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エルーダ迷宮ばく進中(ワカバのために)7

 一旦迷宮の外に出ると、景色は一変していた。

 ざっと見て十組程のパーティがゲート前で長い列を作っていたのである。

 大勢の冒険者たちは僕たちが出てきたことに驚いたようだった。

 僕たちは急いでその場を後にした。

 門番さんが手を振る。

「どうしたんですか?」

 僕たちは門番さんに駆け寄った。

「四十七階層の本格調査だそうだ。リセットの調整をしてるらしいから、当分あのままだ」

 あの人数で裏技?

「随分多いですね」

「あれとほぼ同じ数が既に迷宮のなかに入ってるよ」

「大丈夫かな?」

 ロメオ君が呟いた。

 上級の冒険者たちは恐らく真っ先になかに入ってるだろう。

「ほんとだ。ゲートの出入りが頻繁だ」

「終わるまで待った方がいいですか?」

 リオナが尋ねた。

 オクタヴィアとヘモジと一緒にクッキーをポリポリ食べていた。

 休憩する気満々じゃないか。

「割り込まない方がいいだろうな。下手すると四十七階層に落とされる」

「じゃ、休憩ということで」

 食堂に向かうと、同じ事を考えていた連中で一杯だった。

「参ったな」

 滅多に顔を出さない『銀花の紋章団』のギルドハウスに向かった。

 するとここも人で溢れていた。丸いテーブルの席にもカウンター席にも力自慢の冒険者たちがひしめいていた。

「こんなにいたんだね」

 ロメオ君が感心するとリオナたちも頷いた。

 いつの間にか『銀花の紋章団』の団員は数え切れない程の数に膨れ上がっていた。

「ここも一杯ね」

 ナガレが溜め息をつく。

「兄ちゃん!」

 ピノの声がした。

 大の大人たちに囲まれてピノのチームが暢気に中央の丸テーブルでジュースを飲んでいた。

 空中庭園用に水の魔石を採取をしている『ユニコーンズ・フォレスト』直属の部隊も押しかけていた。こちらは正式武装ではないが同じ装備で統一されていた。

「若様も追い出されたのか?」

「こっち座っていいよ」

 子供たちが空いている席に案内してくれる。

「悪いな」

 僕たちはピノたちの斜め奥のテーブルに座った。

「若様たちは調査に参加されないんですか?」

 カウンターの職員が注文を受けにやって来た。

「報告書上げたの僕たちなんで、当事者は基本的に参加できないんですよ」

 銘々が飲み物を注文した。

 なぜかリオナとヘモジとオクタヴィアがクッキーを各テーブルに配布し始めた。

 聞けば皆後輩だからだそうだ。

 だったらもう少しましな物を配ればいいものを。と言っても冒険前で碌な持ち合わせがないか。また非常用にパン屋に大量発注掛けておくかな。

「ワカバの装備揃いそうなのか?」

 ピノが人前で聞いて欲しくないことを聞いてくる。

「難しいのです。ワカバはチビだから」

 お前と変わんないだろうが。

「普通の体型の鎧ならゴロゴロ取れるんだけどね」

 ナガレも口が軽い。

「それって凄い?」

「凄くはないわよ。保って中層ぐらいまでね」

「どこで取れるの?」

「四十八層」

 ガン! 子供たちがテーブルに頭を打ち付ける。

 一連のギャクを見ているようだ。

「ギルドにも多少回していただけると有り難いんですが」

 ジュースを持ってきた職員が言った。

「ギルドには名工が大勢いるじゃないですか」

「その分値が張りますし、装備を消耗品と捉えている者には縁遠い代物です」

 名工ともなれば、失敗作は鋳つぶして再利用するのが常だから、使い捨てレベルの物は棚には並ばないわけだ。ギルドの信用もあるしね。

 そうか、ジャンク専門の売り場もあった方がいいのかもしれないな。

「分かりました。こちらに卸せばいいですか?」

「ええ、そうして貰えると助かります。一定レベル以下の物ならここで売り買いすることが許されるようになりましたので」

 それは朗報だった。

 以前はここで回収した物をわざわざ行商人がギルド本部まで馬車で持ち込んでいたのだ。その関税分がアルガスの取り分になっていたのだが。

「さすがに不便だという意見が多く集まりまして、事務や税務処理なんかはみんなアルガスのほうでやってくれることになったんです。おかげで大概の物はここで売り買いできるようになったんですよ。ただ、さすがに高級品は本部扱いなんですけどね」

