老人の歌7
『攻撃力五。持ち札に「リオナ」「ヘモジ」「オクタヴィア」飛空艇チームとピノチームの札があるとき、「おやつの時間」ですべて召喚可能。敵の場にある場合、同カードはすべて即退場。更に残り札のなかに同カードがある場合、二枚選んで引ける』
これによって「リオナ」のカードは即退場。代わりに持ち札にあった「ヘモジ」「オクタヴィア」と組にならない獣人子供カード、合わせて四枚を場に出した。配置は基本自由なので、「ヘモジ」と獣人カード二枚を前に「オクタヴィア」を後ろに置いた。
そして残り札を見て選ぶわけにはいかないので、レオが代わって上から順にめくりながら該当するカードを二枚抽出した。
次のピオトは察しただろうか?
これはピノなりに考えた罠だと。「オクタヴィア」を囮に、恐らく次のターンで最後の一枚の「エルリン」を切ってくる。うまく行けばこれで「ヘモジ」が再召喚され、「ヴァレンティーナ」を退場させることができる。
「リオナ」と「ヴァレンティーナ」を同時には倒せないから、持ち札的にこれがベストなのだろう。
ただ、「ヴァレンティーナ」は解説の字数以上に強い。攻撃力十八という数字が並みの一撃では倒されないことを表わしている。このままでは「オクタヴィア」も「ヘモジ」も同時に退治されてしまうだろう。
問題は幼いチコが同時に仕掛けられた罠に気付けるかということだが、どちらにしてもその前にチッタがいる。こちらは間違いなく仕掛けに気付くだろう。
ピオトもまたこのタイミングで「ヴァレンティーナ」を倒す算段を繰り出さなくてはいけない。
だが、そこで出したのは姉さんのカードだった。
『攻撃力二十。「範囲魔法」で攻撃力が残っている限り、同列攻撃可。後衛攻撃可。「エルリン」を「お姉さんの威厳」で退場させられる。ただし、「範囲魔法」か「お姉さんの威厳」かは一つしか選択できない』
「エルリン」が既に二枚出ていて、尚且つ一枚をピノが持っているなら、持ち続ける必要はないと判断したのだろう。
これで「ヴァレンティーナ」を破壊することに成功するが、今度は「レジーナ」が脅威になる。
攻撃力二十っておかしくないか?
とはいえ、どちらも「無効化」はないので手数で倒せる。
チッタ、チコ、テトの攻撃でピノの「オクタヴィア」までは退けることに成功したが、「ヘモジ」が倒しきれなかった。
順番になってヘモジが悩む。悩むところではないのだけれど。自分のカードを倒すべきか唸っている。身体をくねらせながら「再召喚」が見たいという欲求と葛藤していた。
どうでもいいところで長考。見逃した場合のリスクを考えているのか?
「まだ二枚あるじゃないの」
ナガレの横槍で霧が晴れたような表情を浮かべた。
「ナーナ!」
「ヘモジ」とピノの残ったカードにとどめを刺した。ヘモジのカード以外、場にはもうカードは残っていない。
今から仕切り直すのは難しそうなので全員がパスをした。
一回戦の勝者はヘモジになった。
「人数が多いから陣形を作る前に倒されてしまうんじゃないのか? ゲームバランス的にどうなんだ?」
僕がナガレに疑問を投げかけるとナガレは答えた。
「カードが三セットもあれば大味になるに決まってるでしょ。手札が減れば面白くなんのよ。回復薬だって全然使われてないじゃないの」
要するにまだ序の口と言うことか?
どう考えても六人でやるもんじゃないと思うんだけど?
だが期待を裏切る二回戦が始まった。
二回戦は逆回りでヘモジから始まる。最初の一巡は攻撃不可である。
ヘモジはポンタ婆ちゃんの長老カードを出した。
『攻撃力二。「井戸端会議」で手持ちの長老を場に四枚まで召喚できる。会話が「白熱」して一枚に付き場にある該当カードすべての攻撃力二倍×枚数』
「ポンタ長老」を場に置くと手札にある同じ長老のトレド爺さんのカードとユキジさんのカードが追加された。
トレド爺さんのカード。
『攻撃力四。「井戸端会議」で手持ちの長老を場に四枚まで召喚できる。「腐れ縁」で場にある他の長老のポイントが攻撃力に加算される。(「白熱」がある場合、「腐れ縁」が優先されるが、「白熱」には反映されない)』
ユキジさんのカード。
『攻撃力三。「井戸端会議」で手持ちの長老を場に四枚まで召喚できる。さらに「回覧板」で残り札のなかから長老を二枚呼び出せ、場に置くことができる(取説参照)』
『カードスキルにより場の制限枚数以上の手札が手に入った場合、手札に加えることができる。その場合、どのカードを手札に戻すのかは自由』
二枚引いたら「ホッケ長老」と「トビ長老」だった。
ホッケ婆ちゃんのカード
『攻撃力二。「井戸端会議」で手持ちの長老を場に四枚まで召喚できる。「トビ長老」が隣にいると「おしどり」効果で同時に倒されない限り復活する』
トビ爺さんのカード。
『攻撃力二。「井戸端会議」で手持ちの長老を場に四枚まで召喚できる。「ホッケ長老」が隣にいると「おしどり」効果で同時に倒されない限り復活する』
さすがおしどり。効果も一緒か。
二枚揃ったので「おしどり」効果発動。といきたかったのだが、枚数制限でどちらかを手札に。
ヘモジは「トビ長老」を手札に戻した。
全部で四枚だから、八倍。ポンタ婆ちゃん、トレド爺さん、ユキジさん、ホッケ婆ちゃんの順で、攻撃力は十六、三十二、二十四、十六だ。
さらに、「トレド長老」には全員の素の攻撃力を足した分、七がさらに加算され、三十九ポイントである。
「ありか?」
「ありよ」
一回戦とはまるで違う様相を呈してきた。
テトがカードを置いた。
「お守り」が初めて場に出された。
『アイテム効果で、次のターン、指定した列のダメージなし(重ね掛け不可) もう一枚場における』
テトも長老カードを四枚揃えた。そしてその列を「お守り」でガードした。
面白くなってきた。
みんな隠し球を投入してきたな。
「操縦室に行かなくていいの?」
「あ、そうだった!」
僕は急いでロメオ君の元に急いだ。
そう言えばロメオ君のカードもまだ出てなかったな。
退屈凌ぎにはちょうどよかったが、気が削がれるのはよろしくない。
とはいえ、一日中砂漠の景色を眺めてうんざりしなくてもいいのだからよしとしておこう。「ごめん遅れちゃって」
「聞こえてたよ。今、流行ってるみたいだね。『ご乱心』カード」
「町のなかだけでしょ。ヘモジとかピノとか、知らない人には何のことだか」
「汎用版が出るらしいよ。因みに『エルリン』は『御曹司』だってさ」
「ほんとに? じゃあタイトルは『御曹司ご乱心』か?」
「そうなるね」
ロメオ君は笑った。
見渡す限りの砂漠。大気のうねりを具現化した砂のアートも延々と見続ければ飽きるというものだ。
毎度のことだが、魔物でも出てこないかな。
「そろそろ全力出してみる?」
「そうだね」
船は高度を上げて行った。今までの最高到達点を超えた。と同時に風を捉えた。
「おお?」
「流されてる!」
押してくれるのはいいが進路を右方向に流される。
立て直すと共に、風向きを記録する。
「新型使わなくてもいけるな」
「使ったからこの高さまで上昇できたんだよ」
「そうだった」
「加速してみる」
自然の力には勝てないというか、加速してもこれ以上速度は上がらなかった。




