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老人の歌8

 バルトゥシェク砦には日暮れ前に到着し、アシャール、コートルー両国の許可証を頂いた。

 僕たちは一気に南下し、かつての対ベヒモス防衛線を目指した。

「早く着きそうだな」

 姉さんも自分の開発した新型『浮遊魔方陣』の性能に満足している。

 余りの速さに目を回していたジータも今は子供たちと一緒に夢のなかだ。船の速さに慣れたかと思ったら、子供たちの装備がどれもドラゴン装備だと知って大騒ぎしていた。

「明日の朝にはコートルーの元『対ベヒモス防衛線』が見えるよ」

 機嫌がよかった姉さんがロメオ君の夜勤を代わってくれた。

 ロメオ君は側の簡易ベッドで寝息を立てている。

 僕は魔石の魔力残量をチェックしていく。

 姉さんは座席を倒して分厚い本を読み耽っている。

 あれだけの蔵書を揃えて尚、読むべき本があるなんて、信じられない。

 やはり横風のせいで姿勢制御用の石の魔力がかなり減っていた。その分オプションの魔力はほとんど消費されていないけれど。

 ボックスの予備と交換しておく。

「明るくなったら高度を下げて、新型の実験データーを取ろうか?」

「どうせ帰りは向かい風だ。このままでいい」

 姉さんがいいと言うなら別にね。


 予定より早くコートルーの『対ベヒモス防衛線』に到着してしまった。

 ここから先は地図がないので、この場で日の出を待つことにした。後数時間だ。

 この先はナビがいる。ジータに起きて貰わないと。

 それにしても速かった。いつぞやの高速気流程ではないが、わずか一日ちょっとでここまで来れてしまうとは。



 朝は静寂に包まれていた。

 まるで吹き抜ける風までベヒモスに食われてしまったかのようだった。

 食事を済ませたテトとロメオ君に操縦を交替して貰って、僕は休む前に甲板で腹ごしらえである。

「風がない」

 ようやく道案内が起きてきた。

「えええッ?」

 手摺りに駆け寄り、足元の景色に腰を抜かした。

 思わず欠伸が出てしまった。

 自分が何日も掛けて旅してきた距離を、たった一日半で移動されれば驚くのも当然だ。僕だって驚いてる。

 子供たちは固まった身体をほぐすために走り回っている。

「落ちるなよ」

「分かってるー」

 頼むよ、ほんとに。

「高いねー」

 チコがお姉ちゃんと景色を満喫していた。

「ナーナーナ」

 ヘモジが朝食の入った籠を運んで来てくれた。

 朝はリオナの調達してきたパンとベーコン、スティックサラダとウーヴァジュースだ。


「どっちの方角ですか?」

「あの山よ。まずあの山を目指して進む。麓に別の小山の頂上が見えてきたら、南東に進路を変える。ちょうどその方角に井戸が見えるはずよ。涸れ井戸だけどね。後はひたすら真っ直ぐ」

 ジータは言った。

「この分じゃ、あと一日かからないんじゃないか?」

「ナーナ」

「東に進路を取るなら向かい風がきつくなるはずだ。風向きが変わってくれればいいけど。高度を下げるしかないか……」

 小山の頂上も高度が違えば、見えるタイミングも違ってくる。当然、距離も狂ってくる。

 早々に新型の速度テストができそうだな。

 食事を済ませると僕はベッドに、船は人の世界から一旦離脱する。



 船が軋む音で目が覚めた。

 予定通りか? 進路を東に切ったのだろう。向かい風に押されているようだ。

「降下完了。姿勢戻します」

 テトの声だ。

「お早う」

「お早うございます」

「お早う」

 ロメオ君とテトの後ろに立った。

 窓の外は相変わらず何もない世界だった。

 これでも生態系は戻りつつあるというが…… 元が砂漠だしな。山もはげ山だし……

 いつ見ても風が吹かなければ、時間が止まっているかのようだ。

 が、ポツリと何かが見えた。

「井戸か?」

「そうみたい」

「風向きは?」

 木の葉でも揺れていれば風向きも分かるというものだが、一々デッキに人を出さなきゃならない。そこで空に小さな凧を揚げて貰う。


『南風、五分の一』

 伝声管からピノの声だ。

「了解」

「進路固定。南風五分の一と……」

 若干のカウンターを掛けつつ、進路を定める。

「魔石の確認、異常なし」

 テトが言った。

「じゃあ、行ってみようか!」

「新型『浮遊魔方陣』作動!」

 開いた窓から外のオプション装備を眺める、魔力に反応して輝き始めた。

 連結部のアームが音を立てた。

 上のキャビンでも子供たちが騒ぎ始めている。

「加速します」

 徐々に速度を上げた船は高高度を飛んでいたときより地面が近い分速く感じた。

 あっという間に井戸を通り越した。

「最大です」

「魔石は?」

「お金を捨てながら飛んでるみたいだね」

「ほんとに?」

「もう四分の一使ってる」

「道理で速いわけだ」

「一個分消費したら、通常航行に戻ろう」

「了解」

 それまでに必要なデーターを取る。項目は棟梁が事前に用意してくれているので、その通りにこなせばいい。

 テトを残して、ロメオ君と手分けする。

「伝導ワイヤーの発熱…… なし」

「船体の歪みも想定内だね。でも接合部の音はよくないね。負荷が大き過ぎるかも」

「連結ワイヤーが限界だ。ああ、奥の一本緩んでないか?」

 連結フレームが歪んだせいだ。

「今は修理できないよ。アームの剛性の確認をした方がいいかも」

 向かい風の影響か?

「テト、ゆっくり速度を落とせ」

『了解』

 しばらくすると歪みが消えてワイヤーの張りも直った。

「テト、今の状態を記録」

『了解』

 速度は二割減といったところだった。


 それからは何ごともなく順調に航行し、一昼夜を掛けて死の世界を突っ切ることに成功した。

 そしてさらに半日、いよいよ目的の元ローラシエナ王国国境に到着した。


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