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エルーダ迷宮ばく進中(メッセンジャー)22

 翌朝早くに姉さんがやって来た。

 早寝したせいか、自分でも珍しく思える程スッキリ目覚めることができた。

 西の未開の地で何かあったのかと思ったが、要件はそうではなかった。

「チョビとイチゴの力を借りたい?」

「中州の護岸工事をしている連中から進言があってな」

 昨日の魚祭りのなかに非番の工夫でもいたかな?

 チョビとイチゴをエミリーに呼んできて貰って、話をしたら、大きいまま町中を歩いていいのかという話になった。

 そこで、あえて領主権限で門の外で巨大化することが許されることになった。作業員を襲っていると勘違いでもされたら困ってしまうからだが。

 中州に物資を運び込む数日間だけだという。

 我が家の防衛のためにも元々緩く設定してあるのだが、好きなときに好きな大きさになることを許した。二次権限をナガレに持たせているが、ナガレはリオナと一緒だし、普段それを行使することはない。

 注意事項として、我が家から出るときは食材に間違われない程度に大きくなって移動するように言付けた。頭の上のティアラもそのまま載せておけと言っておいた。

 中州の地盤固めが終わったので、いよいよ建築資材の運び込みをするらしいのだが、中州は狭いので一気に物を運び込めないらしい。

 その都度、町から運び込むことになるらしいのだが、姉さんは上物造りには参加しないらしい。目的の半分が冬の労働創出であるから仕方がない。

 だが大きな荷馬車を使って橋を渡っていては時間も労力も掛るのは自明の理。そこで現場の労働者たちが目を付けたのが、便利な陸王蟹である。

 背中に荷物を載せ、深い川も軽く跨いで、重い資材も小枝のように楽々取り回す。

 本人たちが嫌なら、なかったことにすると言うのだが、チョビたちは好奇心旺盛で人なつっこいのだ。二つ返事でやると言った。

 長時間拘束されることはないそうだから、構わないだろう。ふたりにとっては町中で好きにしていいというお墨付きを貰ったようなものだ。

 予定は追って知らせてくれるらしい。

『あまり小さいと舐められてしまいます』

『でも大き過ぎると足元が見えづらくなって人を踏んづけてしまいますよ』

 ということで、町中での移動には子供の目線サイズがいいだろうということになった。

 取り敢えずの話が終わったところで、僕は姉さんに尋ねた。

 高い建物はどの様に雷対策しているのかと?

 昨日、ヴァレンティーナ様の船もその件では憂慮すべき事態になったらしい。姉さんが僕の質問の意味を即座に理解した。

 姉さん曰く、雷雲を避けて飛ぶ以外ないそうだ。

 建物に関して言えば、避雷針という雷の通り道を作ることで解決するらしい。地面に雷を逃がしてやればいいのだそうだ。だが地面と接していない飛空艇や飛行船にはそれができない。

 魔法以外の方法は今のところないらしい。


 定時になると僕たちはエルーダに向かった。

 四十八階層攻略再開である。

「ソウル品なんだけどどうする?」

 エルーダの自足型転移ポータルからエルーダの迷宮までの道すがら、僕は『楽園』に放り込まれたままになっているお荷物について、今後の扱いについて相談した。

「どうするって?」

「完成品を買い取ると高く付くだろ? 加工代にすれば大分安くなる。地上で転売するならそっちの方がいいかと思って」

「難しいんじゃない? ソウル品のレベルになると皆、オーダーメイドが主流だものね。デザインや装飾も好みがあるだろうし」

「安くし過ぎれば、市場に混乱をきたすしな。武器なら魔力のない連中に引っ張りだこだろうけど」

「武器以外売っちゃう?」

「勿体ない気もするんだよね」

「こういう案はどうかしら?」

 珍しくこの手のことにロザリアが口を挟んだ。


「レンタル?」

「そう、売るんじゃなくて、貸すのよ。それだったら、駆け出しの冒険者にだって提供できるんじゃないかしら? 特に身体がすぐ大きくなってしまう子供たち相手には。親御さんだって安い値段で上等な装備を子供に着せられるんだから喜ぶわよ」

