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エルーダ迷宮ばく進中(メッセンジャー)25

「半端だな」

 もうちょっとしっかり崩して貰ってから、攻撃すればいいのに。

 僕たちは魔法で足場を掛け、半端に穴の空いた壁を乗り越え、向こう側に降り立った。

 火蟻より一回り大きい、蟻が転がっていた。死んだ今となってはオレンジ色に燃えるような外見的な特徴は残っていなかった。

「なるほどこういう仕掛けになっていたのか」

 毛色の違う火蟻は池の中州に閉じ込められていたようだ。

 泳いで渡れそうだが、水が苦手だったのか?

 鎖が掛った吊り橋が下りていた。これで道が繋がったようだ。

 僕たちはすぐに出口を探した。

「宝箱発見!」

 中州の窪みに置かれた箱をロメオ君が見付けた。

「さっきの蟻はこれの番人か?」

「だったらいい物、入ってそうだね」

 宝箱を開けた。

 なかに布きれが一枚入っていた。

 何これ?

『認識』スキルを働かせる。

「巨人用の完全防火マントだね。防御力も他の付与も何もない」

 人用に加工すれば四、五着できそうだった。

 耐火十割はそれなりに魅力だけど、ドラゴン装備を着込んでいる身としては遅きに失した感がある。誰か着るかな? 欲しい人はいなさそうなので我が家の宝物庫に置いておくことにするか。

 赤土の壁をぐるりと一周したが出口がない。

「またか?」

 地図とにらめっこするがよく分からない。

 登れそうな壁もない。

「ナーナ」

 カーン!

「当たった」

 ヘモジとオクタヴィアが何をしてるのかと思ったら、空に向かって石を投げていた。

 どこに投げているんだ?

「あれだッ!」

 アイシャさんの声に全員がそれを見た。

 池の外にポツリと立っている傾いた角材のてっぺんに吊されている鐘。巨人にはちょうど手頃な高さに見える。

 消えた燭台かランプだと思っていたら、小さな鐘だった。

「遊んでるところ悪いが」

 アイシャさんがそう言って風の魔法を当てた。

 カンラン、カンラン……

「敵に見付かったのです!」

 リオナが叫んだ。

「見付けて貰ったのよ」

 ナガレがリオナの手を引いて、敵の進行方向にある壁から引き離した。

 ドーン! 衝撃と赤土の粉塵と共に壁に大きな穴が開いた。

「ご苦労さん」

 巨大甲冑は一斉攻撃を受けて、その場に沈んだ。

 あの火蟻の世話係か、飼い主だったのか。

 その割りには部屋への入口がないのはどうしたことか?

 長芋のような鉄の棍棒が転がっていた。

「うわっ、痛そー」

 ついさっき回収したラージシールドを以てしても、痛そうだった。

 殴られたら絶対腕もげるわ。

 ロメオ君が地図に情報を書き足すのを待って僕たちは前進した。


 後、反応は二つだな。少々上り坂がきつくなってきた。と思ったら分岐が現われた。

「右に行ったら、地図のあった場所に出るよ」

 ロメオ君が言った。

 僕たちは左に曲がり、エリアの外周に沿って進んだ。

 どうやら反応の一つは宝箱へ続く通路の妨害担当だったらしい。

 僕たちが左に逸れていくと、その反応は遠ざかっていった。

 やがてエリアを一周したらしく、最初の鉄の扉を入った辺りの上層に辿り着いた。

 最後の反応があった。

 クイーンが出てくるのかと高を括っていたら、人工の四角い部屋に出た。

 クイーンにも、巨大甲冑のソウルにも明らかに天井は低かった。

「火蟻ではないのです」

 いつになくリオナが低い姿勢を取って、部屋の奥を睨み付けた。

「ナーナ」

 ヘモジも盾を前面にかざして、ミョルニルを脇に構えている。

「敵強い?」

 オクタヴィアがリュックに隠れた。

 ロメオ君とロザリアの位置を確認しようとしたら、先手を打たれた。

 アイシャさんがふたりの間に割り込んだ。

 敵の一手を弾き返した。

「レイピア?」

 ミスリル! 全身ミスリル装備! それも女剣士だ。

 動きが速い。今まで遭ったソウルのなかでも断トツの速さだ。

 アイシャさんに防がれ、射程外に飛び退いたソウルは、すぐにリオナに矛先を変えた。

 ナガレがブリューナクを近接武器として横に薙いだ。

 虚を突かれたソウルはリオナの姿を見失った。

 リオナの一撃がレイピアに弾かれた。

「防がれた!」

 かわしたのか?

