エルーダ迷宮ばく進中(メッセンジャー)34
巨大な盾にウォーハンマー持ちがこのフロア最後の相手だ。
巨人ソウルが出てくるかと思ったのだけれど。背の低いドワーフソウルが出てきた。
門番のソウルの方が怖そうだった。
「まずは先手!」
アイシャさんに続いて衝撃波を放つと障壁が見えた。
ドワーフがエルフ並みの障壁とはさすがに迷宮仕様だ。
「まず障壁を破らないと駄目か」
「ドワーフの鎧って必要?」
ロメオ君が疑問を呈した。
「ドワーフの子供だけ仲間はずれにする気?」
「ドワーフ装備のドロップ品なんて滅多にないから喜ぶわよ」
ナガレとロザリアはそう答えたが、僕ならこう言う。「ドワーフなら子供でも自作する」と。
「ドワーフなら足は遅いのです! 障壁は任せるのです」
ソウルだから関係ないと言おうとしたが、実際遅そうだった。
リオナは銃弾を浴びせながら容易に近づく。
「三枚?」
障壁は三枚だ!
ナガレが雷を三発、撃ち込んだ。
障壁は剥がされた。
ヘモジが突っ込んだ。
ロメオ君が魔法で援護しながら、障壁の復活を阻止し続けた。
ヘモジはミョルニルを兜に叩き込む。
が、盾で受けきられた。
ソウルは連続した動作でバッシュをヘモジに叩き込んだ。
今度はヘモジが受け流した。
「本体は盾じゃないな」
障壁が一枚復活したので、ナガレがすぐさま潰した。
ヘモジが二撃目を放つもこれまた受けきられた。
だが、今度はリオナがいる。
懐に飛び込んで斬り付けた。
「右腕でもない」
「右足も違うわね」
「それにしても硬いの」
リオナの攻撃を鎧の装甲そのもので防いで見せた。
ヘモジがもう一度アタックする。
ソウルは盾で防ぎに来た。
リオナが背中から襲いかかるが、敵もそれを読んでいる。
ハンマーを振り抜いてヘモジを払いつつ、盾でリオナを殴りに行く。
衝撃波が両手を振り切って無防備になった敵に放たれた。
ソウルの身体が空中に投げ出された。
さすがアイシャさん。絶妙のタイミングだ。
だがこれで敵のどの部位にも本体がないことが分かった。
残るはハンマーだけだけれど。
うちで鈍器を使うのはヘモジだけなんだけどな。ミヨルニルがあるからな。予備の衝撃用装備として『楽園』に放り込んでおくか。
それともピノたちに貸してやるか。スケルトンには剣より鈍器の方がいいだろうからな。
だが、数撃後、それも違うことが判明した。
「まさかね」
どこかに本体が隠れているはずだ。
手の空いている者が周囲の物を破壊して回った。
樽やら木箱やら、数はなかったが、どこかに本体が隠れていやしないかと思って探した。
「どこにもない」
リオナが執拗に敵の足元に向けて銃弾を放っていた。
ヘモジも狙いを足に絞って攻撃を仕掛けているようだった。
何か見付けたのか?
