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エルーダ迷宮ばく進中(メッセンジャー)24

「地図にどう記せばいいのやら」

 ロメオ君と僕は崩れた壁の前で途方に暮れる。

 オクタヴィアが埋まってしまった通路の向こう側に未練を残しながら、僕たちの前を横切った。

 崩れた先の天井がやたらと高い。巨人が長柄の武器を振り回すことを前提にしているかのようだった。

 火蟻駆除で憂さ晴らしができたと思ったら、これだよ。

「このフロアの地図、早めに欲しいな」

「そうだね。地形が変わり過ぎるようだと迷子になるかも」

 恐らく動かない敵の反応はそういうことだろう。

「作戦変更。反応に近付くのは周辺を調べた後にしよう」

 そもそも、直線で記すことができない地形の記録を取るのは結構難しい。北に真っ直ぐ進んでいるつもりがいつの間にか東になんてことはざらだ。太陽や星が出ていればいいが、洞窟内ではそれも望めない。ましてやこのフロアの創造主はトリッキーな仕掛けを好む傾向にある。

「絵地図の方がいいかもしれないな」

 現在調べられる範囲を鋭意調査していると、頭の上から石が落ちてきた。

「敵?」

 高い天井に隠れていたか?

「宝箱あった」

 周囲の突起を上手く飛び越えながらオクタヴィアが戻ってくる。

「通路もあった」

 すっかり赤土の埃で赤く染まっていた。

 光源を飛ばし、望遠鏡を覗いた。

「呆れたわね」

「ほんと」

 ロザリアとロメオ君が舌を巻いた。

 平らだと思われたこのエリアは実は立体構造をしていることが判明した。

 そう思って周囲を見ると崩れた壁の残骸の不自然さに気付く。

「あの上、登れるのかな」

「あっちは?」

 自分の調べた宝箱をオクタヴィアは指差した。

「ちょっと行って来ます」

 アイシャさんに断わって、僕はオクタヴィアとボードで高い天井の凹みに隠された宝箱を開けに向かった。

「敵はいないな?」

 窪みに足を付けると箱の鍵を開けた。

 明かりをかざしながら中を覗き込む。

「あった!」

 思わず小さな肉球とハイタッチを交わす。

 僕たちは勇んで地面に降りた。

「ロメオ君! 地図だ! 地図があったよ」

 進攻を中止して、マップ情報を精査する。

 早速、地図にロメオ君がコメントを書き記した。


『火蟻襲撃・頭上注意・五十体』、『巨人ソウル・壁崩落・登り路』、『天井・宝箱・地図』


 瓦礫を登った先からヘモジが戻ってきた。

「ナナーナ」

 僕たちが進もうとしている崩れた壁の先は行き止まりだと言った。

 その様子が上から見られるそうだ。

 壁の向こうを見渡し、ヘモジの言うことが正しいことを確認した。

 突き当たりは見るからに何もない。恐らく壁を壊した巨大ソウルとの戦場として用意されたものだろう。

 僕たちは瓦礫を登った先の一段高いルートを進むことにした。

 ヘモジの後に続いて、僕たちは瓦礫でできた足場を登る。

 後がつかえているので、一生懸命段差を登るヘモジを抱えて、肩に載せた。

「ナー?」

 オクタヴィアは自慢げに坂を登り切った所で僕たちを待ち構える。

 壁に沿って道が現われた。

 僕はヘモジを降ろしてやると、オクタヴィアと一緒に先頭に立った。


 上段に登っただけで景色が大分変わった。

 足元には鍾乳洞の畦石池のような、壁に囲まれた無数の小部屋が並んでいた。

 僕たちはその部屋の壁の上を通路として歩くようだ。

 取り敢えず、巨大空間の壁に沿って左回りに進むと、突き当たりに差し掛かる。そして壁の上を歩くことに。

 無数の選択肢があるようでいて、最終的には統合して、向かい側の壁にある大きな亀裂に収束するようだ。先が見えていれば、迷路にもならず、一本道と変わらなかった。

