エルーダ迷宮ばく進中(メッセンジャー)33
レンタルで貸し出すのも気が引ける特化した性能。着る者の戦闘スタイルを変えさせかねない少々厄介な代物だ。付与だけなら僕たちの装備とほぼ同等。素材が悪いので防具そのものの耐久性は低いが、その辺は加工次第で、ステータスをいじれば付与レベルにあった敵とも戦えるようにもなるだろう。
ただ、借りていた者がいざ自分の装備を購入する段になって、同レベル帯の物を要求するようなら、目を回すことになるだろう。
いっそ祭りの景品にでもするか? いや、参加者は冒険者ばかりではない。
「やっぱり肉の方がいいか?」
「肉?」
リオナ、反応早すぎ!
「こっちの話」
「まさか祭りの景品にでもしようと言うのではなかろうな?」
ばれた?
「祭りの景品というのは程よいレベルがちょうどよいのじゃ。血眼になって競うようなものでは祭りが楽しめなくなる。処分に困るようなら飾っておけ。そのための宝物庫じゃ」
いい案だと思ったんだけどな。愚行に思えてきた。
無理に処分を考えるくらいなら、言う通り飾っておくか。誰か装備が傷んだときにでも、買い換えの繋ぎにでもすればばいいだろう。
気が楽になったところで、次のソウルがやって来た。
だが、こちらの一撃であえなく昇天した。
「クヌムの町を知らない冒険者にとってはソウル品もそうでない物も同じなんだよね」
ロメオ君が本体を僕に手渡した。
「そうなんだよね。加工してレアレベルなわけだけど。お、一セットできあがった」
「あれはあれだけで充分レアなのよね」
「加工したら買手付かなくなるのです」
その可能性大だな。
「普通のパーティーならこぞって欲しがると思うんだけどね」
「ヘモジも重い物は着たがらないしな」
「ナ?」
「そろそろ部屋の前だ」
門番発見。
「光ってるわね」
「ミスリルか……」
門番らしく襲いには来ずに待ち伏せていた。
「格好いいのです」
「凝ってるわね」
上級者特有の相手を威圧する見事な鎧だ。兜には大きな金属の羽根飾りが生え、目以外を覆うフェイスガードは燕の顔のようだった。羽を模した肩当ては大きめだが、胴を初め、全身は細身だった。手足も長く、それは人族の物ではなかった。
「エルフ……」
目の前の甲冑はまさしくエルフ体型だ。
上品な殺意が漂う。
おまけに二刀流ときてる。
アイシャさんとリオナがやる気満々だ。
「問題は実力が見合っておるかじゃ」
「切り刻んでやるのです!」
ロメオ君とロザリアが溜め息をつく。
ロザリアはふたりに加護を与えた。
いきなり魔法の撃ち合いになった。
アイシャさんの衝撃波を結界で弾くと、お返しに風の刃で切り刻みにきた。
それを僕が悉く弾き返すと、挨拶は終わったとばかりに身構える。
敵は消えた。
が、リオナが蹴り飛ばした。
態勢を崩したソウルが姿を現わしたところにアイシャさんが一撃を加える。
ソウルは撃ち込まれた右腕を気にすることなく、左の剣で薙ぎにきた。
リオナがアイシャさんを斬り付ける左腕を低空から切り上げた。
ついでに片足を切りつけたが、どれも浅かった。
アイシャさんは近距離から胴当てに衝撃波を放つが、結界がまた邪魔をした。
「任せるのです!」
リオナが連撃をかました。前回よりも深手だ。
アイシャさんが、初めて見るステップを踏んだ。『妖精の水渡り』だと後で教えられたが、
懐に容易く踏み込むと今度こそ一撃をかました。
カランカランと二本の剣が床に落ちる。
「こえーっ、高速戦闘」
「ナーナ」
ヘモジがガードを解いた。
リオナとアイシャさんが剣を鞘に収めながら戻ってくる。
「あの鎧、妾の部屋の前に飾りたいのじゃがよいかの?」
「着るんじゃないんだ」
「あやつの敗因は鎧を着たことじゃ、あれだけの速さと結界があるなら、身軽な方がよい」
あの、ソウルですからね。甲冑着ないわけにはいかないんですよ。
「あのステップはなんですか!」
リオナが早速食い付いた。
が、「足が長くなければ無理じゃ」と無茶苦茶な理由で指導を拒否られた。
通称『妖精の水渡り』
エルフ特有の加速術だ。『ステップ』の連続を一連の動きとして昇華したもので、地面に足を着くタイミングで発動する技だ。
『ステップ』は大概、蹴り足で発動するものだが、それを両足で交互に行なうのだ。
正直難しい技だ。『ステップ』自体が前のめりになりやすい技だから、姿勢を維持するのが難しい。それを連続でとなるとまさに神業。おまけにその状態で戦闘をこなすのだから、脱帽である。
「本体どうします?」
「結構傷が付いたからな。修繕ついでにお願いしよう」
リオナとヘモジが早速まねしようとしているが、なんだかな。そもそも『ステップ』できんだろ? それじゃ酔っ払いの千鳥足……
回収を済ませるといよいよ最後の扉に侵入だ。
『引き返せ!』
『ドラゴンだぞ! 入るな!』
『何もいないよー』
『床に注意!』
『天井注意!』
因みに最後の部屋の敵はめちゃくちゃ堅いソウルである。情報ではそうなってる。討伐方法は『ある程度戦って駄目なら出口に飛び込む』だそうだ。
扉を開けると、今度はドワーフが待ち受けていた。
「本物はもっと格好いいのです」
何を基準に言ってるのか知らないが、見るからにドワーフが作りそうな無骨な鎧だった。




