老人の歌13
闇属性の凄い奴だ。ファイアードラゴンに匹敵するが、レベルが高い。
クラースではないが空に逃がしたくはない。あの穴を塞がなくては。
これ以上近付けば、魔力を使った途端、こちらの存在が気付かれる。
ヘモジも一度回収することになる。
「ナーナ」
いきなりぶん殴る気満々だ。
「やる気か?」
クラースが言った。
「そのために来たんですから」
ダークドラゴンなんてレア中のレアだ。ダークドラゴンの肉なんて腹を壊しそうな気がしてならないが、回収しないわけにはいくまい。例の『ドラゴン』にも肉のうまいまずいまでは書いていなかったからな。
そう考えると、うちの連中は余程希有な食い道楽なのだろうか?
『ドラゴン』の情報によると、あいつは魔法にとことん強いらしい。だが一方で、光属性にはめっぽう弱いそうだ。
「あ。いいこと思い付いた」
僕はリュックを漁る振りをした。そしてかつてベヒモスを倒すために作った『眩しい未来を貴方に!(仮)』の残り物を取りだした。
解体する予定だったが、そのままになっていた物だ。ヴァレンティーナ様のところで外側を剥がしたから、光の魔石が剥き出しになっているが、この老人がここに刻まれた術式に興味を持つとは思えなかった。威力を知った後は知らないが。
「ヘモジ、戦闘が始まったらこれを穴のある方に投げるからな」
「ナァ!」
ヘモジが驚いている。
「目が眩んでいる間に好きなだけ殴れ」
「ナーナ!」
なんかわくわくしてる。
「それはなんじゃ?」
クラースが聞いてきた。
「ベヒモスを倒したときの魔道具の残りです」
唖然としていた。
「お前がベヒモスを?」
言葉がないようだ。
「僕ひとりじゃないですけど。少し強力なので下がっていてください。じゃ、行きますよ」
僕は隠遁かまして近づいた。
ヘモジと繋がっているので魔力で察知されることは計算のうちだ。要はその間に距離を詰めて『眩しい未来を貴方に!(仮)』を穴のある方に投げ込めればそれでいい。
ダークドラゴンはすぐにこちらの気配を察した。
長い首をもたげて、金色に輝く瞳を見開いた。
まさに『竜の目』が、魔力の痕跡を追い掛けている。
喉袋が膨らんでいく。ブレスで奇襲をし掛けてくる気だろう。
心の中でタイミングを計る。
三…… 二…… 一……
僕は飛び出して『眩しい未来を貴方に!(仮)』を穴のある壁に投げつけた。
ブレスが吐かれて辺り一面が赤く染まった。
「ナァアアアアアアアアアアア!」
ヘモジの盾がブレスを防いだ。
僕はその場から離れて、身を物陰に隠しながら、ヘモジの結界を引き継いだ。
ヘモジがドラゴンに突撃していく。
「おい、大丈夫なのか!」
「問題ありません」
僕はドラゴンの羽を撃ち抜くために銃を取り出した。
そこで目映い光が炸裂した。
濃厚な光の玉が洞窟全体を覆い尽くした。
物理的にはなんの効果もない光だが、闇属性には圧倒的な破壊力がある。
ダークドラゴンが叫んだ!
狂ったように悶える。
吐き出してすぐ、次のブレスを吐くことはできない。息を吸い込まなくては。
だがそれどころではない。このままでは身体が光に焼き尽くされる。再生能力を全開で働かせながら抗っていた。
迷宮なら魔石が小さくなると嘆くところだが、現実においては関係ない。
『魔弾』を撃ち込む前に、羽に穴が空いた。硬い鱗が朽ちていき、皮膚がただれていく。足の爪が体重を支えきれずに折れては再生を繰り返している。
継続的な光の攻撃を前にドラゴンの多重結界も無意味だった。
が、『眩しい未来を貴方に!(仮)』ももうすぐ効力が消える。
敵の再生スピードも、もはや止まっているのと変わらない。
さすがベヒモスよりは保ったな。だがこれで終わりだ。
突如、現われた巨大ハンマーに掬い上げるように思い切り殴り飛ばされ、硬く尖った壁に打ち付けられた。
叫び、もがくドラゴン。
「ナーァアアアアアッ!」
二発目でドラゴンの頭が壁にめり込んだ。
ヘモジは首を抱えるとへし折りに掛かった。
ドラゴンの下半身が必死に脱出を試みて暴れる。
ヘモジは「黙れ」とばかりに首を抱えたまま振り回して、もう一度壁に叩き付けた。二度が駄目なら三度。
その内、グキッと音がした。
ドラゴンの羽が、四肢が、尻尾がダラリと力尽き床に落ちた。ぐにゃりと曲がった長い首。
勝負あった。
ヘモジは死体を引き摺りながら広い場所まで来ると、いつもの調子で変身を解いた。
「ナーナーナーッ!」
ボディープレスの最中にぽんっと消えると、小さないつものヘモジになって飛び込んできた。
老人は真っ青になった。
「よくやったヘモジ!」
「ナーナーナ!」
「今日はワイルドだったな」
「ナーナ」
腕に力こぶを作るが、レベル一ヘモジの腕には筋肉の盛り上がりなどない。
さあ、状況に置いていかれた老人の感想は如何に?
一息入れようとしたそのときだった。
洞窟が暗くなった。
羽音がしたときには遅かった。
「チビ助、逃げろ!」
クラースが叫んだ!




