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エルーダ迷宮ばく進中(ワカバのために)10

 ほとんどの患者は聖堂のながで生き残った奇跡に感謝していた。が、たった一人、ベッドから起き上がれないでいる者がいた。

 意識はなさそうだが、雰囲気から察するに、今のところ命に別状はなさそうだ。

「容態は?」

「『完全回復薬』で回復させたときに、作業を急いだせいで折れた骨がそのまま」

 ロザリアは患者の身体を捻って曲がったふくらはぎを見せた。

 このままでは歩けなくなることは必至だった。

 折れた骨に気付かず、なんらかの外圧を掛けたまま回復させてしまうと、魔法や薬の回復力ではどうにもならずに曲がったまま結合してしまうのだ。

 当人に意識があれば違和感という形で気が付くだろうから、自ら身をよじるなりして避けられるケースが大概なのだが。

「薬の在庫は?」

「アイシャさんの分がまだ手付かずで残ってます」

「じゃあ、やろうか」

 幸い聖堂には聖結界が張られているので、浄化処理は不要だった。

 乱暴極まりないがここは骨を多めに除去して、『完全回復力』による再生能力に期待することにした。

 大腿部の手術はやった記憶が残っていたので助かった。

 臓器近辺だったら、スプレコーン領主館の医師、アンジェリカ先生の助けが必要だが、大腿部なら僕でもやれる。

 骨が確認できるように切開はしたが、手術自体はすぐに終わった。

 最後に切開した傷口に回復薬を垂らした。

「『完全回復薬』は偉大だ」

 僕がそう言うと、コホンと、野次馬と一緒に遠巻きに見ていた修道女に咳き込まれた。

「神は偉大だ」

 するとみんなほっとしたのか、コロコロと笑い始めた。

 血が付いた衣装をロザリアに浄化して貰った。

 アイシャさんはいつの間にかやって来ていたリオナたちといっしょに、じゃがバターを頬張っていた。

 芋を頬張っている口で「お腹空いたのです。早くお昼にしたいのです」とリオナに言われた。

 後は教会関係者とギルドスタッフに任せて、僕たちは食堂に向かうことにした。

 教会の子供たちがお昼を誘ってくれたが、人が入り乱れていて、忙しそうだったので遠慮することにした。シスターたちもたぶんこれからだろう。潤沢な運用資金のある修道院に遠慮は無用だが、家人より先にいただくのは気が引ける。


「あ、満員だ……」

 今更修道院に戻ることもできずに、行き場を失った僕たちは、行列の先にある食堂の扉を恨めしそうに見詰めた。

「ギルドハウス行くか?」

「あそこじゃお腹いっぱいにならないのです」

「ねえ、今日はもう中止にしない? 『完全回復薬』も大分使ってしまいましたし」

 ロザリアの言う通り、確かに中途半端な時間ではあった。

 ロザリアはまだ修道院の方が心配のようだった。自分の手で全員治療しただろうに。

「ならリオナはロザリアの護衛をするのです」

「じゃ、わたしはリオナの護衛ね」

 お前らは昼をたかりに行きたいだけだろうが!

「妾も中止に賛成じゃ。集中が途切れた」

 確かに今から気合いを入れ直しても、殲滅後の敵も現われない通路をひたすら進んで終わりのような気がする。

「じゃあ、各自解散でいいかな?」

 全員が頷いた。

「僕はピノたちの所に押しかけようかな」

 ロメオ君が言った。

「食事は?」

「その辺の屋台で買うよ」

「妾は本屋に寄ってから帰るとしよう」

「じゃあ、僕も回収アイテムだけギルドハウスに落としたら帰ろうかな」

 ヘモジとオクタヴィアは僕に付いてくるようだ。

「では解散!」


 まずは装備品の山をなんとかしないといけない。勿論、ソウル品はギルドハウスに卸しはしない。が、それでも数が多い。

 馬車を普通に借りようと思ったが、怪我人の運搬やらですべて借り上げられ、修道院の方に出払っていた。

 僕は仕方なく迷宮の適当な階に入ると、そこで魔法を使って荷台を作り、簡易運搬用の『浮遊魔方陣』を底に貼り付け、台車を作った。

 それにドロップ品の入った回収袋を山積みにした。

 ギルドハウスに向かう道すがら、荷物のてっぺんで、猫が台車を運ぶ音頭を取るものだから、なおさら目立ってしまった。


 ギルドハウスの客層がガラリと変わっていた。若い女性たちや身なりのいい人たちに座席が占領されていた。

 テーブルには飲み物と一緒に御茶請になる菓子などが並んでいた。

 照明も暗めで、まるでお洒落な喫茶店だ。 

 ヘモジとオクタヴィアに外で荷物の見張りをさせておいて、僕はカウンターに向かった。

 職員がすぐ出てきて、僕たちが運んできた回収袋を、お洒落なはずの店内に気遣うことなく運び込んでいった。

 お客さん逃げちゃうんじゃないの?

 フルプレート装備をワンセット担ぐだけでも重労働だ。五人程の職員で往復を繰り返した。

 さすがに馬の鎧は出せなかったが、もしあっても店のなかには運び込めなかっただろう。そのときは裏の倉庫に直行だ。

 僕は台車を解いて、『浮遊魔方陣』だけ回収すると、ヘモジとオクタヴィアを連れて店内に入った。

 黄色い声が上がった。

「可愛い」の連発だった。

 ヘモジとオクタヴィア、どっちに向けた言葉なのか。

 ふたりとも舞い上がるどころか、怯えて僕に貼り付いた。とても四十八階層を攻略してる冒険者に見えないぞ。

 僕は商品の検分に立ち会った。

「頭から足の先までワンセットになっているだけでも売りやすくなりますよ」と職員が言った。

「多少付与が悪くても買って貰えますからね」

 ソウルの性質上、上から下まで大概揃っているものだが、ソウル品を省いてる分、別のセットから付け足さなければいけなかった。それも同系列の鎧が多いので難しくはなかったのだが。

 装備品のレベルも決して低いわけではなく、中上級者向け迷宮での中クラスだ。世の中を基準にすれば中の上と言ったところだ。

 付与に関しては取って出しだし、あまり気にしなかった。

 検品が済むと精算である。

 付与効果の高い装備はまずまずの値段で売れた。その逆もあったが、セット販売のおかげで下げ幅は縮小された。

 移動前に少し腹に入れておこうと、席に着いたが、どうにも落ち着かない。

 僕たちは早々にエルーダを発ち、スプレコーンのレストランで遅い昼食を取った。


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