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老人の歌17

「そんなに小さく切り刻んだら、肉の味が分からなくなるじゃないの!」

「味わうのは手元の皿だけでいいから。あくまで元の肉の味を試して貰いたいだけから」

 ヴァレンティーナ様は慎重に微量口に運んだ。

「辛っ!」

 口を手で塞いだ。すぐに水が運ばれてきた。

「辛いわね」

「それが本来のダークドラゴンの肉の味だ」

「食べられたもんじゃないわね」

 ドナテッラ様が戻ってくるのを待った。

 恨みがましそうにこちらを見ながら席に着いたところで、もう一皿の方を勧めた。

 僕たち三人がまず手を出した。

「美味しい」

 僕たちは料理人たちの確かな腕に頷いた。

 この短時間に肉に合ったソースを添えてくるとは。

「今度は大丈夫ですよ」

 ふたりは恐る恐る、まず少量を切り分けて口に運んだ。

 辛くないことを確認すると、正常な大きさに肉を切って頬張った。

「んん!」

 ふたりとも目を丸くして固まった。

「何これ?」

 そう呟くのが精一杯だった。

 後は食べ切るまで会話という会話はなかった。

「信じられないわ」

「ほんとにこれはあの肉だったの?」

「間違いございません」とハンニバルが口を挟んだ。

 製法に関する回答は、消音結界が張られた状態で行なわれた。

「光魔法ですって!」

 疑いが晴れないので、実際に、中央の皿の肉に魔法を施して、改めて摘まんで貰った。

「つまり闇属性の成分が辛味を生みだしていると言うことなのかしらね」

「長生きはするものね」

 ドナテッラ様が言った。

「リオナは肉祭りやるのかしら?」

「当然リオナですから」

 ヴァレンティーナ様は溜め息をついた。

「内輪だけにしなさい。外部の者は入れないように」

「何でまた?」

「これ以上、騒ぎを増やしたくないからよ」

「まあ、町の祝祭じゃないから、元々内輪だけでするつもりだったけど」

「うちの店でも出してはまずいかしら?」

 ドナテッラ様が心配した。

「時価で、正規のドラゴンの倍の値段なら構わないわよ。でも製法は店の調理場の者にも知らせないように。うちの厨房の者たちにも口止めを」

「既に」

「ばれないうちに、商会からすべて引き取った方がいいだろう。さすがにそのままの状態では買手も付かんだろうが」

「捨てられる可能性の方が大きいかもね」

「ハンニバル!」

「はっ、急ぎ手配いたします」


「なんで肉のことでこんなに苦労しなきゃいけないんだ」

 それはまあ、ギルドへの上納分を肉で払ってるからなのだが。今回は姉さんではなく、ハンニバルが手を打ってくれると言うので何もしなくてよくなった。

 やっと懐かしい我が家に帰ってきた。

 十日弱の旅だったが、やはり我が家が一番だ。

 ジータはしばらくギルドの宿泊施設を利用することになった。

 説明や登録は済ませてきたので、荷物を置いて、着替えを済ませたら、こちらに来て貰うことになっている。

 それにしても先に帰ったはずのヘモジとオクタヴィアの姿が見当たらない。替わりにうるさい奴が居間で茶菓子を食っていた。

「やー、少年。久しぶりじゃな。エテルノ・フォルトゥーナである。留守じゃったので勝手に上がらせて貰ったぞ。肉祭りをやるそうじゃな。ぜひ参加させて貰うぞ。今から楽しみじゃ」

 何しに来たんだよ、長老。遊びに来たんなら帰れ。

「成果はどうじゃった?」

 アイシャさんがソファーで本を抱えながら言った。

「ダークドラゴンが二体。先方と報酬を分けたので一体ずつですね」

「まさか、ダークドラゴンの肉を肉祭りに出すのか!」

 長老が嬉々として尋ねてきた。

「何か問題でも?」

「うまいのか?」

「今夜にでも試食して貰いますから」

「おお、そうか! ドラゴンの肉をまた食べられるんじゃな」

「長老なんだから、普段からいい物食べてるんでしょ?」

「何を言う、長老なんて質素なもんじゃ。周りはどいつもこいつも食べることに飽きた老人ばかりじゃからな、つまらんわい。わしもここに引っ越してこようかの。一人ぐらい長老が減っても気付きゃせんじゃろ」

