
「それは……」
ふたりの人物を指差した。ひとりはレオ、もうひとりはリオナだった。
エルフ語で書かれた文章はリオナに読んで貰ったようだ。そして正確な発音はレオに学んだらしい。
「え? そうなの?」
レオは今の今まで、呪文を教えたつもりはなかったようだ。
リオナは知らんぷりをして窓ふきに専念している。
外装は真っ先にロメオ君とレオが水洗いしたようだった。
今はテトが外部点検を行なっている。
オプションの新型推進器は工房のスタッフが点検していた。
ロメオ君が操縦室で、魔石のチェックを行なっている。
今回のオプションは不具合もなく実力を出し切った。問題は接合部の負担だけだ。その辺はスタッフが入念に点検している。
僕たちにできることはなくなったので、後は工房の専属スタッフに任せて引き上げることにした。
来たついでにみんなで工房に立ち寄った。
新しい船が造られるのを見るのはそれだけで楽しいものだ。
長老とアイシャさんがいた。長老におねだりされたのだろう、アイシャさんは不機嫌だ。
「一隻欲しい!」と長老が言ったら、即行で駄目出しされていた。
「あんな目立つ物を里の空で飛ばす気か!」
「そうですよ。隠れ里がもろばれですよ」
レオにも突っ込まれた。
ほんとにこの長老は……
「だったらあれならいいだろ!」
ボードのことだ。
商会は委託販売しかしてないので、オーダーメイドは専門店でやって貰った方がいい。ガラスの棟にある書類に必要事項を書き込めば、誰かが持っていってくれるよ。盾付きが欲しいなら、アガタの店でも書類申請からやっているのでまとめて頼めばいい。
いろんな種類があるから、リバタニアの本店に行くことをお薦めしたいけど。
「おおッ、あれが王国の旗艦かぁ」
長老が見上げた。
完全機密の船体をようやく拝むことができた。
「遂に完成したか……」
僕もロメオ君もテトも感慨一入だ。
たまたま今日、専用のドッグを解体しているところに立ち会えたのである。
船は図面通り、三本の船体部分に分かれていた。今は三本横並びだが、浮上するにつれ、センターが垂れ下がる形で三角形を形成する予定だ。
外側には装甲板が並び、そこに射撃用の回転窓がずらりと並んでいた。鈍重な亀だが、前後左右上下に死角なしだ。さぞや魔石と真っ赤な特殊弾頭が山程積まれていることだろう。
単純に考えても魔石の消費量は僕の船の三倍だ。重量過多を考慮すると五倍以上でもおかしくない。
「あの色でいいの?」
チコが素朴な疑問を棟梁にぶつけた。
「先方からの依頼だからな」
棟梁は言った。
あの王様のことだから、さぞや派手に塗りたくっていると思ったのだが、意外に堅実だった。
船底部分は青みがかった黒に染められ、残り上部は白地だった。どちらも金色があしらわれ、エレガントな装いになっていた。
目立つところは正面中央にある王家の紋章だけである。