 最初の通路が瓦礫に潰されていなければ、あの無数にある小部屋を探索する羽目になっていたのかも知れない。地図上ではそうなっている。

 どちらにせよ、唯一の救いは敵がほぼ出尽くしていることだ。

 こんな逃げ場のない、見晴らしのいい、あるいは狭い場所で、火蟻に襲われたらそれこそ厄介だ。

 すべてではないが、地上の小部屋を上から覗いて調べて回った。

 宝箱を四つ発見した。お宝の質は四十七階の宝物庫の物とさして変わらなかった。

 一方、罠の数は倍の八個もあった。

 何が起こるか確かめるために、遠距離からすべて作動させた。この段階では固定の罠か、ランダムの罠か分からないから、そうするしかなかった。

 その内の一つが水計で、壁に穴が開いたかと思ったら水が噴き出した。

 あっという間に足元の各部屋が水没して、一面水浸しになる。

「鎧を着てたら危ないかも」

「死にはしないだろうけど、鎧のメンテナンスを考えるとね」

 オクタヴィアが水面に鼻先を近づけた。

「水」

 それは顔をそこまで近付けないと分からないことなのか? 

 吊り橋のような細い足場をひたすら行くといよいよ収束した一本道に合流する。

 その先は下り坂になっていて、地上から来る上り坂と合流し、再び一本の主流になった。


 亀裂のなかに踏み込むと少し広めの空間が待ち構えている。

 僕たちは警戒した。

「敵、いる!」

 オクタヴィアが突き当たりの壁の向こうにある大きめの反応を指差した。

「笛吹く?」

「あれに聞こえるぐらいでいいからな」

 ピーヒョーロロロロ…… 息を小出しにするのは苦手か?

 やっぱり目の前の壁が崩れるのだろうなと思いながら、待っているのだが動く気配がない。

 このままだと袋小路になってしまうのだが……

 ピーッ!

 強めの笛の音にも反応がない。

「ヘモジ」

 もうこちらから壊すしかない。

 ヘモジが壁に近付いた。

「ナー……」

 念のために壁に声を掛けている。

 笛の音が届かない相手に囁いても仕方ないだろ。

 ヘモジがミョルニルを振り下ろそうとした瞬間「ちょっと待て」と、アイシャさんに止められた。

「例の魔法呪文が切れておる」

 このエリアに入ってから、落書きが一切ないので、掛け直していなかったのだが、念のために例の魔法を唱えた。

 壁にでかでかと『崩すな、危険!』とか出るかと思ったのだが一切なかった。

 このエリアには落書きしていた連中も侵入できないのか?

「悪かった。続けてくれ」

「ナーナ!」

 ヘモジは一撃を加えた。が、崩れなかった。

「ナナーナッ!」

 ヘモジが本気モードになったので、全員、急いで止めに入った。

 ドーン! という振動と共に来た道が壁で塞がれた。

「そういうこと?」

 ロメオ君が言った。

 全員がこの部屋に入らないと、次のアクションが起こらない仕掛けだったようだ。

 ガラガラと思い鎖が空回りする音が聞こえる。ガンガンと鉄を叩くような音もする。

 反応が動いた。

 キィイイイイエエエエエエエ!

 耳を劈くような甲高い叫び声が壁の向こうから聞こえてきた。

「声は火蟻だな」

 目の前の壁が真っ赤に溶け始めた。

「横着だな。脚で掘れよ」

 壁にやっと向こうが見える程の穴が開いた。

 甲高い声と共に火の玉を吐いた。

 ドーン、と命中した。たぶん向こう側は大分薄くなっていることだろう。

 火蟻が鋭い鉤爪を空いた穴に引っ掛けた。

 ヘモジが壁から出ている爪の先目掛けて殴りかかった。

「まだ早い!」

 壁が崩れて、見たこともない巨大なオレンジ色に燃えたぎった火蟻の顔が現われた。かと思ったら一撃でその頭をミョルニルが押し潰した。

「ナーナ?」

「狙ったの?」

「ナ?」

 首を傾げた。

 偶然か……


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