「そうか、それがあればワカバみたいに金で苦労せずに済むんだな」

「元々拾いもんじゃしの、いいアイデアかも知れん」

「痛んだり、壊れたりしたら?」

「代金はそのための修繕費だと思えばいいんじゃないかな? 武器や盾じゃないから、低レベル帯でならそうそう傷まないと思うし」

「でも大々的にやれば反発があるんじゃない?」

「だから子供用に特化するのよ。子供の冒険者なんてうちぐらいなものでしょ?」

「そうか、獣人の子供なら冒険者でなくても普通に狩りで使うしな」

「盗まれたりしない?」

「村の住人なら大丈夫なのです」

「よし、決めた! 子供たち専用に防具を加工しよう」

「体力重視だね」

「軽量化も必要よ。子供が着るんだもの」

「腕力強化もなのです」

「毒耐性は必須だな。後は適当に振って貰うか?」

「始める前にクヌム行くですか?」

「いや、どうせ今日の分もあるし、終わってからにしよう」


 本日の攻略は、先日の扉の部屋から戻ってきた、本線に出た場所から再開したいところであるが、前回、大ぽかをしたことに気付いた。

 それは帰り用の扉を探さずに、転移結晶で現場から脱出してしまったことだ。

 結局、僕たちはあの忌々しい部屋に戻ることになり、そこで出口を探す羽目になった。

 余程テンパっていたようだ。

 本線において戦闘すること数回。目的の一方通行の扉に到着する。

 扉を入ってから例の部屋の入口までの間、敵と遭遇することはない。

 部屋のなかも二十個の扉を開けなければ襲われることはないのだ。

 戦う必要がないのは大いに助かった。ここで戦闘のやり直しとなったら発狂してしまうところだ。

 だが、肝心の帰り道はどこにあるのか? 二十個すべての扉をクリアした僕たちは、どこかでそれらしい出口を見掛けただろうか?

 よくよく考えれば部屋のなかはすべて探し切ったわけで、探す場所はもうここにはないはずだ。

 唯一考えられるのは、ここまで来る通路の途中にある可能性だ。

 僕たちは戻って通路を探った。

 ここも最初に通過するとき一度探ってはいるはずだが、何かの引き金で隠し扉でも出現してるかも知れない。

 だが、結果は予想に反した。

「見付からない……」

 落書きにも目を通しながら出口を探ったが、どこにも見当たらなかった。

 時間だけが無駄に過ぎていく。

 部屋に引き返しては戻ってを繰り返した。

 これだけ探してないとすると…… 二十個の扉の向こうをもう一度、徹底的に総ざらいするしかないかもしれない。

 そんなときヘモジとオクタヴィアが猛烈な勢いで通路の先から戻ってきた。

「開いてた! 一方通行が一方通行やめてた!」

 オクタヴィアがアイシャさんの胸に飛び込んだ。

「ナナーナ、ナナナナーナ!」

 ヘモジが僕の胸に飛び込んできた。

 お手柄を褒めて欲しいらしい。

 褒めてる場合ではないので、僕たちは通路の入口の扉を目指した。

 僕たちは本線からすぐの一方通行だった扉を調べた。すると、いつの間にかその扉は双方向に行き来ができる扉に変わっていた。

「分かりづらッ!」

 ロメオ君が言葉を吐いた。

 まったく、このフロアのデザイナーは何を考えているのか?

 落書きの誘導すらないのだから周到に違いない。

 転移手段を持たない連中が、このフロアの攻略をするとは思わないが、もしいたら顔面蒼白になって探しまくっていたことだろう。

「ようやくスタートなのです」

「疲れた……」

 毎回スタートする前にやる気を削がれるのはここの仕様だろうか?

 今回はこちらの落ち度でもあるのだが……

「よくやった」

 肩の上のヘモジの頭を撫でた。

「ナーナ」

 ようやく報酬にありつけたヘモジは足をばたつかせて喜んだ。

 オクタヴィアも何も言われはしないが、主人にさりげなく背中を撫でられ、ご満悦であった。


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