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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第四章 避暑地は地下迷宮
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エルーダの迷宮再び(エルーダ着)9

 僕たちは周囲を池に囲まれ、大きな木が一本だけ生えている小島に出た。

 出入口は大木の股にできた隙間にあった。

「余り水辺に出るなよ。(わに)(ざかな)がいるから噛まれるぞ」

 僕たちは飛び跳ねた。

「誰も寄せ付けないための仕掛けだ。ここの鍵はお前たちの指輪になってるからな」

 そう言うと姉さんは池を凍らせた。

「行くぞ」

 これが池の渡り方?

「氷の魔法はエルネストが使えたな。渡り終ったら溶かすことを忘れるなよ。鰐魚は冷たい水には寄ってこないから心配しなくて大丈夫だ。それより転ぶなよ」と言われたところで僕が滑った。それに驚いたリオナと、ロメオ君が尻餅をついた。

「ごめん……」

 姉さんの冷たい視線が僕たちを見た。

「楽しそうね」

 作り笑顔で嫌みを言われた。

「いくぞ。こっちだ」

 次は蔓が張り巡らされた垂直な壁だった。

「下りるぞ」

 姉さんは飛び降りた。

 僕とロメオ君は慌てて下を覗き込んだ。

 姉さんが下から手を振っている。

 落ちて死ぬほど高くはなかった。でも足の一、二本は逝きそうだった。

 僕たちは蔓草を掴みながら慎重に下りていった。

 リオナは一本の蔓に掴まりスルスルと滑り降りた。

「見ろ」

 足元には見慣れた景色が広がっていた。

「ここって…… エルーダの裏山?」

 僕がかつて薬草を採取した場所だ。

「あの岩の隙間を潜れば、到着だ」

 と言いつつ姉さんは前に進んだのだが……

「あれ?」

 姉さんは挟まった。

 二つの大岩が重なったわずかな隙間に胸とお尻がつっかえた。

 ここを通っていた頃の姉さんは兎も角、成長した今となっては……

「ちょっと、きついな」

 悩ましげなポーズで戻るのにも苦労している。

 ローブのあちこちがはだけて、ロメオ君には目の毒だった。

「魔法使えば?」

「そうだった」

 姉さんは土魔法で岩を通れる幅に削った。スッポンと音がしそうなくらいギリギリの幅を通り抜けた。

「もっと広くすればいいのに」

 荷物を先に送り出すと僕たちは順に岩の間を潜った。

 誰も引っかからなかったところを見ると、このなかで姉さんが一番デ……

 拳が振ってきた。

「ふん!」

 姉さんが大股になって先を行く。

「駄目だよ、ひどいこと言っちゃ」

 ロメオ君が頭を撫でる僕を注意した。

「言ってないよ! デブだなんて」

「あッ!」

 雷が局地的に落ちた。

 僕は咄嗟に周囲に結界を張って、九死に一生を得た。

「死ぬだろ!」

「うるさい、死ね! 馬鹿弟ッ」

 ロメオ君がびっくりしている。

 リオナは気にしていない様子で、トコトコと道をそれて草むらに入った。

「いたです。兎が伸びてるです。あっちにも、こっちにもいるのです! 大量なのです。凄いのです」

 姉さんはリオナの言葉に気がそがれて口籠もった。

「デブじゃ…… 行くぞ!」



「売れたね」

 ロメオ君が嬉しそうに呟いた。

 小兎七匹で一万五百ルプリだった。

 冒険者ギルドの窓口ではマリアさんと姉さんが話し込んでいた。

 その間に兎を売ったお金を持って、僕たちは販売コーナーで脱出用の転移結晶を購入することにした。

 長話をしている姉さんたちに業を煮やしたおっさんが「用が済んだらサッサとどけよ」と言い放った。

 姉さんを知っている冒険者たちは一瞬で青ざめ、距離を取った。

「他の窓口が開いてるだろ? もうろくしていて周りが見えないのか?」

 姉さんはお構いなしに正論を吐いた。

 マリアさんが慌てて仲裁に入る。

 ふたりの会話はそこで途切れて、そのままお開きになった。

 姉さんはこっちに手を振った。

 えー、喧嘩を買ってる最中にこっち向くなよ。仲間だと思われるだろ。

 気にしていないリオナは何も考えずに姉さんの元に走り寄った。

「終ったですか?」

 よほど腹に据えかねたのか突っかかった男はこれ見よがしにリオナに足を掛けた。

 男は笑った。

 だが次の瞬間、リオナはピタリと止まって男を見上げた。

「危ないのです」

 リオナの手には剣が握られていた。

 剣は男の足の甲の上で止まっていた。

「ひっ!」

 男は青ざめ、足を引っ込めた。

「凄いですね」

 ロメオ君はリオナの早業に感激して、僕に耳打ちした。

「余り目立たないでほしい……」

 僕はロメオ君の後に続いて、リオナと姉さんに合流した。

「じゃ、わたしは仕事があるから帰るぞ。ロメオ君もいるんだから余り無茶はするなよ」

 ちょっと、あの男、どうするの!

 姉さんは転移結晶を使ってサッサとその場から消えた。

「遅くならないうちに帰れよ」と柄にもない言葉を残して。


 男は仲間に消えた女の正体を聞かされて青ざめていた。

「依頼どうするですか?」

 リオナが聞いてきたので、依頼内容だけ控えて、すべて後受けにした。

 予定は一階層から地下二階までの三フロアだ。

 この時間なら一階層の新人プログラム用の魔物の狩り場も空いているだろう。でも新人さんが来るまで余り時間的余裕はない。

 解体屋のスペースも借りないといけないから行くことにする。



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