エルーダ迷宮ばく進中(フライング)4
そろそろ最初の行き止まりである。
「宝箱でも置いてないかな」
僕が軽口を叩いたら、ナガレに「まだお宝が欲しいの?」とからかわれた。
「あったのです!」
「ほら」
「うるさいわね! 早く開けなさいよ」
ヘモジとオクタヴィアとリオナが僕の背中に張り付いた。
好奇心で身を滅ぼす上位三人だ。
結界を張りつつ、宝箱を開けた。
「あ」
期待してなかったんだけど……
「ナーナ」
「地図」
「地図なのです」
ナンバリングがしてある『十分の一』と。
「あれ?」
マップ情報の地図と照らし合わせる。
「……」
「十枚もある?」
この地図の大きさだと、ゴールまで縦二倍、横二倍、合計で四枚あれば済む。
「縦に三、横に三じゃない? ゴールがエリアの中心だとすれば」
ナガレが言った。
「それじゃ四十七階層と同じだよ」
「距離は大分違うがな」
「残りの一はなんですか?」
「抜け道の地下通路とか?」
「落とし穴!」
オクタヴィアが嬉々として言った。
もしそうなら穴と呼べるスケールじゃないからな。そうなったら地下の大空洞だ。
「じゃ、来た道を戻るぞ」
オクタヴィアが両手を揃えてひょいひょいと手招きする。肩に載せろという合図だ。
僕は膝を落として肩を低くする。
「このまま戻っても出られないんじゃない?」
ロザリアが言った。
「そうか、一方通行」
情報提供者は一旦外に脱出したようだ。
宝箱で地図を引かなかったのだろうか? もしかして開錠、難易度高めだった? と思ったら地図にも一方通行の印までは入っていなかった。
「隠し通路かな?」
取り敢えず戻りながら調査する。いくらなんでも脱出前提で迷宮が構築されているとは思えない。
それぞれが、右の壁、左の壁を触れながら進んだ。
「隠し通路があっても慌てるなよ。その先に敵がいるかもしれないからな」
「その手があったのです!」
なぜかリオナとオクタヴィアが反応した。
「敵の臭いがしたらそっちに通路がある!」
オクタヴィアが凜々しい。
一方通行の扉に向かってゆっくり引き返していたらリオナが静止した。
「あった」
オクタヴィアが呟いた。
僕は壁の明かりを頼りに通路の距離を測って、記録する。
一本道のほぼ中央地点だった。
「敵はいないのです」
「罠は……」
明かりを照らす。
ヘモジが頭を向こう側に突っ込んだ。
「ナーナ」
手招いた。
僕たちは後に続いた。
一本道と並行するように通路が並んでいた。
「どっちから行く?」
多数決で入口に近い方に向かうことにした。
「敵なのです!」
見晴らしのいい直線だった。勿論光は届かないので先に行く程薄暗いのだが。
罠がないか目を細める。
戦闘中に引っ掛かったんじゃ洒落にならない。
回りに罠がないことを確認すると武器を構えた。
「じゃ、呼ぶか」
要らない防具を通路の先に投げた。
転がる大きな金属音が通路に響き渡った。
「ああッ! 二体だ!」
敵のいる方角が被っていたので反応を見誤った。
二体が同時に動き出した。が、進んでくるルートが違う。
地図を見て確かめる。
これは……
「挟み込むつもりだ」
一体は僕たちが保留した方向から回り込むつもりのようだった。
「距離的には回り込んでくる方が遅そうね」
「なら、決まりじゃ」
前方から一体が姿を現わした。
が、一体はそこで立ち止まった。
挟撃するタイミングを合わせる気のようだ。
「だったら」
僕はライフルを取りだした。
だが先にリオナに発砲された。
敵は片足を吹き飛ばされ、床に崩れるように転がった。
「本体は勿体ないのです」
これで同時攻撃はなくなった。
後方から迫る一体を余裕で吹き飛ばしたら、前方の処理に向かう。
「ナーナ!」
ゴイン! 芯が外れた音がした。
とどめとばかりに振り上げたミョルニルを急所に叩き付けたのだが。
やはり手が痺れたようだ。
前方の敵はごく普通の盾持ち重歩兵だった。盾を構える前に片足を失ったことが敗因だ。
「重いだけじゃな」
装備も大したことがなかった。
後ろの敵も同じく重歩兵だったが、こちらは見るからに当たりだった。
剣が輝いていた。
「ミスリルだ!」
でも本体は頭で、普通に鉄だった。
「…… 大したことないな」
ミスリルと言えど、魔法攻撃力が付与されてないんじゃ、意味がない。工房の加工品の方が遙かにましである。
それでも獣人たちには有用か? ミスリルの素材効果に加えて物理がプラス二百ある。
でもな…… 同じ性能ならミスリルじゃなくたって。無駄金を使うことになるかもな。
「売りなのです」
「そうじゃな」
「魅力がないわね」
「ない、なーい」
「ナーナ」
「冴えませんわね」
僕がスペックを読み上げると全会一致で売却されることに決まった。
「では売りで」
他の装備も標準的な物だった。このフロアの標準はピノたちの剣のレベルのようだ。つまり中層レベル。
なかなか当たりには巡り会えそうもない。
罠を解除しながら、本線に戻るための道を探した。
が、ぐるっと一周回っても外周には出口が見当たらなかった。
「となると、この回廊の内側になんらかの出口があるはずなのだが」
内側には進む扉が一つあるだけだった。
「一周した限り完全な閉鎖空間だ。下手をすると罠部屋という可能性もありえる」
「懐かしいのです」
「そんな物もあったな」
暢気な反応が返ってきた。
「扉は開けたまま。罠に要注意だ!」
ヘモジが扉を壊した。
「ああ」
「簡単に壊れるようじゃ、罠とは無縁じゃな」
「『増援』が発動したとき困りますよ」
「そのときはソウルが破壊するじゃろ。同じことじゃ」
が、それ以前の問題だった。
ヘモジのたてた音に反応したソウルが部屋の四隅から一体ずつ現われたのだ!
「手加減できないのです!」
「当然だろ!」
「殲滅優先じゃ!」
アイシャさんが全方位に衝撃波を放った。
が、まともに食らったのは一体だけだった。一体は盾でカバーし、残りの二体は物陰に隠れてやり過ごした。
だがもう一発来ることは想定していなかったようだ。
やり過ごして攻撃に転じたところでもう一撃食らったのである。
盾で一撃目をかわしたソウルは完全に沈黙し、残りの二体も吹き飛んで後方の壁に激突した。
「反応はまだある!」
ヘモジとリオナが二手に別れて駆けだした!
そして壁から剥がれ落ちてくるソウルにそれぞれとどめを刺した。
「トラップとも言えなくはないわね」
ナガレが口角を上げた。
ある程度は想像していたが、部屋の中央に下りの階段が現れた。
もう一枚の地図への入口である。
「別の場所に繋がってるわけね」
正確な地図を書かないと迷子になるな。まずは方角。慎重に確認しながら階段を降りる。踊り場で折り返して降り立った所でさらに右に折れる。
いろいろ逆算したら僕たちは本線のある方角を向いていることが分かった。
距離感が掴めないので歩数を数える。ロメオ君とそう大差ないと思うのだが。
地図に出口までの歩数を書き込んだ。
同じような階段を登るとまた敵だ。数は同じ、四体だ。