 リオナの二撃目が繰り出されるが、完全にいなされた。

 ロメオ君が氷の槍をぶつけて、リオナのピンチを救った。

 ヘモジがミョルニルを胴体目掛けて叩き込んだ。

 敵は開脚して身体を反らして、その攻撃を避け、なおかつ、身体をひねってヘモジに向かって蹴りを入れた。

 蹴られたヘモジは僕の後ろまで吹き飛ばされた。というより僕の影に隠れた。

 敵の姿がすぐ脇にあった。

 ヘモジにとどめを刺しに来たのか、僕の首を獲りに来たのか。

 僕は剣を抜く素振りを見せながら、先行して『無刃剣』で敵の身体を真っ二つに切り刻もうとした。

 案の定、敵は僕の剣に気を取られて、逃げることをしなかった。こちらの策略はうまくいった。

 だが『無刃剣』は弾かれた。

「耐魔付与か!」

 一瞬、ミスリル装備が真っ二つにならずに済んでよかったと思ってしまった。

 が、その一瞬で敵のレイピアが無情にも目の前で折れてしまった。

 結界に当たってきれいに刀身が折れてしまったのだ。

「ああッ!」

 ミスリル製のレイピアなんて女性冒険者の一番人気の定番商品なのに!

 ソウルはすぐに武器を手放し、手刀でこちらに襲いかかってきた。

 が、ヘモジが魔法の盾で防いだ。

 ソウルは後退ろうとしたが、そこにはリオナの一撃が待ち構えていた。

 躊躇したが最後、ヘモジのミョルニルに殴られ絶命した。

 本体はミョルニルを防ごうとして出した籠手だった。

「エルネスト!」

 アイシャさんに怒られた。手を抜いたわけじゃないんだけど。

 装備の一部に『無刃剣』の傷が若干残っていたが、これくらいなら修繕可能だろう。折れたレイピアは素材にして再利用だ。

「地味に強かったわね」

 ナガレが言った。

「あのリオナの速攻をかわすとわな」

 完全に決まってたのに……

 部屋中を調べてご褒美を探したのだが、見付かったのは罠と地下への階段だけだった。

 罠はなんと落雷だった。

「これにあのソウルを嵌めて、足止めしろってことだったのかしらね。接近されてなかったらわたしの一撃でけりが付いてたのに」

 必中付きの雷撃だからな。避けられはしなかっただろうが、手を抜いていたら僕の『無刃剣』と同じ結果になっていたんじゃないか?


 部屋の奥に階段があった。それは地下に延びていた。

 ただ歩かされただけだったか?

 深さ的にはフロアの床面の更に下のようだった。

「地下か」

 敵の反応は一切なかった。罠にだけ注意を払った。

 地下を通って出た先は、以前、螺旋通路の中央部屋から地下通路を渡って出た先の騎士がいた広間だった。そこにあった開かずの扉が出口だった。

 螺旋階段を戻れば出口に出ることはもう分かっているので、ここで休憩を入れることにした。

「やっとお昼なのです」

 大分昼を過ぎてしまったな。


 僕たちは食堂に向かった。

 ランチタイムは終わっていた。

 思い思いの食事を取った。

 僕はビーフシチューにパンを頼んだ。

「聞いたか? 空にまた亀裂が出たらしいぜ」

 カウンター席の冒険者が店主相手に話していた。

「なんなんでしょうな、一体?」

 夢は正夢…… また西の未開の地らしい。

 本当に時間に余裕はあるのか?


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