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エルーダ迷宮ばく進中(メッセンジャー)32

「地図発見!」

 最後の一枚が手に入った。

 既にある情報と照らし合わせて中心エリアの地図だと確認する。

「先達に感謝だね」

 情報は大旨正確だった。

「このフロアもマリアたちが検証するのじゃろうな」

「大丈夫かな?」

「ソウルは兎も角、火蟻のエリアはね」

「エルリン、ちょっと、本がいっぱいあるのです」

 リオナが蜘蛛の巣を払いながら奥から出てきた。

「本?」

 本と聞くとロメオ君とアイシャさんもじっとしていられない。

 一旦地図を丸めると僕たちは奥に進んだ。

 奥の小部屋の一角に本棚が置かれていた。

 ロザリアに明かりを照らして貰いながら背表紙の確認をする。

「どこにでもある本じゃな」

 アイシャさんが言った。

 本は基本高価だから、回収しておくか……

「ん?」

 落書きがある。

 矢印だ。矢印の方角に視線を向けるとサイドテーブルの上にランプがあった。

 油は入っていない。魔導具とも思えないが。

 サイドテーブルを寄せるも特に何もない。

「ん?」

 柱と壁の間に隙間がある。よく見ると柱と漆喰が剥がれている。

 柱を見上げ、梁との繋がりを確認する。やはりこの部屋の天井を支えているわけではなさそうだ。

 僕は柱を押した。

「うわぁあ」

 ロメオ君が叫んだ。

 全員が視線を向けた。

 ロメオ君が立っている隣の壁が奥に開いた。

 何もない部屋の中央に木製の台座が置かれていた。

 台座の上にあったものは一冊の希少本だった。タイトルは『ドラゴン』

 思わず唸ってしまう。

 その装丁は厳重で鍵付きだった。

「鍵を探さないと」

 全員で探すが、そのような物は見当たらなかった。

『迷宮の鍵』を初め、みんなの持ち合わせの鍵でも開かなかった。

 アイシャさんは本をじっと睨み付けた。

「どこかで……」

 突然思い立ったように手前の本棚に戻って何やら探し始めた。上から順に背表紙を追い掛けていると突然、指を止め、なかの本を引き抜いた。

「あった!」

 アイシャさんが選んだ本のタイトルは『竜の鍵』

 本を開くとなかに金色の、それだけでも価値のありそうなドラゴンの装飾が施された鍵が収まっていた。無駄に大きな鍵だった。鍵になる部分は小指一関節程もないのに柄の部分は手のひらに収まりきらない程大きかった。

「なんで分かったですか?」

「ナーナ」

「ご主人、凄い!」

「昔、流行った仕掛けじゃ。秘密の扉の手前に本棚を置いて、鍵になる物を隠しておく。入室を許された者は特定の単語や文章を与えられ、それを紐解くことで入室できるようにする仕組みじゃ。今回はもろに鍵じゃったが、本が仕掛けと直結しておるスイッチになっておることもあるし、本棚が扉になっておるケースはよくあることじゃな」

 早速、本の鍵を開けた。

 アイシャさんが入念に頁を開く。

 沈黙のなか、頁をめくる音だけが聞こえる。

「面白い。これはドラゴンの百科事典のようなものじゃ。生息する場所、特徴、生態などが事細かに書かれておる。『魔獣図鑑』にない情報ばかりじゃ。ドラゴンスレイヤー様々じゃな」

 僕が見て、ロメオ君が見て、みんな一周して再び僕の手に。

「ギミックでないことを祈ろう」

 これだけの仕掛けをギミックのために用意するとも思えないが。

 僕たちは地下を脱出すると探索を再開した。

 廃墟を脱した辺りに朽ち果てた馬車が置かれていた。御者台にソウルではない兵士の遺体が転がっていた。着ている装備はソウルの物と酷似していたが。

 脇に置かれた鞄に書簡の入った筒を見付けた。僕たちはなかを覗き見た。

 どこかの国の指令書だった。

『王宮書庫から盗まれた希少本を取り返せ』という内容だった。

 どうやらこのフロアのソウルは探索にきて、返り討ちにあって、死んだ兵士の成れの果てらしい。アイテムを回収できずに時だけが過ぎて、その名の通り魂だけになってしまったわけだ。

