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エルーダ迷宮ばく進中(ワカバのために・おまけ)16

 食堂までの道すがらワカバは僕の顔をしきりに見ていた。

 理由は分かっている。僕が結界を使ったからだ。あの、ワカバを捉えたゴブリンリーダーのの最後の一撃、あれは本来ならワカバの脳天を捕らえたものだった。

 兜の性能から行って死にはしなかっただろうが、脳震盪は必至だった。

 分からないようにやったつもりだったが、頭に振り下ろされた剣が逸れたことに、ワカバはしっかり気付いていた。

 本来ならば朦朧としている間にとどめを刺されて、あの場でバッドエンドだった。

 勿論、仲間がいたならば、救出劇が始まっていただろう。

 兎に角、ワカバには分かっていた。肩の痛みも直撃を食らった程じゃなかったことも。装備のおかげばかりではないことも。

 余計なことをしたと食って掛かってくるかとも思ったが、確信が持てないのか、僕の方をチラチラ見るばかりだった。

「うち負けたんやな」

 そう言ったのは料理の注文をして、一息入れたときだった。

 意を決したように僕を見据えた。

「ひとりだったらな」

「まだ地下一階やのに……」

「そうだな。中上級者向けの迷宮の地下一階だな」

 ワカバは唇を噛んだ。

「うちにはこの迷宮はまだ早いんやな」

「そうだな。でももうすぐだ」

「うん……」

 可愛い子には旅をさせろ。旅ではなく無茶だったが、よかった。ワカバはようやく自分の立ち位置を自覚できたようだった。

 ワカバは頭が切れる子だ。村長の娘というだけで周りから甘やかされていることにもちゃんと気付いていた。

 どんなに我がまま言っても、本気で談判しても、幼い子供の意見を真摯に聞いてくれる大人たちはいなかった。暖簾に腕押し。

 本人はそれが気に入らなかったのだ。だから村長の娘ではない自分をちゃんと見てくれるトレド爺さんにべったりなのだ。

 ようやくだ。

「スタート地点だな」

「うん……」

「でも凄かったのです。最後の一撃は! どうやったですか?」

「蹴り入れたったんねん! そんで――」

 似た者同士のリオナとの楽しい話に早変わりだ。


「これ全部食っていいんか?」

「余ったら爺ちゃんが食ってやるから心配すんな」

 リオナと同じ量は無理だろ?

 汗を掻きながらうまそうに肉を頬張った。

「あんな」

「ん?」

「若様にお願いがあんねん」

 まだ何か?

「うち、若様のチームがどんくらい強いか知らへんねん。見せてくれへん?」

 ロメオ君と顔を見合わせた。

「相手は何がいいのかな?」

 まさにそれが問題だ。

 程よく接戦になる敵がいたとして、そんな相手のいる場所にワカバを連れて行くことはできないだろう。それにうちのチームのモットーは瞬殺だからな。

 見せる戦いともなれば、敵にも持久力が必要だが。粗方攻略方法は構築済みだからな。アイシャさんとロザリアがいないことも考慮するなら……

 思い浮かばない。

「このままフェンリルの巣でいいんじゃない?」

「それがいいのです」

 地下一階出口付近にある危険ゾーンの魔物だが、今の僕たちには大した相手ではない。

「確か三体しかいないんじゃなかったっけ?」

「さっきナガレとヘモジがやったから、僕とロメオ君とリオナでいいんじゃないか?」

「ナナ!」

「ちょっと足の速いフェンリルには雷でしょ! わたしでしょ!」

「オクタヴィアもやる。オクタヴィアも」

「じゃんけんなのです」

「チームでやらんの?」


 これまた懐かしい場所である。

 すぐそこにフェンリルの巣への入口があった。

 本来迂回すべきルートを僕たちは行く。

「ここのフェンリルはレベルが少し高いんだ。事故に遭う冒険者が多いから、ワカバが自分の力でここに来たときは気を付けるんだぞ」

 ワカバは真剣な顔をして頷いた。

 これから実物を見れば言わなくても分かるだろうけど。

「そう言えばトーチカ造ったよね」

 ロメオ君が言った。

「あの頃は若かったよね」

「今も若いのです」

「装備も充実してるしね」

 あの頃とは何もかも違う。今はリオナじゃなくても、敵の位置が手に取るように分かる。

「やってやるのです!」

 ワカバに見せるために、一体倒した人は退場するルールにした。それと一人で倒していいのは一体だけとした。ナガレに掛かったら全部まとめてあの世行きにされそうだからな。

 まずはフェンリルの姿を実際見て、強さを感じて貰わないと。

 射程外から倒してしまっては、ここにやって来た意味がない。

 最初の一体が動き始めた。

 こちらの匂いを嗅ぎ付けたようだ。

 まずは距離を置いて大岩の上から偵察のようだ。

 普段なら遠距離攻撃を一撃加えて終わりなのだが、今回は接近を待った。

「なかなか来ないのです」

 警戒しているようだ。

 昔、僕たちを襲ったときはもっと積極的だったと思うのだが。

 ワカバはフェンリルを見て固まった。

「でかいやんか! あれで狐なんか?」

「狼だ。冬も近いし、毛皮いただくとするかな」

「フィデリオもふかふかの床の方がいいのです」

「ワカバもいるか? 暖かいぞ」

「ええのんか?」

「今日の記念に。初心を忘れないように」

 ロメオ君が言った。

「動かないな…… 少し陽動を掛けよう」

 みんなで二体目のテリトリーに向かうことにした。

 一体目はこれでかなり焦るだろう。

 迷っている時間はないぞ。

 二体目のテリトリーに入る前に、一体目のフェンリルが目の前に立ち塞がった。

 まったく、現金な奴である。だがその欲深さが命取りだ。

 既にリオナが姿を消した。となれば援護だ。

 ナガレが槍を構えた。

 二体目が戦闘に紛れて動き出した。

「来たで!」

「そうだな」

 ワカバがソワソワしだした。

「こっちは僕たちが貰おうかな」

 ロメオ君がヘモジとタッグを組んだ。

 ナガレの雷がワカバの目の前に落ちた。

 巨大なフェンリルが一気に距離を縮めて、迫ってきていた。

 たった一度の跳躍でこれだから怖い。

 だが次の瞬間、地面に沈み込んだ。

「お、重いのです!」

 トレド爺さんがフェンリルのでかい顎に潰され掛けているリオナを助けに向かった。

 一方、今まさに襲いかかろうとするフェンリルの氷像がワカバの振り向いた先にできあがっていた。

 そして、その頭が砕けて吹き飛んだ。

「ナーナ!」

 僕は一体目の毛皮を獲るために事後処理をして、解体屋に送った。

 ワカバは完全にビビっていた。恐らく想像より動きが速かったのだろう。

 二体目も転送すべく氷を溶かしに掛かった。

 そこで三体目が動き出した。

「若様はやらへんの?」

 どうやらリクエストのようなので最後の一体は僕が貰うことにした。


 結界に貼り付いた大きな狼を剣で刺し貫いた。

 どんな感想を抱いたのかは、ワカバのみぞ知るである。

 

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