「音がする」
オクタヴィアが呟いた。
「鎧のなかに何かある!」
「鎧のなか?」
ロメオ君たちが一斉にこっちを向いた。
「そういうこと……」
周囲を探していた全員が納得した。
そして皆、獲物を狙う目に変わっていた。
「溺れさせてやれ」
アイシャさんがそう言うので僕は穴を掘った。
ドワーフは容易く穴に落ちた。
ナガレが水流で腰まで水浸させたところで、敵の障壁が一枚復活した。
だが終わりだ。
僕とロメオ君、アイシャさんにナガレ、ロザリアまで雷を叩き込む用意ができていた。
「さらばじゃ」
視界が奪われる程の目映い光がソウルの浸かった水溜まりに落ちた。
水は一瞬で気化して、爆発四散し、霧となって広がった。
さすがのドワーフの甲冑も内側から吹き飛んだ。
反応が消えた。
「とことん頑丈な鎧ね」
四散したにもかかわらずどれも原形を留めていた。が、細かいベルトや、ヒンジはいかれてしまった。
「やり過ぎた」
急速冷凍しながら甲冑を冷やし、一応、回収を試みた。改修費次第だが、高いようなら諦めよう。
足具のなかからドワーフの命、鉄を打つための、ごく平凡な鎚が出てきた。
柄は既になく、足具の内側に木片がこびり付いていた。
残ったヘッドを見て思わずみんな苦笑いした。
「隕鉄だ」
どうして他の部位が隕鉄じゃないんだと不満たらたらである。
足具の内側をきれいに洗い、木片を取り払ってから『楽園』に放り込んだ。
「なんだろうね」
ボスらしいボスは火山蟻だけだった。総合的に無茶苦茶強かったけど。
「お宝ないわね」
「お宝ってのは大概脇道にあるもんだ」
上手く含蓄を含めた物言いをしたつもりだったが、そんなものは一瞬で消えた。
出口の扉、脱出部屋への扉の周りの壁にびっしりと落書きが。
『運がよかったな』
『この先、最悪の罠あり!』
『足元に注意!』
『今度こそドラゴンが!』
『もはや生きて帰さん!』
『おめでとー、これで君も勇者だ!」
『だが、この扉を開けた瞬間、愚者になる!』
情報のおかげで先が分かっていると、これほど馬鹿げたコメントはないものだ。
「うわっ」
脱出部屋のなかまで落書きでいっぱいだった。
「よし、本日の攻略はこれで終了だ!」
「ご飯なのです!」
僕たちはゲートを作動させた。みんなが次々ゲートに入っていく。
そのとき、僕とアイシャさんの視線が一点に注がれた。
足元の紫色のゲートの明かりに照らされた天井に描かれた落書きだった。
なぜかそれだけはインプのものではない気がした。
『時間がない。急げ!』
僕とアイシャさんはゲートの明かりに包まれた。
僕たちはゲートの出口で立ち尽くした。
「そこ、急いで退きなさい」
門番に注意され、我に返った。
「見たか?」
聞かれたので僕は頷いた。
「エテルノにもう一度、確認させよう」
エテルノ・フォルトゥーナはエルフの里の長老のひとりだ。
例の穴に関する期限について間違っていないか、確認を改めて取ることにした。
僕たちにはあの落書きが監視者からのメッセージのように思えてならなかった。
遅めの食事を堪能すると、マリアさんのところにマップ情報を売りに行くロメオ君の班と、クヌムの武具屋に行く僕の班とに分かれた。
当然のことながら、自分のエルフ用甲冑に注文を付けるアイシャさん以外、全員、マリアさんの驚く顔を楽しみにロメオ君に同行した。
僕もあっちに行きたかったのだけれど、物を持ってるのは僕だから仕方がない。後回しにしてもよかったのだけれど、あっちはあっちで長丁場になるだろうから遅れて行くくらいがちょうどいいだろう。
武具屋に着くと、早速、ソウル品一セットを前回の注文より大きめのサイズで発注した。すると前回発注した二セットが戻ってきたので受け取った。
そしてドワーフの装備一式が直るか、値段はいか程掛るか尋ねたところ、問題ないようなので、修理を依頼することにした。
ソウル品ではないが、初級迷宮用としてなら充分だろう。
そしてアイシャさんのエルフ装備だ。
ドワーフ装備より傷は浅いので修復は問題ないそうだ。
ソウル品もアイシャさんの嗜好に合わせて発注を行なった。
他の部位も着る予定はないようだが、一応自分のサイズに微調整して貰うことにしたらしい。
代金が前回の後金も含めて結構な額になっていた。
『楽園』に備蓄している魔石を幾つか取り出す羽目になった。
遅まきながら冒険者ギルド事務所に向かった。
扉を開くと、まだ窓口の奥のテーブルに目立つ連中が居座っていた。
「端から見ると珍妙じゃな」
子供ばかりの集団だった。それも小物を抜きにするとリオナ以外、全員魔法使いといういで立ちだ。その向かい側でマリアさんが青い顔をしながら接客してるのだからほんとに妙な景色だ。
「エルリン、来たのです」
リオナに見付かった。
僕はマリアさんに会釈して、最寄りの談話コーナーの椅子に座って傍観を決め込んだ。
マリアさんだけでなく、側耳を立てていた他の職員も火蟻のくだりを聞きながら、真っ青になっていた。回避不能で正面突破となったら、確かに青ざめるしかないだろう。おまけに狭い通路に逃げ場はないと来ている。
「ベストタイミング」
僕が呟くとアイシャさんが笑った。
ほんと間に合ってよかった。




