エルーダ迷宮ばく進中(メッセンジャー)29
通路を進むと、一方通行の扉に出た。
出た先は本流の天井が高い通路の梁の上だった。
「ここは!」
丸太トラップがあった場所だ。
「いる!」
トラップに掛ったソウルの死体と魔法を使うアサシンのようなソウルがいた場所だ!
反応は二つ。一体はまだ墓穴を掘ってはいないようだった。
丸太トラップはまだ生きているのか? そもそも丸太トラップは固定か?
手前の通路を巡回する反応がある。
こちらに気付けば罠の場所を通過するはずだ。が、ここから罠のある場所は覗くことができない。
梁の脇から下を覗き込もうとしたら、魔法が飛んできた。
結界で弾くが、どこから撃ち込まれたのか分からない。
リオナの一撃で容易く倒せた奴だが、今、リオナはいない。最悪、梁の上に登らせないように結界で押さえ付けている。通路のどこかに隠れているのは間違いないのだが。
「あそこ」
オクタヴィアが耳元で囁く。
罠に近い柱の陰に隠れていた。
もう一体の敵が接近してくる。そして……
ガッシャーン。
今回は丸太じゃないなと、音で分かった。あれは金属同士がぶつかった音だ。
「一体死んだ」
オクタヴィアが教えてくれる。
「ヘモジ、下りられるか?」
「ナーナ」
魔法で牽制している間にヘモジにとどめを刺して貰おう。
「行くぞ」
僕とロメオ君が魔法を撃ち込んだ。稲光で視界が塞がれている間にヘモジは飛び降りた。
ソウルはヘモジに反応していた。
僕は援護をロメオ君に任せてヘモジの後方に飛び降りた。
ヘモジとソウルが接触する。ヘモジの盾が敵の魔法を食い止めた。
ソウルは短剣による近接攻撃に切り替える。
だが、ビクともしない。代わりにヘモジのジャンプしてからのシールドバッシュを食らった。
吹き飛んで壁に突っ込んだ。起き上がろうとするが、ふらふらだ。
ミョルニルの強烈な一撃が敵をバラバラに砕いた。
反応は消えていないが、これでもう仕掛けては来られないはずだ。
突然、魔力の高まりを感じた。
「ヘモジ、頭だ!」
「ナ!」
ミョルニルで兜を殴り飛ばした。兜は音を立てながら遠くに転がっていった。
「下りて大丈夫かな?」
梁の上からロメオ君が声を掛ける。
「もういいよ」
「反応消えた」
いつの間に飛び移ったのか、オクタヴィアがロメオ君の肩の上にいた。
階段を作りながら下りて来る。
「本流の突き当たりだね」
突き当たりに最初の地図が出た宝箱があった。
「また地図が出るのかな?」
「落書きはないみたいだね」
「罠もないな」
僕は万能薬を飲んだ。無理して飛び降りたので足が痛かった。
「空だったりして」
充分その可能性はあったが、一応強力な施錠がしてあるので何かしらあると期待した。
全員が見守るなか宝箱を開けた。
「あう…… 地図だった」
でもそれは地下の地図だった。
「コンプリート?」
「かな?」
ロメオ君がすべての地図を床に並べていく。
「真ん中がないね」
真ん中はギルドの攻略情報として既にあるのだが、たぶん今後通過する過程で手に入ることだろう。
「じゃ、出ようか?」
「ナーナ」
「そうだった。罠に掛ったお馬鹿が一体残ってたんだ」
全員が絶句した。
鋭利なスパイクの生えた金属板に、通路の両側から押さえ込まれてぐしゃぐしゃに変形している、一体分の甲冑セットが転がっていた。
「これって気付かないものなのかな?」
どう見ても罠だと分かりそうなものだが。
「それより、これ」
オクタヴィアがパンパンと甲冑を叩いた。
「本体か?」
足具を覗き込んだら本体だった。
「変形してるけど、直りそうかな?」
一応回収しておいた。
「そうだ!」
