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エルーダ迷宮ばく進中(メッセンジャー)31

『気を付けろ! 危険!』


 いきなり床に仰々しい落書きがある。と思ったら正面から矢が!

 結界で弾いたが、隠れる場所がない。全員、側壁に張り付いて息を飲む。

「敵か?」

「違う?」

 リュックのなかのオクタヴィアが答えた。

「罠?」

 ロザリアが前方に明かりを飛ばす。

 正面の壁に穴が空いている。

 あそこから飛んでくるのか。

 側壁には柱があり、通路側に迫り出していた。その部分を通過するには通路の中央に身をさらさなければならない。そうすると矢が飛んでくるわけだ。

「スイッチがどこかに……」


『スイッチなどない!』

『ご愁傷様』

『天井にも注意しろ!』

『隠し通路があるぞ』

『角に敵がいる!』

『この先行き止まり』


 落書きが通路の至る所にあった。しかもどれも嘘である。

 ヘモジなら突角でも身体を中央に晒すことなく移動できると、送り出した。

 柱を二つ越えた先にハンドルを倒すタイプのスイッチがあったが、今度は身体のサイズが災いして手が届かない。

 ヘモジはミョルニルを引っ掛けてスイッチを切って戻ってきた。

 遠くで音がして、罠が止まった。

 念のため障壁を展開しながら一気に曲がり角まで移動する。

 落ち着いたところで周囲を見渡した。


 落書き以外、隠し通路も敵も何もなかった。

「音がする!」

 突然、リオナが耳をそばだてた。

 オクタヴィアがリュックから出てきた。

「いる」

 僕たちは先を進んだ。通路を折れると突き当たりに扉が現われた。

「罠はなさそうね」

 ロザリアが新しい光源を扉に向けた。

「ナーナ」

 扉は開くらしい。

 ヘモジは盾を構えながら開けた扉を越えた。

「敵の反応がない」

 小声で呟く。

「また探知スキルが遮断されてるのかな?」

「音はするのです」

「羽の音」

「まさか羽蟻か?」

「灯りだ!」

 しばらく進むと迷宮には珍しく、誰かが住んでいるかのような雰囲気のある場所に出た。通路の床を松明の明かりが照らしていた。

「音が僕にも聞こえるよ」

 ロメオ君が言った。

 僕たちがそっと明かりに近づくと羽音がやんで静まり返った。

 気付かれたようだ。

 だが、仕掛けてくる様子がない。それどころか未だに反応がない。

 僕たちは松明に照らされている扉を調べ、その先に飛び込んだ!

 衝撃波でぶっ飛ばす!

 そこは小屋の一室だった。何の変哲もない狩猟小屋だ。

「なんでこんな場所に?」

 狩りに使う罠が天井からぶら下がっていた。

 狩人がいる様子はなかったが、隣りの部屋に何かいる気配を感じた。

 オクタヴィアが梁の上から、ヘモジが床の低い位置から隣りの部屋を覗く。

「インプ!」

「ナ!」

 ふたりはすぐ首を引っ込め、驚いた顔でこちらを見た。

「落書きの犯人が分かったの」

 アイシャさんが言った。

 僕たちは隣りの部屋に入った。

 天井の梁からたくさんの鳥籠が吊るされていた。

 近付くと、それが銀の魔導具であることが分かる。なかに閉じ込められていたのは頭に角があり、背中に羽の生えた、灰色の幼児体型をした魔物だった。

 インプが十数個の籠に分けられ閉じ込められていた。

「こいつらが?」

「そういう設定なんじゃろうな」

「ということは、ここの主がいたずらが過ぎる魔物をここに閉じ込めたと」

「触らん方がいい。こう見えても魔物じゃからな」

「複雑な気持ちです」

「教会の敵じゃぞ」

 見付かったと分かると籠のなかで暴れてキーキーと泣いた。

 だが、籠に魔法が掛っているのか、インプの姿は見えども反応がない。

「ナー?」

 ヘモジは首を捻ると、小屋の持ち主の物だろう側にあったボロボロの靴を籠に向けて投げた。

 籠とインプを擦り抜けて奥の壁にぶつかった。

 擦り抜けたッ!

「これって……」

 チョビたちのクエストのときと同じ、映像という奴だ。過去の記録という奴だ。

「少しは良心の呵責が和らいだか?」

「そういうつもりじゃ……」

「子供の姿をしておれば大概可愛いものじゃ、此奴らはそれを利用しておるだけじゃ」

 小屋の主も含めて既にこの世にはないという設定なのだろうか?

