エルーダ迷宮ばく進中(ワカバのために)8
昨日の順路をこなして、本筋の一本手前の通路に出る扉の前にいた。前回は脱出優先で、入口方向に向かったが、今回は攻略していない反対方向に向かうことにした。
シンメトリーが続いているとなると、この先には行き止まりがあり、宝箱があるはずなのだが……
敵がいた。
オクタヴィアが笛を吹く。
敵はあたかも使役されているんじゃないかと思える程素直に、誘われやって来る。
もはやマップ情報にはないルートであるから、脇道がないとも限らないが、敵の反応は今のところ一つだ。
爆発が突然起きた。
どうやら角の向こうでまた罠に嵌まったらしい。
「……」
回避する概念はないのだろうか?
「来られるかな?」
ロメオ君と顔を見合わせた。
しばらく待ったが動く気配はなさそうだった。
迎えに行った方がよさそうだ。
ヘモジを先頭に僕たちは進んだ。
本日のランダムの罠は爆破系が多いとみた。昨日のように頭の上を槍が通り過ぎるようなことはなさそうだ。
ゆっくりと、しっかりと前へと進んだ。
怪しい場所には魔法で作った石を放り込んで確かめる。
角を曲がったところで爆風に巻き込まれたお間抜けさんを発見する。
籠手や足装備が周囲に飛び散り、人の体をなしていなかった。
ヘモジがハンマーを振り下ろしてとどめを刺す。
よくよく探したが頭の部位が見つからなかった。本体は胴鎧にあり、元々なかったようだ。
道理で前が見えなかったわけだ。
突き当たりは突き当たりではなく、そのまま真っ直ぐ通路が伸びていた。
完全に地図情報から離れてしまった。
だがやることは変わらないので、ひたすら罠と隠し通路を探りながら前に進んだ。
僕らの進んだ後に道はできるのである。
敵は相変わらず散発的に襲来するだけだった。
「軽装!」
リオナが敵を発見!
本体はどこだ? 頭じゃないところでお願いしたい!
「左足!」
おっしゃ!
アイシャさんの放った衝撃波が敵の身体を貫いた。
ソウルは膝を突き、前のめりに倒れて動かなくなった。
おっしゃ!
みんな拳を握り締めた。
僕は木片に火を付け、燻しながら確認する。焦げた臭いが辺りに充満した。
「間違いない」
ワカバの左足装備をゲットした! 膝当て、すね当て、靴のセットだ。
この調子だと、集まるのも早いかな? いやいや、こういうのは最後の一個が被ってしまってなかなか集まらないものなのだ。楽観してはいけない。
僕たちは通路をひたすら進む。右手の壁に扉を見つけた。一方通行だとまたやり残しが出ることになるので後回しにする。
ロメオ君が目印に魔法で作った小石を置いた。
なるほど転ばぬ先の杖か。
左手にも扉が見つかった。こちらも同様にした。
通路は渦を巻くように左折を繰り返した。そして先程あった扉と今度は右手側で再会する。
「ショートカットかな?」
扉を開けると足元に目印の小石を見つけた。
一通ではないらしい。
このまま行くと…… 螺旋の中心が待っている。
案の定、通路の長さはどんどん短くなっていく。
近くで敵の反応があってもなかなか遭遇しなかったりで、意外に距離感の取れない戦闘が続いた。
そして今目の前にあるのが行き止まりの扉。
ロメオ君が記してきた地図にも四角い空洞が描かれていた。
「また部屋かな?」
僕たちはこっそり扉を開ける。
「一、二…… 三…… 四…… ?」
なんだか大きな影がある。
スキルを使って確認するとなんと、馬に乗った騎士がいた。
「面倒臭そうー」
ロメオ君とリオナが同じ顔をしていた。たぶん僕もだ。
「よくあれで腰折れしないもんだよね」
重量のある鎧人形が中身のない馬の背の鞍に跨がっているのだから心配だ。
それは実際の戦で使う鎧というより、貴族の豪邸に飾られている鑑賞用の板金製の像だった。実戦では重くて脚にまで装甲など着けていられない物である。が、目の前にいる馬鎧には全身を支える金属の脚鎧が見えているのである。
生憎軍馬は持ち合わせていないし、生きた馬には荷が重そうな装備だから、どうでもいいのだが。ミスリル製なら考えてもいいだろう。
「先手必勝でしょ!」
ナガレが杖を構えた。
「しょうがないな。馬にひかれるなよ!」
「誰がよ!」
全員が一斉に部屋に飛び込んだ。
アイシャさんの先制攻撃! 僕の二発目! 生き残った奴にナガレとロメオ君の一撃! それでも健在なら!
ヘモジが馬の横っ面を叩いて、落馬した騎士をリオナが倒した。
「なかなか丈夫だったわね」
「まだだ!」
馬が生きていた!
ヘモジがぶっ叩いた。
「こっちにも本体が憑依していたのね」
皆感心しながら、横たわっている鎧を見下ろした。
「これ、買い取って貰えるのかな?」
生憎ミスリルではなかったので、転売を考えた。ソウル品だって欲しくはない。取り敢えず『楽園』に放り込んだ。
「あった」
オクタヴィアが呟いた。
ペシペシと僕を尻尾で叩く。
「どれどれ」
角に隠れていた一体を早速燻してやる。と右腕に本体があった。
僕が回収を行なっていると皆、馬ではなく、倒した騎士鎧の方に集まりだした。
馬上にいたから衝撃をもろに受け、部屋の隅に転がっていた。
「どうした?」
オクタヴィアとヘモジが指差す方を見た。
それは他の物とは一線を画す代物だった。
全身ミスリルだった……
当然本体があるだろうから…… おや?
「本体は?」
「あれなのです」
リオナが指差したのはそれは見事なハルバートだった。