 希少本というのはもしかするとあの本のことか? だとするとあの家の住人が犯人と言うことか。

 裏の設定を顧みつつ、僕たちは先へと進んだ。

「罠があるよ」

 事前情報に感謝しつつ罠を通り過ぎる。

「あれも罠ですか?」

 リオナが振り返る。

「草結びだ。草同士を縛って足を引っ掛けさせる単純な仕掛けだな」

「他の罠と合わせると、危ないよね」

 ロメオ君が笑った。

「調子に乗って走り回るなということよ」

 ナガレがリオナをたしなめたところで、ヘモジが転んだ。

「……」

 見なかったことにしてやろう。

 この草原スポットが一つの罠と考えるべきだろうな。敵が生きていれば、それなりの脅威になったことだろう。

 小さな草原を越えると通路の入口が見えてきた。

「後は入り組んだ通路を越えたら出口だね」

「最後の部屋が気になるわね」

「そこまでは何もないということじゃろ?」

 通路の大きさから見て、いてもソウルだ。

 落書きも少なくなっている。ここまで来る冒険者をからかうのは無理だと判断したのだろう。

 僕たちはマップ情報と手に入れた地図を交互に見ながら先を行く。

「その角、罠――」

 もの凄い音がして、兜が転がってきた。

 頭のない鎧がびっこを引きながら現われて、頭を拾い上げた。

 デュラハンかと思ったら、間抜けなソウルだった。罠に掛ったようだ。

 衝撃波でもう一度バラバラにしてやった。

「まったくどっちのための罠なんだか」

 反応がまだある。本体は…… どこだ?

 ばらけている籠手が動き出した。ヤドカリのように指をまさぐって、自分の身体の一部を探し始めた。

 リオナとヘモジがすぐに踏ん付けた。

「本体は?」

「まさか……」

 天井の梁に刺さっている長剣か?

 衝撃波を当てたら抜けて落ちてきた。

「避けろッ!」

 剣が跳ねて暴れた。

「動かなくなったです」

 暴れていた籠手も動きを止めた。

「これはいい。ソウル品の剣とは」

 改造が楽しみだ。

「そういえばリオナ、あれはどうした?」

「あれ?」

「雷の剣。このフロアに入ってすぐ手に入れた奴」

「だめだめだから装備部屋に転がってるのです」

 ソウル品でもなかったしな。

「売っていいんだな?」

「リオナはいらないのです」

「レンタルにしたら?」

 ロザリアがそう言うので備品に加えることにした。ピノたちが使うことがあるかも知れないしな。

 さてソウルも後数体だ。

 前のフロアーより楽だった気もするし、大変だった気もする。

 ただマリアさんがまた泣くことになることだけは確かだ。いっそ火蟻のエリアは進入禁止にしてしまうとか。でも『煉獄』付きの武器は魅力的だしな…… あれのソウル品が手に入ったら言うことないんだが。

「敵なのです」

 移動が早い?

「軽装か?」

 間の通路に罠はない。

「来る!」

 意外にも重装備のハンマー持ちだった。

「魔法付与!」

 エルマン兄さん張りに身体強化を掛けている? だとしたら……

 アイシャさんの衝撃波が襲った。が、かざした盾にガードされた。

「盾が本体じゃないことは分かったのです」

 衝撃が結界を襲った!

 一瞬で間合いを詰められた。ナガレやロメオ君が二撃目を入れるタイミングを逸した。

 それにこの力…… 『完全なる断絶』でなかったら抜かれていた。

「気を付けろ、こいつは格上だ」

 アイテムの回収は諦めて、全力で対処しなければ危ない相手だ。

 ヘモジを盾に全員が後退して陣形を立て直す。

 ヘモジは盾で必死にガードしながら持ちこたえていた。

『無刃剣』を叩き込んだが、かわされた。が、ロメオ君の氷の槍を足に食らった。

 動きが止まった。

 ナガレが雷を落とし、ヘモジがミョルニルを振るった。完全に麻痺したソウルに衝撃が走る。が、装甲が厚い。まだ健在だ。

「これでとどめなのです!」

 リオナが『煉獄の籠手』を叩き込んだ。

 重厚な鎧が燃え上がると床に沈んだ。

「結構役に立つの」

 アイシャさんがとぼけた。

 僕は煙をくゆらせ、本体確認をする。

 本体は足具だった。付与は『脚力上昇』三割、『体力強化』三割だった。

「三割強化でも無茶苦茶強かった気がする」

「それだけ素地が高かったと言うことじゃろ」

「これ加工したらどうなるのかな?」


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