老人の歌6
六人でやるから三セットだそうだ。結果的に残り札だけでも相当積み上がっているのだが。当然ひとりではシャッフルできない。
序盤だけ見たらロメオ君の所に行こう。
因みに今回のサバイバルモードは公式通り三回勝負らしい。持ち札はひとり二十枚だ。審判は順番待ちのレオが務めるようで、カードを順に配り始めた。
まずは当たり障りのないカードから、一巡目は相手のカードを取ることはできない。それぞれが場にカードを出していくが、揃って「召喚」カードを出してきた。ぞれぞれの場に複数のカードが並ぶが、どれも数字の低い物ばかりだ。ただし「攻撃無効化」カードでもあるので、次のターンにはそれなりのカードを出さなければ突破できないだろう。
最後のヘモジだけは残り札からカードを引く選択をした。エンリエッタさんのカードだ。
『攻撃力十八。攻撃力が残っている限り、連続攻撃可。「エルリン」以外の「無効化」カードを破壊可。すべての攻撃を三回無効にする。「召集」で残り札からカードを二枚引くことができる』
さすが師団長いいカードだ。後衛を攻撃できないだけで完璧だ。だが、出る杭は打たれる。
子供たちの一斉攻撃を食らって退場させられる。弱い攻撃力でも一回は一回だ。五人掛かりなら最低でも五回攻撃を受けることになる。最初の三人が弱い前衛で攻撃を仕掛けて、無効効果が消えた所で残りのふたりが攻撃力十程度のカードを二回当てた。
ヘモジは動じない。
今度はサリーさんのカードを出して、無効化のない攻撃力十のカードを破壊した。
『攻撃力十七。攻撃力が残っている限り、三回攻撃可。すべての攻撃を三回無効にする。残り札に「ルチア」がある場合、手札に加えられる』
「ルチア」のカードが三枚も手札に加わった。
「ええ?」
一瞬驚いたが、そうなのだ。二人対戦と違うところはここなのだ。三セットの組みカードで戦っていると言うことはすべての札が三倍なのだ。
僕はここでこのゲームの核心を手に入れた。ヘモジが正しいと。
残り札が多いうちに、引けるカードは引いてしまうのがいいのだ。特に召喚相手が固定された札の場合。勿論プレイヤーの数も五倍なので既に手札になっている確率も五倍だが、当たればでかい。失うカードは場に一枚しか出していなければ常に一枚で済むのだから、ローリスクハイリターンだ。
もっともこれは一敗もまた覚悟しなければならない戦法でもある。攻撃に転じたとき果たしてたった一枚のカードで構築された場を一気に刈り取ることができるかどうか。
ヘモジはこのターンを捨ててカード集めに走るのだろうか? すべてのカードを使い切ったところで戦えそうなら戦闘開始といったところか。
ただそういった安易な予測を崩壊させるカードもまた三倍紛れている。「ご乱心」カード、とんでないことになりそうだ。
火消しのカードも三倍入っているが、その内混乱することだろう。どのカードが何枚消費されたかなんてすべて覚えていられるものか?
二回目ともなると警戒が薄れるようで、「サリー」討伐は後続に任せて、一番手のピノ、二番手のピオトは自分のしたいことを始める。強いカードを後衛に配した。
状況が見えている三番手のチッタが「サリー」に対応するが、自分だけというのは気に入らないらしく、二回攻撃できるカードで攻撃するに留めた。
四番手のチコは姉の仕事の続きをこなして同じく二回攻撃。当然倒しきれないので、五番手のテトが無難なカードでとどめを刺すことになった。
ヘモジは「ルチア」を一枚場に出した。
『攻撃力十五。攻撃力が残っている限り、連続攻撃可。すべての攻撃を三回無効にする。後衛攻撃可』
そして無効化がついていないテトのカードを退場させた。
図に乗ったのはピノとピオトである。薄っぺらい前衛に強力な間接攻撃持ちを後衛に配し、手薄なチコとチッタを手当たり次第に連続攻撃。ポイントの少ないふたりの前衛カードは一枚ずつ剥がされた。
これで怒ったのはチッタとチコだ。誰のおかげでヘモジの攻撃を防げたのかと。こうなったら連携なんてあったものではない。
チッタはヘモジを相手にするのは止めてピノとピオトを倒すことに決めたらしい。
そしてなんとここで「リオナ」カードを登場させた!
