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エルーダ迷宮ばく進中(ワカバのために)11

 ギルド本部でエルーダのギルドハウスの話をした。なんで若い女性やこぎれいな連中がいるのかと。

 すると職員が教えてくれた。

 女性は間違いなく御茶請けが目的だろうが、こぎれいな男連中は恐らくバイヤーだと。どこかの町の武具屋が依頼したのだろう。追い出されていないなら、うちの鑑札を持つ者だろうということだった。

 女性陣は上等な菓子狙いだそうで、『銀団』のネームバリューも手伝ってああなってしまったらしい。元々商談用に用意している物で決して安くはないらしい。

 ギルドハウスなんだからメンバー以外は入れないのでは、と尋ねたら、全員メンバーの家族やその紹介だろうと言われた。

 なんでも家族にせっつかれてうちのメンバーになりたいという冒険者が最近多いらしい。

「うちの二号店でも出そうかしら?」

 驚いて振り返ると、そこにはマギーさんがいた。

「マギーさん?」

「頼んでおいた物をお願い」

 カウンターに伝票を提示した。

「お久しぶりですね」

「買い物ですか?」

「ええ、頼んでおいた商品の受け取りに」

「若様、どうぞこちらに」

 ようやく順番が来た。

「買取ですね? 物はなんですか?」

「迷宮のドロップ品です」

「こちらでお受けしますか?」

「少しかさばるので裏口の廊下に」

「では、こちらに」

 裏口に通された。と言ってもうちの敷地の一角であるが。

「何集めてきたんですか?」

 マギーさんも付いてきた。

「大した物じゃないですよ」と言って、僕は予め置いておいた、騎士が着ていたミスリル装備一式と馬の鎧一式のところに案内した。

 勿論、ソウル品は抜きであるが、馬の装備を一体分だけ、見本に組み上げておいた。

「ナーナ」

 ヘモジとオクタヴィアがいつの間にか馬の鎧の鞍の上で遊んでいた。

「まあ!」

 ふたりともミスリルより奇妙な馬の全身鎧が気になったようだった。

「重装もいいところね」

 騎士団の物資調達担当をしているだけあって、マギーさんは馬の装備の欠点を一瞬で見抜いた。生馬には重過ぎると。

「これを着ていた馬は魔物だったのかしら?」

「まあ、そんな感じですね」

「また値が付けづらい物を……」

「前時代的ですが、なかなかどうしてこの手のコレクターはいるものですよ。オークション預かりでよろしいですか?」

 セットにならなかった半端物はまたセットができたらということで、差し戻されたが、二体分の鎧はオークションに掛けられることになった。

 ミスリル装備は完全セットなので正規の値段で、と言っても法外な値段で買い取られた。

 今日一日の稼ぎとしてはこれ一式で充分である。

 職員が念入りに馬を解体していく。入れ子のようにまとめると意外に小さくまとまった。

 マギーさんとはカウンターで少し話した。

 エルーダのギルドハウスの様子を結構真剣に聞かれたので、もしかすると本気で、と思ったら、あそこに菓子を卸してるのはそもそも『マギーの店』なのだそうだ。二号店どころかもう食い込んでいたわけだ。相変わらずだな。

 ヘモジとオクタヴィアはそのまま中庭を突っ切って、ヘモジの畑の様子を見に行くらしい。

 僕は薬を作りに家に戻った。


「幾つ、消費したんだ?」

 ロザリアの分と予備の大瓶が二つ完全に空になった。他にアイシャさんやみんなの分も多少消費されたはずだ。

「大瓶で四つ作っておけばいいか」

 調合用の作業部屋に向かう前に保管庫から、必要な薬草を取り出した。いつも『万能薬』ばかりで、『完全回復薬』はなかなか減らないから、久しぶりだ。


 作業が終わったときには既に日暮れていた。



「コンプリート!」

 リオナが飛び跳ねた。

 僕はロメオ君と手を叩き合った。

 ヘモジも側にいたナガレとハイタッチだ。

 オクタヴィアは僕の後頭部を尻尾で殴りつつ、肉球で僕のこめかみを叩きまくった。

「はいよ、タッチ」

 オクタヴィアとタッチを交わした。

 確かに嬉しいことだが、そんなにテンション上げることか?

 まだ昨日の撤収ポイントにすら到達していないのに。


 大勢の冒険者が被害に遭った翌日、僕たちは迷宮に戻った。

 そして、なるべく敵をスルーしながら、昨日の撤収ポイントまで最短コースを進んだのだが、その段階で遭遇した敵を討伐していたら、なんと早々とワカバの装備が揃ってしまったのだ。

「目標を失った感じ」

 オクタヴィアが呟いた。

「出口を見つけるのが目標だろ?」

「気を抜くな。罠があるかもしれんのだぞ」

 ご主人が不抜けた猫を諫めた。

「糸玉欲しい」

 ロメオ君も繰り返しの作業に辟易としていた。

 確かに暢気に昼飯を食っていたら、攻略は一向に進まないだろう。

「真剣に野営を考える必要があるのかしらね」

「最短の壁をぶち抜いたらやっぱりまずいよね」

 それはさすがにまずいだろ。このレベル帯で『闇の信徒』が出てきたらどうなることか。

「取り敢えず、今日のところはいつも通りやりましょう。昨日は午後中止でしたし」

 ロザリアが言った。

「新しいショートカットの道も見つかるかも知れないのです」

 そうあって欲しいものである。

「こんな殺伐とした場所で昼食なんてね」

 ナガレも同意した。

 視線さえ通っていれば転移できるのにな。

 次の敵がお出ましだ。


 ようやく昨日の撤収ポイントに着いた。多少慣れたせいで、半分の時間で到達できた。

 広い空間に騎士が二体いた。

「あの馬って売れたの?」

 突然ロメオ君が聞いてきた。

「コレクターに売れるかもって言ってた。オークションに掛けてみるって」

「まだゴミになるか分かんないんだね」

「欲しいの?」

「庭に飾りたいなと思って……」

「ロメオ君ちの?」

「ギルドの」

 確かに殺風景ではあるな。馬車のロータリーとして広い空き地になってるだけだからな。

「看板代わりによかろう」

「どうせだったら騎士も背中に乗せたら?」

「それがいいのです」

「騎士団の詰め所と間違われちゃうよ」

「それもそうだ」

「取り敢えず回収が先じゃ」

 強めに衝撃波を放った。アイシャさんと僕さんが一体ずつ担当した。

「避けた!」

 範囲を絞り過ぎた!

 僕が担当した騎士が突っ込んでくる!

 ヘモジの頭上を飛び越えた。

 が、そこには結界の障壁が。

 馬の鎧が衝撃を受けて四散し、乗っていた騎士も落馬した。

 本体を見つけてリオナとヘモジがとどめを刺した。

 もう一体は最初の直撃を受けてくたばっていた。


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