老人の歌19
新しい月に入った次の日、コモド狩りをした翌日、内輪による恒例肉祭りが行なわれた。
住人と招待客のみの参加となった。
招待客はエテルノ様とジータ、たまたま領主館に滞在していた客人と、ヘモジがどうしてもと言って招待した料理研究家のキャロル女史の一行様だけだ。今回は仕事仲間を何人か連れてきていた。
そのためにヘモジは朝から接客に付きっ切りだった。
「本日の目玉はダークドラゴンの肉なのです! 最強の肉なのです! 余りの美味しさに驚くこと請け合いなのです。心して召し上がれなのです」
リオナの開会の挨拶に歓声が沸き上がった。
続いてダークドラゴンの加工前の肉は辛いという情報が発信された。が、サンプルが提供されることはなかった。
実際の味を試したい者たちも多くいたが、加工前の肉が市場に並ぶことはないと長老に宣言されたので諦めるしかなかった。
若干の不満も、肉を口に放り込んだ瞬間、一緒に溶けてなくなった。
驚きを以て迎えられた。
当然、ダークドラゴンの肉に客足は集中したが、予測通り、多めに配給することで対応できた。
会は滞りなく行なわれた。
僕は相変わらずピザ窯の前でピザを焼いている。
残念ながら、空が曇ってきたので早めの閉会となった。
が、すぐに二次会が滝壺の祠で執り行なわれた。
あぶれた者たちはガラスの棟や銘々の家にあつまった。
ダークドラゴンの肉は大盛況だった。
「『ベストドラゴン肉』なのです」
それからキャロル女史の一行から新しい料理レシピの発表があった。
皆喝采で迎える。そして試食用に出された料理がまた皆を唸らせた。
天候以外、大成功であった。
エテルノ様もまるで子供のようにはしゃいでいた。
「美味いの、美味いの」を連発させていた。
恐らくこの町のエルフに対するイメージは大幅に修正されることになるだろう。レオもそうだが、エルフのなかにも腰の低い、話の分かる奴がいると。
さらにカード大会も催された。汎用デッキではないので、恥ずかしい限りなのだが、船の上で散々練られた新ルールが適用されていた。
優勝者には今後発売される汎用デッキの無料引換券が与えられる。
子供たちは全員惜敗した。
長い戦いを制したのはなんと長老のユキジさんだった。
リオナも久しぶりに発散できたようだ。天真爛漫な笑みを久しぶりに見た気がする。
工房では、祭りの間も僕の船のオプションの改修強化と、ジータの中型艇の造船が急ピッチで行なわれていた。
ジータの船はデッキ部分に日除け用の幌を張り、人も運べるようになっていた。少しでも魔石の消費を抑えるために三角帆も付いている。船倉には狭いながらも居住スペースが設けられ、さらに積載重量を増すために『浮遊魔方陣』も一枚増設されていた。
完成まであと二日、距離が距離なのでそう簡単には修理に来れないだろうということで念入りに作業が行なわれた。
その間にジータは持ち帰る土産を選んだ。
保管箱を船倉の一角に常設したので、食材も持ち帰ることができるようになった。
今回の主な積み荷は小麦と、食料だ。
麦を植えるための種籾。ワイン用のウーヴァの苗木と、生きた羊が数頭。
売り物というより、これからクラースとの共同生活をする上で欠かせない生活物資が主な積み荷だった。建築資材や、農耕機具など。
これらは両親を説き伏せるための材料としても必要なことだった。
後は軽くて金になる香辛料や宝石をいくつか買い込んで、今回の経費に充てるらしい。
そして予定の日。今度はエテルノ・フォルトゥーナとアイシャさんを乗せて、勿論オクタヴィアも乗せて出発した。
今回のオプションは前回よりも強力だ。持ち帰った情報を元に計算し直し、更なる無茶に挑むことにした。完全ミスリル製のオプションが二機から四機に増設されることになった。行きはいいとして、やはり帰りの向かい風は問題だ。時間があれば風向きの調査も進むだろうが、今はそれをしている余裕はない。
情報を持ち帰った上で、僕たちには迷宮探索が残っているのだ。
エテルノ様は以前「時間はまだある」と言っていた。ハイエルフが言うところの「時間がある」は人の言うそれとは違う。エルフが感じる時の流れに換算してのことだ。だから高を括っていられた。だが、ハイエルフの歴史に穴があり、数百年単位の誤差があったと言うなら、残された時間は? あるのか、ないのか?
少なくともハイエルフ側はまだ時間があると考えている。あれから現場の監視からの報告もない。
状況は安定していると見るべきか、それとも嵐の前の静けさか。
「オプション装置起動。加速開始!」
おお!
これまで体験したことのない力強さ。出力超過気味だな。
「高速気流に乗ってるみたいだ」
「気流も一緒に流れているなら船体も安全なんだけどね」
今回は自力で飛ばしているのだがら、船体にも無理が掛かる。
それでも複合結界とミスリルの剛性の組み合わせはビクともしない。魔石の減りはもの凄いことになっているが。
悠長に甲板で食事とはいかなくなった。
が、子供たちは充分、流れ去る景色を楽しんだ。
特に……
「おおおおおっ! まるで風のようじゃ! 凄いの! 見ろ! さっき通り過ぎた山があんなところにあるぞ」
長老、大人げない。
現場に到着したのは夜中だった。早速、ジータさんの中型艇を出して、荷物を積み替えた。そうこうしている間に夜が明けて、ちょうどいい時間になった。
今回は遺跡探索のため、ジータにはエテルノ様とアイシャさんが同行することになった。
僕たちはこのまま別ルートで元国境を越え、クラースのいる窪地を目指すことにした。