ロメオ君がマップに情報を書き加えた。
「位置固定、ランダム罠……」
僕たちはクヌムに出向いて、人が着れないサイズの装備を売り払った。
買い取って貰えるのか興味津々だったが、普通の鎧の値段で買い取って貰えることが判明した。地上と違って、素材以上の値段で買い取って貰えるのは有り難かった。
着られない装備は基本、放置してきたが、今後、良質な装備が出たときは考えておこう。
後は『楽園』に保管したままになっていたソウル品だ。
レンタル仕様にするために、ワカバ用に作ったサイズから順に大きくなるようにサイズを揃えて発注に掛けた。全身セットで二セットぐらいにしかならなかったが、取り敢えずこれでいいだろう。
今日手に入れた魔石と、さっき売り払った代金分を含めて一緒に前金として渡した。火山蟻から取れた魔石(大)が大いに役立った。
明日、後金で魔石(大)を幾つか渡せば取引終了だ。
「よーし、昼にするか」
「ナーナ!」
「お昼! ごあん!」
ふたりは上機嫌で飛び跳ねた。
「今日はご機嫌だね?」
ロメオ君が笑った。
「ほんと、何が楽しいんだか」
「何食べたい?」
ロメオ君がふたりに尋ねるといつもと変わらぬ答えが返ってきた。
「『野菜サラダとホタテ』だって」
「あの食堂もいつの間にかホタテ料理を普通に出すようになったもんな」
「オクタヴィア様々だね」
「『海猫亭』の行商事業がうまくいってるのかな? 海産物を使った料理も多くなったよね」
「ナーナ」
シーフードサラダも人気だって?
「そうだな」
店に入るいつもと変わらず賑わっていた。休日で遊びに来てるのは僕たちだけだからな。
「今日は小さいテーブルでいいか?」
「兄ちゃん!」
ピノたちがいた。
「今日は四人なの?」
「今日は休み」
タンポポがオクタヴィアを抱きたがったが、オクタヴィアは逃げた。
「やり残したことを消化してきただけだ」
僕たちは相席させて貰うことにした。ヘモジとオクタヴィアは膝の上だ。
今日の付き添いは…… 村の冒険者でマルローの従兄弟らしい。回収品を律儀に『銀団』のギルドハウスまで預けに行ったらしい。
思わず「後で精算すれば」と言い掛けたが、ピノたちには便利な荷物運びがいなかったんだと思い至った。荷車引いての移動だろう。
「ご注文は?」
店員が来たのでいつもと変わらない注文をした。
僕とロメオ君は日替わりだ。
帰りにギルドハウスに寄ってノーマル装備一式を卸したついでに、食後のお茶でもして帰ろうかと企んでいたので、オプションは加えなかった。さすがに大入りの食堂で、長居は気が引けるからね。おまけにこちらは休日だ。
「レオ、これを使え」
僕はこっそり、簡易式の荷車キットを渡した。キットと言っても『浮遊魔方陣』とそこに繋がるワイヤーとハンドル部分の黒檀の棒だけだが。後はレオが適当な床面を魔法でこしらえればいいだけだ。
「馬車代も馬鹿にならないからね。あっ、それから…… いや、いい」
『浮遊魔方陣』は定期的に登録し直さないと、盗難防止対策で使えなくなるのだが、それは今まで通り僕がすればいいだろう。
ちょうど料理が来たので、食事を楽しむことにした。
それから僕たちはギルドハウスに向かい、荷物を捌くと、ケーキとお茶のセットをいただいた。
「ナーナ、ナーナ」
「美味しい、初めて食べる味!」
『マギーの店』のチーズケーキだぞ。いつも他人の皿の分まで食ってるだろ!
「あれ?」
酸っぱみが足りない気がする。
職員がチーズの配合率を変えたと教えてくれた。
オクタヴィアが僕の顔をじっと見据えて舌舐めずりをした。
「すいません、ケーキお代わり」