「馬鹿を言うな。一番騒がしい奴がいなくなったら誰でも気付くじゃろ」

「それより、カードやらんか? アイシャが相手してくれんのじゃ、オクタヴィアとばかりじゃ飽きてしまう。あやつ、カードも満足に握れんからな。床に手札を置いての対戦じゃから手の内が丸見えで、つまらんのじゃ」

 だったら誘わなければいいのに。オクタヴィアも気の毒に。

「みんなはまだ?」

「子供たちは一旦家に戻ったぞ。リオナもレオも夕飯には戻ると言っておった」

 肉祭りの打ち合わせか? レオはこの面子を見て逃げたんだろうが。

「お帰り」

「お帰りなさい」

 アンジェラさんとサエキさんが食堂から出てきた。

「リオナが言ってたけど、肉はあのまま保存しておいていいのかい?」

 またサプライズを仕掛ける気か。

「ええ、まあ。取り敢えずそのままで」

「昼は食べたのかい?」

「さっき領主館で」


 すぐにジータが来たので、ドック経由で『ビアンコ商会』に赴いた。長老まで着いてきた。

 早速、ドック内で強度不足だったオプションの解体作業が始まっていた。

 テトとロメオ君が手伝っていた。

 僕たちは手を振りながら、そのまま商会のゲートを潜った。

「凄いわ」

「おお、これは圧巻じゃな」 

 王国の旗艦はさすがに見せられないが、第一世代の飛空艇が並んでいる様はまさに圧巻だった。

「なんじゃ、若様まで手伝いに来たのか」

 棟梁がこちらに気付いた。

「別件ですよ」

「エルフのお客さんの話までは聞いとらんが」

「ああ、こちらはアイシャさんの里の長老で――」

「エテルノ・フォルトゥーナである。後学のため見学させて貰っておる」

「てことはハイ……」

 僕は頷いた。

「おほん。それじゃ、そちらが今回ダークドラゴンを商会に卸してくれた南方のお嬢さんかい?」

「はい。ジータ・エミーナです。よろしくお願いします」

「こちらはこの工房の棟梁だ。分からないことはなんでも聞くといい。それで中型艇を見せて欲しいんだけど。商業用のオプションも一緒に」

「ドラゴンを卸してくれたお客には優先的にあのサイズの船も提供できるが? いいのか?」

 ずらりと並んだ第一世代を指して言った。

「彼女の町のそばには迷宮がないんですよ。だからランニングコストが掛からない方がいいんです。それに荷馬車の感覚で操縦できるし」

「確かにでかい船は魔石の消費もおおきいからの」

「いきなり大きな船を任されてもわたしにはどうにもできませんので」

「さすがにひとりでというわけにはいかんな」

 今まで小型艇があった、隣りの建屋には中型艇が並んでいた。

「へー、買手が結構付いてるんだ」

 並んでいる船には様々な紋章、デザインが施されていた。

「やはり使い勝手がいいからの。既に注文数では大型艇を上回っておる」

「問題は材料不足?」

「若様たちに頑張って貰わんとな」

「善処します」

 完成品を見て回った。

「この辺が商業船になる」

 どれもうちの小型の船倉より五割増しの大きさだ。用途によってそれぞれ手が加えられている。座席がある物、居住スペースが付いている物、大きな帆がある物などいろいろだ。

「砂漠を横断するなら居住スペースはあった方がいいの。人の運搬もするなら、甲板に掘り込み式の座席を付けるか? 帆も付けるなら――」

 棟梁の話にジータは頷きながら真剣に見て回った。長老も買うわけでもないのに真剣だ。

 ロメオ君たちの作業も終わり、こちらに合流した。

 そしてなんとか一通りの選択は叶った。

 見てるとこっちも欲しくなるんだよなぁ。

「それよりコモド狩ってこないとね」

 ロメオ君が言った。

「明日休みだから、行ってくるよ」


 家に帰るとヘモジとオクタヴィアがふたり揃ってスヤスヤと寝入っていた。

「畑を見回ってきたらしい」

「今寝たら、夜寝られないぞ」

 夕飯が近づくにつれ、我が家に客人が増えてくる。

 ピノたちを初め、姉さんたち、長老たちが集まってきた。


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