『攻撃力十四。攻撃力が残っている限り、二回攻撃可。「エルリン」以外の「無効化」カードを破壊可。「隠遁」効果ですべての攻撃を三回無効にする。隣に「エルリン」がいると「ご乱心」発動(取説参照)』
ピノの前衛を無効化破壊で殲滅した。
慌ててももう襲い。ピノの順番はまだ遠い。
ピノは叫び声を上げた。
そして次のチコがカードをテーブルに叩き付けた。
「ご乱心モード発動!」
初めて見る「ご乱心」である。
『攻撃力十五。「結界」効果ですべての攻撃を十回無効化する。後衛攻撃可』に加えて『攻撃力二倍。攻撃力が残っている限り、連続攻撃可。「無効化」カードを破壊可。倒されるか「リオナ」が場から退場するまで効果は維持される』が加味された攻撃が場を蹂躙する。
前衛のいないピノの後衛は一撃で消滅。続けてピオトの前衛もこれまた殲滅。攻撃力が三十もあるとこれが可能になる。
さすがにその後ろのカードまでは消滅できなかったが、ポイントは二しか残らなかった。
悔しがるチコ。ターン終了である。
一気に場が寂しくなったな。
嵐のなかで場に札がないことで一番平静でいられたテトが冷静に対処した。
オクタヴィアのカードを置いた。
『攻撃力一。「使役」の効果で相手の場にある札を一枚、退場させられる』
チコの「エルリン」カードが退場させられた。
おっと、これはミスか? 余程「エルリン」が怖かったのか、ここは「リオナ」の方を退場させるべきだったのではないか? そうすれば「エルリン」の「ご乱心」は解除されたはず。
いや、それだと無効化十回の壁が残ってしまうのか。否、やはりミスだ。ここは「エルリン」を残すべきだった。後続にそれに対応する強力な札を出させるために。
そしてヘモジ。
どうでもいいカードを一枚、後衛に据えると、場の「ルチア」を使って「リオナ」を二回攻撃して無効化を解除してターンを終える。残った攻撃力でポイントを削らないところが、我が召喚獣ながらやることが狡い。
これで誰かが十四ポイント分を投入しなければならなくなったからだ。それもチッタの前の一番目か二番目がだが。
踏んだり蹴ったりだな。
ピノはぴったり攻撃力十四のカードで「リオナ」を粉砕してターンを終える。
これで「ご乱心」は残り二セットになった。
ピオトのターン。ヴァレンティーナ様のカードを出した。
『攻撃力十八。「次元断絶・無双撃」で「エルリン」以外の「無効化」カードを破壊可。後衛攻撃可。「カリスマ」で残り札から二枚引ける』
ヴァレンティーナ様のカードでヘモジの「ルチア」を攻撃、消滅。さらに手札を二枚加えてターンエンドだ。
チッタも同じくヴァレンティーナ様のカードでピオトのカードを倒して、同じく手札を二枚加えた。
チコは悩んだ末に「エルリン」を置いた。
「二枚持ってたのか!」
ピノは天を仰いだ。
「リオナ」のカードがなきゃ、役立たずだ。そう落ち込むな。
テトが長考した。
そして無難なカードを一枚場に出した。
なるほど「リオナ」を持っているね、君は。
ヘモジも無難に収めた。
ピノの番だ。さすがに悩みどころだ。
場にはチッタの攻撃力十八のヴァレンティーナ様のカードと攻撃力十四で無効化三回のリオナカードがある。
「ヴァレンティーナ」を単独で倒せるカードは「レジーナ」「オクタヴィア」以外存在しないし、「リオナ」は無効化三回だ。「無効化」を無視できなければこちらも一撃では倒せない。
「これしかない!」
考えた末、出したのはアンジェラさんのカードだ!