「なるほどね」

「一日早く聞いていればね」

 ナガレが心にもないことを言った。

「今日中にガラクタの山にしてやるのです!」

「それは…… ちょっと……」

 買取は一階カウンターで、販売は二階だそうだ。

 時間潰しも兼ねて二階に上がった。

 宿泊施設のラウンジには棚が設けられ、商品サンプルなどが並んでいた。

 装備類はその物ではなく、置き場所を節約するために、仕様などが書かれたタグが代わりに置かれていた。

『○○工房習作』の文字が結構目立つ。

 仕様は僕の初期装備並みで、お世辞にもいいとは言えなかったが、値段は破格だった。

 初級迷宮を根城にしている連中も、より安価で高性能な品を求めて、わざわざ買いに来ることがあるらしい。

 とは言え、商品はドロップ品が大勢を占めていて、客の狙いも自分に合った掘り出し物狙いなのである。

「兄ちゃん、列が少なくなったって」

 わざわざピノが二階まで知らせに来てくれた。

「よし、行くか」

「おーっ!」

「あれ、お前たちの付き添いは?」

「今日はユキジ婆ちゃんなんだ。なんかショッピングに行ってくるって出てったけど」

 子供たちは軒先を出ると、空に向かって「婆ちゃん始めるぞーっ、今ゲートに行くからなーっ!」と叫んでいた。

 大人たちが笑みを浮かべてその光景を見ている。スプレコーンの住人でなければ、首を傾げるところだ。

 僕たちもカウンターの職員に手を振ると、ピノたちの後に続いた。


 一方通行の先のエリアでやり残しもあったし、ロメオ君も合流したので、最初からやり直すことにした。

「敵発見!」

 リオナの合図と共にオクタヴィアが笛を吹いた。

 ピーッ。

 装備をぶん投げるよりましな方法だった。これで操れたら御の字なんだけど。使役はソウルには利かないようだった。

 角を曲がってきた敵にアイシャさんの一撃が炸裂した。

 さすがに二日目ともなると最適化は進むようである。

 今回からはソウル品を選別するだけで、残りは丸ごと回収袋に放り込むことにしていた。

 攻略にはリズムが大切だ。

 一方通行の敵を倒し、突き当たりの宝箱を目指した。

「地図はもう出ないですか?」

 中から出てきたのは……

「ああ!」

 これはまさかの、懐かしい…… 『嫌がらせの剣』である!

「お宝ゲットだーッ!」

 僕は喜んだが、僕以外の連中は「どこが?」という顔をしていた。

 僕が麻痺、毒、混乱、疫病、石化、即死、状態異常ランダム発動付与付きで攻撃力一の剣だと説明しても同じ顔をしていた。

 使用回数だって借りていた剣より三回も多いというのに!

「あんたのこだわりが分からないわ」

 ナガレに呆れられた。

「人には歴史があるんだよ」

 僕が貰うからと言っても誰にも反対されなかった。

 今日一日ご機嫌でいられる気がしてきた矢先、例のふたり組の敵が前回同様動き出した。

 こちらからだとどうしても分けて誘導できない。

「また挟撃してくるです」

 この辺はルーティーンかなと思ったら、最初の一体をロメオ君が完全に凍らせて葬った。

 二体目は挟撃を中止して定位置に戻っていった。

「あら?」

「倒すの早かった?」

 どうやらそのようだ。

 二体目は、凍った一体目の遺体が転がっている方に進み出した。

 こちらも罠を警戒しながら少し前進した。

 そして二体目が角から姿を現わす。

 アイシャさんが放った衝撃波が通り過ぎた。

「なんとも呆気ないのう」

 装備の回収を始める。

「お!」

 軽装だ。ワカバ用の装備候補が出た。本体は頭だった。

「おー」

 みんなが声を上げた。普通に鉄製だったが、いろいろな耐性が付いていた。

 蜂蜜大好きっ子には毒耐性は有り難いだろう。

 取り敢えずソウル品は専用の袋に放り込む。残りは別の回収袋へ。

 地下階段のある部屋に突入して、四体を殲滅すると僕たちは階段を下りた。

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