エルーダ迷宮ばく進中(ワカバのために)12
広間を調べたら出口がなかった。こんなに壁があるのに、扉だって幾つもあるのに。すべてが戻りの一方通行だった。
「ここまで来て行き止まり?」
「抜かったわね」
扉があるから先に進めるとばかり……
「まさか全部が一方通行の戻りとはね」
朝からの苦労はなんだったのか。
戻りながら、螺旋の通路にあった、まだ開けてない最後の扉を進んだ。
こっちはどこに?
その扉は一方通行ではなかった。が、行き着いた先はスタート地点だった。
「隠し通路だ」
どうやらここからショートカットできたらしい。それはまさに脱出部屋を出てすぐの場所だった。
「ここ調べたよね?」
出た先は確かに全員で壁に触れながら進んだ場所だった。だから見逃すとは思えない。ランダムな罠が仕掛けられていた場所でもないし……
これはもう、条件を満たすと通れるようになる扉ということになる。恐らく反対側から一度出る必要があるのだろう。
上手く使えば、フロアのなかで寝泊まりしなくてもいけるのでは? そんな考えが頭をよぎる。
でも、マップ情報を見る限り、出口までは最短でもお弁当を持参しないといけないくらいの距離はある。
スタートに戻ったところで、本流の、まだクリアしていない別の一方通行に向かった。最初の一方通行の先にある扉だ。
僕が扉を開ける。とヘモジがトコトコとなかに入っていった。
こら、警戒しろ!
「ナ?」
ヘモジが足を止め、周囲を見渡した。
「ナナ!」
そこはゴーレム倉庫ならぬ、鎧像が立ち並ぶ回廊だった。
「ええー……」
皆、嫌な顔をした。
「これはちょっと……」
その数、壁の片側だけで十体。天井高のある回廊の両側合わせて二十体が並んでいた。
「全部生きてる?」
「……」
リオナもオクタヴィアも答えを返さない。
「生きてるのか?」
ガッシャーン!
「うわぁあああッ!」
「ナーナ」
ヘモジが一番手前の鎧を転がした。
びっくりした!
「ヘモジ!」
「何やってんだよ!」
「何やってんのよ!」
「ナーナーナ」
ビュンと、ヘモジの頭上を何かがすり抜けた。
リオナがいきなり天井に向かって発砲した!
「敵なのです!」
遠くの壁が突然崩れた。何かがぶつかった!
ロザリアが光の玉を気配のする天井に放った。部屋全体がぱっと明るくなった。
鎧の隊列は動かなかった。だが別の影が明かりのなかを横切った。
「速いぞ!」
ナガレの雷が落ちた!
稲妻を食らった物体は勢いのまま、ヘモジ目掛けて落ちてくる。
「ナー……」
ヘモジはミョルニルを脇に構え、踏ん張った。
「ナーァアア!」
掛け声と共に見事に空振った。
ぐわぁああああん。ガラガラガッシャーン!
「うるさいのです!」
「あんぎゃー」
リオナとオクタヴィアが耳を塞いだ。
そのど真ん中に物体が転がってきた。
「なんだ?」
「鳥だ」
「鳥だね」
「鳥なのです」
「どっかで見たことあるな」
「ロック鳥…… 耳痛い」
僕の万能薬をオクタヴィアに舐めさせた。
「なるほど、小さくて気付かなかった」
「縮小が過ぎやせんか?」
「旋回竜だってもっと大きいわよ」
「なんなのかしら、これ? これもソウル?」
と言うよりなんなんだ、この部屋は?
これだけ鎧があって、魔物はこの小さな鳥の像だけだ。
「置物にいいんじゃないか?」
「で? あの鎧は回収できるの?」
ギミックだったら何も残らないよな。スペック自体はソウルとぱっと見変わらないけど。
扉が一つだけあった。それは今までの物とは明らかに違う扉だった。
情報に載っていてもよさそうなものだが。
だが、この扉も開かないのである。
「行き止まりか……」
まさか入ってすぐの部屋が行き止まりとは。
「ここの壁だけへんてこなのです」
リオナが触れた壁面にはおかしな凹凸があった。
よくよく見てみると、どうやら人の形をしていることが分かった。
新手の罠か?
全員、穴に身体を埋めてみるが、しっくりこない。
「なんだろな?」
裏から回り込めばこの扉も開くのだろうか?
でも、この部屋のおかしさから考えると、仕掛けがあるのはこちら側だと思えるのだが。
時間切れだ。
続きは昼を食べながらだ。
ピノたちがいた。テーブルにうつぶせになって、疲れていた。
どうやらスケルトン先生と戦っていたらしい。
ゾンビの臭いにやられたようだ。相手はレオが一手に引き受けていたらしいが。
リオナも鼻を塞いでいた時期があったなと懐かしく思った。
どうせ料理が来れば状況は一変するのだから、気にする必要はないのだが、付き添いも大変だ。本日の付き添いはマルとケッチャの父親ふたりらしい。カウンターでふたり、子供そっちのけで盛り上がっていた。ちょっとした授業参観だな。
父親のいないピノが落ち込んでいやしないかと思ったが、気にしてはいないようだった。
後から来た僕たちが先に席を立つことになった。
付き添いの人選を誤ったようだ。息子の成長した姿に気をよくして少々飲み過ぎたらしい。
行き止まりの怪しい部屋から再開だ。
食事中、話し合った結果、試したいことができたのだ。
「目印ないですか?」
リオナが唸っている。
「まさかソウル品が含まれていたりしてないわよね」
念のために煙で燻したらなんと、見つかった。ちょうど一体分だった。
食事中に考えたのだが、やはりここに並んでいる鎧はギミックだと結論付けられる。でなければ、ここの鎧は真っ先に冒険者に回収されているはずだからだ。二十体の鎧が、鳥のソウル一羽落とせば手に入るとなれば、ちょっとしたスポットになっているはずなのだ。
だが、それがないということは、使い道がないということだ。だが、迷宮だって闇雲ではないから意味を考える。
そうだ。あの凸凹に合う装備があるんじゃないかと。結果、二十体の鎧像のなかから、事切れているソウル品のパーツを抜き出して、凹凸に嵌め込むとかっちりと収まった。
だが、まだ何かが足りない。全身パーツの他に剣と盾も持たせた。
後、なんだ?
「あ」
引っかけ問題の解答を見つけた。
そう、この部屋にあったもう一つのソウル品。小さな鳥の像である。
『楽園』から取り出して、ソウル品を燻し出す。すると、おかしな構造になっていて、尾羽が二本引き抜けるようになっていた。尾羽は二本で一つの飾りだった。
「どこに付けるですか?」
僕たちは探した。考えられるのはまず兜だ。
側面にそれらしき穴をすぐに見つけた。
僕はそこに羽根を突き刺した。なかなかお洒落な兜になった。
石が擦れる音がして、ロックが解除される音が響いた。
扉が開いた。




