エルーダ迷宮ばく進中(ワカバのために)14
「はい。ではそのように」
クヌムの武具店にワカバのフル装備と例の斧の加工を発注し、それ以外のソウル品を売却した。
鳥は売らずに取っておこうと思ったのだが、尾羽の回収を忘れたので、今回は売り払うことに決めた。次来たとき、また狩ることにする。
それからギルドハウスに寄って、無印の装備品を置いて帰った。
レオは遅れて帰ってきた。
「もう散々だったよ」と愚痴をこぼした。
どうやら酔っ払い親父たちが散々迷惑を掛けたらしい。
大浴場に行ったら、その親父ふたりを見掛けた。
風呂に入って酔いを醒ましたようだが、休憩所で長老と女房、周りにいた大人連中と息子たちに囲まれ、叱責の嵐の直撃を受けていた。
これから酔おうという時間帯に酔いを醒まされ、真っ青になっているのだから目も当てられない。
僕は一行を横目に脱衣所ののれんを潜った。
いつの間にかピノたちの活動日を減らすことでけりが付いていた。
責任転嫁という奴だ。そもそも論に立ち戻ってしまったらしい。
当然、長老たちがこんな決定を下すとは思えない。恐らくヒートアップした外野を黙らせるための一時的な措置だろう。
だが、ピノたちにはそれが理解できなかった。
ピノたちは遊び場を奪われた子供のように肩を落とした。
そして当然の如く、うちに来て散々愚痴っていった。
「なんとかしてやれないのかい?」
アンジェラさんも気の毒な事態に同情を禁じ得なかった。
フィデリオがいなければ、元冒険者のキャリアが物を言うところだろうが、生憎、ピノ以上に目を離せない息子がいた。
「休みの日にはリオナが付き添ってあげるのです」
気持ちは分かる。気持ちは分かるが、リオナ、自分も未成年だということを忘れたか?
「じゃあ、みんなでやるのです!」ということになった。
だが、実際やるとなると参加できるのは僕とロメオ君だけだ。
アイシャさんは子守りは嫌がるだろうし、ロザリアは町の教会の雑事がある。
リオナの代わりに、まさかナガレをダシには使えないしな。
これからはゼンキチ爺さんと長老たちが参加できる日以外の活動は基本的に中止。うちの連中を始め、有志が付き添える日は例外が適用されることになった。
今までと何が違う?
「何も違わないのです」
「基本的に中止と決めたことかしらね」
「一週間の内半分は活動できるのだから充分じゃろ?」
「僕たちだって半分は基本的に休んでるんだから」
「子供のうちから頑張り過ぎなのよ」
「何か考えなさいよ!」
「何をだよ」
「兄貴分でしょ? ストレス発散できる何かないの?」
「何をしたって町の外に出るときには、大人が付き添うことになるんだから」
「じゃあ、町のなかで何かないの?」
うーん。ないこともないけど……
「アスレチックコース?」
「森のなかに遊具や器具を設置して、遊びながら身体を鍛えることができるんだ」
居間のテーブルにメモ書きを置いて説明を始める。
「サバイバルとは違うですか?」
「ちょっと違う」
大分違うか?
イラストを描きながら説明することにした。言葉だけでは説明が難しいと思ったからだ。
はっきりしたことを知っているわけではないし、あくまで異世界情報のうろ覚えと想像の範疇なのだが。
「空中遊泳、雲梯、壁登り、滑車を使った川上りに、水上丸太越え、丸太上り、網登り、綱渡り……」
「楽しそうなのです!」
リオナが飛び跳ねた。
「オクタヴィアも、オクタヴィアも!」
ソファーの背もたれの縁を行ったり来たりしている。
「ナーナーナ!」
こら、叩くな。
「丸太で櫓を組んだりして作った障害物を走破して、ポイントや時間を競って遊ぶんだ」
村人の頭のなかでどんな物が描かれているかは別にして、村中の子供たちが目を輝かせていることを想像に難くない。
「これ貰うのです!」
リオナが僕の書いた落描きを取り上げた。
そして「緊急会議なのですー!」と言って、オクタヴィアとヘモジを連れて中庭に消えた。
「…… いいの?」
ナガレが聞いてきた。
「冬のソリのコースでアレだろ? もう諦めた」
とんでもない物を造りそうだ。が、見てみたい気もする。やる気はサラサラないけれど。
後日、正式に予算が組まれて、アスレチックコースが造られることになった。
村の静かな暮らしが脅かされないように、中央公園に近い、外周部の森に築かれることになった。
なぜかユニコーンズ・フォレスト騎士団からも結構な予算が投入されることになった。
リオナか…… 自分の出費を抑えるために巻き込んだか?
雪が降るまでの期間、木こりの斧が木を切る音が町中にこだますることになるだろう。
絵に描いた餅で大騒ぎをした翌日、アイシャさんとロザリアを除いた全員は休日であるにもかかわらずクヌムに出向いた。
いよいよワカバのフル装備の受領である。
普通の鍛冶屋なら一ヶ月待ちは当たり前だが、翌日、受け渡しとは便利なものである。
装備が揃ったことは既にリオナがトレド爺さんに伝えたらしい。
ギルドハウスでワカバとふたり、待ち合わせの約束をしていた。
どうせ「試したい」と言うに決まっているので、一緒に迷宮に潜る算段をしていた。
お相手は地下一階のゴブリンである。
店主から新品同然の見事な装備一式を受け取った。
仕様書を全員覗き込んで感嘆の声を漏らした。
「凄い……」
「呆れてものが言えないわね」
「いいできだ」
「すぐ着れなくなるのは残念なのです」
「いずれ後輩の誰かが着ることになるわよ」
「大事に使ってくれることを願うばかりだね」
店先には他のソウル品も並んでいたが、ふたりがギルドハウスで待っているので、お暇することにした。例の斧も忘れずに。
ギルドハウスに大小の熊がいた。
相変わらずよく目立つ。
「お待たせなのです」
「来たーッ! 待っとったでー」
「はいはい」
「着替えるのです」
「はよう、はよう! 見せてーな」
僕とロメオ君が分けて担いできた装備が詰まった袋を、トレド爺さんがまとめてひょいと担いで、二階に上がっていった。
「毒耐性もあるんか! もう蜂蜜取り放題か!」
なんか言ってる。




