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エルーダ迷宮ばく進中(ワカバのために)6

「なんや、若様か」

「こら、ワカバ!」

 相変わらずだな。

「どうしたんですか?」

「いや、大したことねぇんだども、ワカバが装備を揃えたい、言うもんでよ。探し回っとったんだわ。んだけんども……」

 はあー、と大きな溜め息を漏らした。

「目的の物はなかったんですか?」

「なんでや! なんで置いてへんのや!」

 チビ熊が手足をばたつかせた。

 いきなり睨まれてもね。

 ここに置いてある物は商売と言うより、道楽だからな。

「ピノたちのことを聞いたもんで、自分もいい装備が欲しくなったんだべさ。そんで店を梯子しとったんだけんど、気に入ったもんがねくて。それで困り果てちまってよ」

「いくら何でもワカバのサイズは…… オーダーメイドしかないんじゃないですか? そもそも子供用の実戦向きの鎧なんて売ってるわけがない」

「なんでチコたちにはあってうちにはないんや!」

「ドラゴン装備はオーダーメイドだし、うちの船員の正装だからな」

「ずるいやんか! うちにも作ってくれや」

 誰かを贔屓すればいつかはこういう泥沼になることは分かっていたのだが。赤の他人じゃないから問題だ。他人なら姉さんの言うように歯牙にも掛けないのだが。

「助けてやりたいのは山々だけど……」

 結論はオーダーメイドしかない。出来合いを加工するくらいならその方がいい。

 でもそうなると、トレド爺さんの予算が……

 遠縁の娘のために、数年で使い物にならなくなる装備を買うために互助会制度を使う羽目になるのではないか? 

 あの大きな溜め息はそういうことだろう。

 そもそも、育ち盛りの今、高価な装備で身を固めさせるというのは…… 一種の贅沢と言えるだろう。

 他人のことは言えないが。

 いくら仲間のよしみであっても他の長老たちが審査を通過させるか、甚だ疑問である。第一、トレド爺さんのためにならない。

 少なくとも成人するまで待たせることになるだろう。

 でも目の前のワカバは納得しないよな。

 待てよ? ああ、そうか。今日売り払った標準装備でもエルーダの中層までは行けるんだよな。だったら何も置き土産付きでなくたって。重装は無理だとしても、軽装の鎧なら加工すればいけるんじゃ。

「ちょっと着て見ろ」

 側にあった鎧で寸法を確かめる。

 どう見ても装備が大き過ぎるんだよな。いくら熊族でもまだ子供だ。

 クヌムのあの店でなら少しは加工して貰えるだろうか? リオナと同じサイズでいけるかな?

「武器は?」

「こないだ古い奴さ研ぎに出したついでに、新しいの一本、買ってやったんだわ」

 トレド爺さんも孫のようなワカバが可愛いくて仕方ないのだろう。

「ちょうど今潜ってるフロアで装備品が結構手に入るんだ。合いそうな物があったら回収しておいてやるよ」

「ほんまか!」

 黙って加工代ぐらいは出してやることにしよう。

 みんなにそのことを話したら「ワカバにも困ったものだ」と全員口を揃えた。が、反対する者はいなかった。むしろどんな物がいいのか、議論を戦わせ始めた。

「いっそ、クヌムであつらえることはできませんの? その方が苦労はないんじゃありません?」

 確かにロザリアの言う通りだ。

 どうせ、ドロップ品と金代わりの魔石が入り乱れるんだ。オーダー品が紛れていてもあまり関係ないんじゃないだろうか?

「問題はオーダーできるかじゃな。加工以上のことを果たしてしてくれるかどうか」

 加工できる工房があるんだから、オーダーもできそうなもんだが。

 取り敢えずは明日だな。


 夕食前にロメオ君の家に、明日、攻略に参加できるか聞きに行った。

 ロメオ君の部屋には新たに増えた蔵書が山積みになっていた。

「何これ?」

「参考資料だって」

 姉さんか。

 いらなくなった本を預かった。後で返しておこう。

 額縁に入った書状が壁に掛けられていた。

「『ロメオ工房』……」

「営業許可証だって」

「もう許可下りたの?」

「そうみたい。本物は金庫のなかだよ」

 え? これレプリカなの?

 裏を覗いたりして、しばし眺める。

「うまくいきそう?」

「目下、解読作業だけで手一杯」

「ダミーとかは?」

「今のところは見当たらないかな」

「明日なんだけどさ」

 攻略参加の承諾を受けて、僕は今日の出来事をかい摘まんで話した。

「僕も誘ってくれればよかったのに」と言われた。

 ゴーレム研究はライフワークだけど、そのせいで冒険をおざなりにはしないから、と念を押された。

 それと早速、新しい加工方法が気になったようである。

 ついでにワカバのことも話したら、大笑いされた。

「ロザリアの言う通りにできればいいけど」

「子供専用の実戦用装備の売り場作るのはどうだろ?」

「保護者が怒りそう」

 リオナやピノの年齢で迷宮通いしてることがそもそも異常なのだ。

 特例中の特例なのに…… それが当たり前になりつつある。

「大体ワカバはまだ初級迷宮でしょ。現状装備じゃ駄目なの?」

「熊族は力自慢が取り柄だし、ワカバは猪突猛進だからな。きっと正面から殴り合いでもしてるんだろ」

「そりゃ、装備も傷みそうだね」

「不釣り合いな装備も、転ばぬ先の杖ってことかもね」

「一度どんな戦い方するか見てみたい気もするけど」

 僕たちは笑った。


 翌日、フルメンバーでクヌムの武具屋にやって来た。

「うわー」

『ソウルの置き土産』で上方修正された武具の類いがとんでもない価格で店頭に並んでいた。 ロメオ君は目を輝かせた。

 が、昨日売り出した装備の方はもう売り切れていた。

 兄さんへのプレゼントがたった一日で仕上がっていた。

 プレゼント用に梱包までして貰った。

 ガチガチの防御仕様だったが、標準で物理攻撃力も付いていた。しかも素で三百もある。

 まさかリオナの『霞の剣』を超えるとは……

 その分魔法攻撃力はゼロだが。『鎧通し』を使う人だからいいでしょ。予告通り付与は一切なし。すべてステータスの底上げに回して貰った。

 ロメオ君があまりの潔さに笑った。

 兄さんもきっと笑ってくれるだろう。


 リオナが装備の加工について尋ねていた。それは自分に合ったサイズに調整してくれるのかということと、オーダーはできるのかということだった。

 前者は可能、後者は不可と返答があった。

 前者に関してはもう兄の装備がここにあるわけだし、説明は不要だろう。ただ、常識的な限度はあるらしく、小さい装備をでかくはできないし、でかい装備を限度を超えて小さくもできないそうだ。まあ、当然だな。

 それに大きく変化させようと思ったら『ソウルの置き土産』が必要になるらしい。

 要するに『ソウルの置き土産』というのは、装備の形状や内包するスペックを変えるための燃料のような物らしい。ワカバの装備を作るためにはソウル品でなくてはいけないということだ。当然、形状変化のために用いられた魔力分だけ、ステータスアップは望めなくなるらしい。

 オーダーメイドに関しては、彼らにゼロから作る能力がないというだけの話で、すべてはドロップありきなのだそうだ。

 どちらにしてもワカバに装備を供給できるのはこの店だけである。

「思ったより厳しい……」

 リオナが呟いた。

 では、軽装備全部位、ソウル品収拾に出かけよう。


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