 僕たちは先を進んだ。

 マップ情報に記録されていないところを見ると重要視されていなかったのだろう。恐らく過去の冒険者たちは落書きを見破る呪文を手に入れられなかったに違いない。


 小屋を出ると大きな空洞に石造りの町並みが広がっていた。道に沿った柵に足元を照らす松明がくくり付けられている。そのわずかな灯りが町の全容を浮き上がらせていた。

 僕たちの進む先はこの廃墟の上り勾配を越えた向こう側にあるはずだ。

 廃墟の家々は石壁以外、天井も扉も朽ち果てていた。

「反応があるのです」

 反応も何も、明らかにソウルだ。甲冑の音が洞窟内に反響している。

「不味いわね。数が多いわよ」

 ナガレが言った。

「壁に隠れられると厄介じゃな」

 衝撃波を防がれてしまうか。

「罠が道に沿って結構あるよ。建物の間とか。僕たちは余り動かない方がいいよ」

 ロメオ君が地図を見ながら警告した。

「それじゃ、いつも通りで」

 オクタヴィアが笛を吹き、ロザリアが空洞の天井高くに光源を放った。

 一気に周囲が明るくなり、敵はこちらを捕捉した。

 僕は接近を警戒して、ここに至る二つの道に落とし穴を設置した。

 ソウルが一斉にこちらに向かってくる。

 弓を放ってくるソウルがいたので、リオナが銃で吹き飛ばした。

 敵は坂道を必死に下ってくる。

 アイシャさんは敵が近づくのを待っている。

 魔法が横から飛んできた。

 道を避け、建物の裏を隠密裏に進んできた一体が仕掛けてきた。

「アサシンタイプだ」

「リオナが――」

「罠がある! 接近させて!」

 建物の隙間を抜けてきたソウルは短剣の切っ先をこっちに向けて突っ込んでくる!

 そして空いた手で目眩ましの魔法を一発、放とうとした瞬間、吹き飛んだ。

「うわっ!」

 地面が爆発した。

 アサシンタイプ沈黙。バラバラに四散した。

 回収するのが大変だ。

 魔力の高まりを感じた。

 アイシャさんが広範囲に衝撃波を放った。

 隠れる場所のなかった大半のソウルは廃墟の瓦礫諸共、吹き飛んだ。

 仕掛けられていた幾つかの罠が連鎖して作動した。

 隠れることに成功した連中が再び接近を開始する。

 僕たちは各個撃破の態勢に移行した。

「折角、落とし穴を作ったのに」

 どうやら一体も落ちずに終わりそうだ。

 中央の井戸端を抜けて来る一体がいた。左右どちらかの道に分かれると思いきや直進してきた。

「やっていいですか?」

 リオナが聞いてくる。

『煉獄の籠手』を使う気か?

「右、殲滅!」

 ロメオ君が言った。

 後は左側二体。

 衝撃波が二体を襲った。

 後ろにある小屋の朽ちた屋根が吹き飛んだ。

「左も終わりじゃ」

 後は中央のみだ。

 リオナが動いた!

 敵も道なき道を迫ってくる!

 最後の柵を跳び越えようとした瞬間、ソウルの身体は後方に強い力で引っ張られるかのように弾け飛んだ。

 地面に落ちると炎が舞い上がる!

「バーニングなのです!」

 ロメオ君が溜め息をついた。

「リオナちゃん行きだね」

「ソウル品だったらサイズが変えられたんだけどな」

「アガタに調整して貰うしかないね。それでもリオナちゃんには大き過ぎるだろうけど」


 僕はソウルのドロップ品の回収に道沿いを一周する。

 十数体分の装備が手に入ったが、ソウル品は一セットにもならなかった。部位が被り過ぎたのだ。ミスリルもめぼしい物もなく、大はずれである。

 廃墟にはいろいろ落ちていた。朽ちることのない装飾品や宝石、朽ちた鍬や、絵のない額縁。

「宝箱、見付けた!」

 オクタヴィアが教えてくれた。

 発見したのはリオナとナガレだ。向かいの家の前で手を振っている。

 僕たちは急いだ。

「地下室か? 階段は死んでるな」

 人の重さを支える強度はなさそうだった。

 足で崩して魔法で代わりの階段を作った。

「罠はないようだ」

 部屋に罠がないことを確認すると宝箱に迫った。


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