エルーダ迷宮ばく進中(メッセンジャー)23
ロメオ君は情報を地図に書き記した。
「次、行きましょ」
ナガレが音頭を取った。
本線を奥に進むと曲がった先に罠がある。敵もいるのでお呼びすることにする。
オクタヴィアがいつになく晴れやかな笛の音を轟かせた。
敵はそれが却って癇に障ったのか、猛烈な勢いで接近してくる。
あの動きは重戦士タイプだ。段々分かってきた。
罠に掛ったところを一気にとどめを刺すことにする。
罠だけで済むことを願ってやまないが、重戦士だと生き残る可能性が高い。
鎧がガシャガシャと擦れる音が聞こえてきた。
「罠を飛び越える気なんじゃないの?」
飛び越えた先に障壁を展開した。
いざとなったら押し返す!
ガッシャーン。
「よし! 掛った!」
僕たちは曲がり角から飛び出した。
「一斉――」
「あれ?」
反応が。
超古典的な落とし穴に見事に嵌まっていた。
杞憂であった。
僕たちは覗き込んだ。
「打ちどころが悪かったのかな?」
ソウルだった物はヒキガエルのような姿で転がっていた。
壁に倒れたレバーがあって、押し戻すと鎧ごと床が迫り上がってきた。
装備の回収が可能になった。
レバーをロックすることで、床が落ちなくなったが、分かっていても上を歩くのは嫌なもの、凍らせてなお、みんな上を飛び越えた。
今回の本体は…… あれ?
木片に火を付け、くゆらせたが防具に反応がない。
「武器かな?」
それも違った。
残るは全身の下敷きになった盾だけだ。なるほど打ち所が悪かったわけだ。自分の身体に押し潰された感じだ。
「おー。ラージシールド。重ッ!」
無茶苦茶重かった。
「うちじゃ誰も使えないね」とロメオ君が言った。
力自慢でも、なんらかの重量軽減付与が必要になるだろう。オズローでもつらいんじゃないだろうか。
後は実用性重視のデザインが受けるかどうかだな。加工してみて駄目なら売り払おう。
「こんなのが前にあったら邪魔なだけよ」
ナガレが言い切った。
遠距離重視のパーティーには確かに視界を遮る目障りな盾ではある。
しばらく行くと目的の扉があった。
さすがに今度は念入りに扉を調べた。前回だってちゃんと調べはしたのだが。
間違いなく双方向ではなかった。
敵はいないようだった。
角を一つ曲がったところに毛色の違う扉が現われた。
それは重厚な鉄の扉。
なぜか昆虫の絵が描かれている。蟻か…… 蜂?
例の魔法を掛けると、扉にでかでかとメッセージが現われた。
『開けるな、危険!』
見飽きたフレーズ。
「そう言われても、脇道ないしね」
周囲を見渡してもそれらしき隠し通路も、扉もない。転移する以外、ここから脱出する手立てはない。
既にヘモジが扉に貼り付いている。
開ける気満々?
オクタヴィアが扉に爪を立てたら負けた。ご主人の方ではなくこちらに戻ってきた。褒めて貰ったからもうご主人はいいのか?
「臭いする」
「ん?」
「火蟻」
「火蟻だって! ここに来て?」
「間違いないのです」
リオナも同意した。
「だとしたら、この扉、危なくない?」
当然、下層の火蟻とはレベルが違うはずだ。
「こんな鉄の扉では耐えられまい」
ヘモジが貼り付いていたのは警戒をしていたからか?
「一度見つかったら大変だな」
迷宮内の火蟻が一斉に集まってくる。
奴らが弱点を克服していなければ倒すのは容易いが、果たして……
「一応、脱出用の結晶を用意しておこうか」
全員が転移結晶の確認をした。
「オクタヴィア、操ってみる」
「それはいい」
どの道、踏み込めば広範囲に知れ渡るのだから、笛を吹いたところで差異はない。
「じゃ、行くよ」
ロメオ君が扉を押し開いた。
僕とヘモジとナガレ、それとオクタヴィアが雪崩れ込んだ。
「えええ?」
床だけでなく壁や高い天井にも蟻が貼り付いていた。
ピー、ピー、ピーッ!
使役の笛の音が洞窟内に響き渡った。
石壁の通路は扉までで、その先は赤土をくり抜いただけの蟻の巣だった。
全方位から燃える粘液が発射された。
僕の結界が難なく敵の攻撃を弾き返すと、敵の一部が燃え上がった。
同士討ちを始めた。
「やったのです」
敵がゾロゾロ集まりだした。
「来た、来た……」
ナガレが手ぐすね引いて敵が一箇所に集まるのを待つ。
造反した連中を数で押さえ込みながら、敵はどんどん数を増やしていった。
笛の音が何度も吹かれた。
一定確率で生まれる造反者のせいで、敵の足並みは揃わない。
一方取り付いた火蟻たちは仲間を足場にしながら、結界によじ登り始める。
「そろそろ頃合いじゃな」
ナガレとアイシャさん、ロメオ君が武器を構え、雷を放り込む準備を整えた。
ロザリアは明かりを打ち上げ、念のため僕の結界の内側にも聖結界を施した。
リオナもヘモジもいつでも武器をふるう準備ができている。
「攻撃開始!」
全方位に稲妻が走る。
キーキーとうるさかった火蟻の鳴き声がピタリとやんだ。
僕たちは息を潜めて状況の変化を待った。
ボン! 最初の一体が吹き飛ぶと、次々連鎖するかのように弾け始めた。
結界に飛び散った肉片と燃え上がる体液がへばり付く。
風魔法で振り払う。
リオナとヘモジが爆発を免れた火蟻にとどめを刺していく。
僕も敵が固まった場所を探しては雷を落としていった。
「強くなったのです!」
敵の外殻が硬くなった気がする。その分破裂したときの周囲への影響は大きい。
あっという間に累々たる死体の山ができあがった。
「第二波、来た!」
オクタヴィアがささやいた。
増援は第一波に比べ、半数にも満たなかった。
おまけに既に造反組によって損傷を受けた者も見受けられた。
火蟻の群れのなかに稲妻がいくつも落とされた。
半数がはじけ飛び、残りの半数が巻き添えを食った。
「掃討する!」
僕たちは生き残りを各個撃破し始める。
真っ先に死んでいった火蟻たちが赤土の上で魔石に変わり始めた。
火の魔石が(小)から(中)にアップグレードしていた。
エリアにいるほぼ全ての火蟻を殲滅完了したはずなのだが、移動していない反応が幾つもあった。
要警戒である。
魔石漁りを終えると僕たちは一番近い反応を目指した。
「壁の向こうか」
僕たちは赤土の分厚い壁を回り込むルートを探した。
そのときだ。
壁を崩して敵がこちら側に突っ込んできたのである。
「避けろ、ヘモジ!」
咄嗟のことで僕は『無刃剣』で敵の腕を切り落とした。
リオナの銃弾が敵を撃ち抜いた。
天井が落ちてきた。僕たちは急いで後退した。
「ナーナ!」
振り向くと瓦礫に押し潰された巨大な鎧があった。
「巨人の鎧を着たソウルか?」
中身がないところを見るとそのようだった。
巨人と言ってもトロール程ではなく、オーガ程度だが。
加工しても着られるサイズにはなりそうになかった。
着られない装備に興味はない。
「これも売れるのかな?」
ロメオ君がクヌムの店でこれも捌けるのかと関心を持った。
それよりマップの記入はどうする?
一つの道が塞がって、別の道ができた。
新手の仕掛けか……




