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エルーダ迷宮ばく進中(フライング)2

 翌日、クヌムの武具屋にこぞって押しかけた。

 店先に昨日売ったばかりの防具類が並んでいた。

「これだ!」

 胴鎧を僕は『認識』スキルを使って見た。

 リオナたちは値札に書かれたスペック表を覗き込んだ。


『プレイトメイル(胴)ソウル品。防御百九十七。魔法防御二百三――』


 属性防御は材質相当分だった。

「モゾモゾする」

 リオナの第一声だった。単純に切りの悪い数字を言っているんだろうが、スペックは笑いごとではなかった。

 物理と魔法防御双方、二百前後というのは、ピノたちに売り付けた近接百、魔法攻撃力二百の剣ではダメージを与えられないということだ。付与等は一切加味されていないが、素の性能としてはミスリル装備に匹敵する。

 値段はミスリル装備に比べたら遙かに安い。付与の類いが一切無いのは恐らく物理と魔力防御に特化したせいだと思うが……

「ドロップしたのがミスリル装備だったらどうなるのかしら?」

 ロザリアが言った。

 当然、聖騎士団の装備を超えてくるだろう。もっともあっちはあっちでいろいろ特殊付与があるから比べようもないのだが。素のドラゴン装備に匹敵してくるかも知れない。

「面白いことになったのです」

 まさかお前狙ってる?

「カラクリを知りたいところじゃな」

 こっちは危ないこと考えてるし。でも同感だ。僕もカラクリをぜひ知りたい。

「じゃあ、行くのです」

「どこに?」

「決まってるのです!」

「ロメオ君いないのに」

「あやつは今、ゴーレムに掛かりっきりじゃろ?」

「仲間はずれは」

「昨日ひとりで行った人が言わないのです」

 みんなに頷かれた。

「宝物庫ぐらいにしておけばよかった」

 オクタヴィアにパンチを食らった。


「通路が狭いから気を付けろ。隊列と手順に注意だな。それと罠がある」

 あ、盾がなかった。来るつもりなかったからピノから回収してなかった。

「ヘモジ、盾よろしくな」

「ナーナ!」

 なんか無茶苦茶喜んでる。昨夜は呼ばなかったことをかなり怒ってたからな。

 頼られるのが召喚獣冥利というところなのだろう。

 分かってはいるんだけどな。

「ヘモジ嬉しい」

 オクタヴィアも嬉しそうだ。揺れる尻尾がくすぐったい。

「衝撃が通るなら撃破は容易かろう」

 アイシャさんが言った。

 遠距離からアイシャさんの衝撃波が決まればいいのだが。

 昨日倒した奴が、昨日と同様に突っ込んできた。

「ちょっと!」

 ロザリアが慌てた。勿論敵の索敵範囲が広いことに驚いたのだ。だがそれはロザリアだけではない。リオナもオクタヴィアも目を丸くしている。

「なるほど…… 一騎当千ね」

 ナガレの目の色が変わった。

 最後の角を曲がり通路にソウルが姿を現わした。

 今日の僕は結界に専念だ。突破はさせない!

 いきなりファーストコンタクト。衝撃が走る!

「雷撃ッ?」

 武器が昨日と違う!

 昨日は斧だったが、今日は剣だ! それも微光を帯びている!

『完全なる断絶』は傷一つ付かなかったが、驚いた。

 アイシャさんが衝撃波を放った!

 ソウルは軸線を咄嗟にかわした。

 あれをかわすんだから普通じゃない。

 だが完全には避けきれないだろう。アイシャさんはちゃんと通路の広さも計算に入れている。

 しかしソウルは盾を使って衝撃を和らげた。

「頭なのです!」

 ヘモジがミョルニルをよろめく頭上に叩き込んだ。が、これも盾で防ぎ切った。

 ヘモジは咄嗟に後方に跳ねた。

 剣がヘモジの残像を切り裂いた!

「ちょっと……」

 ロザリアが呟いた。

「なるほどエルネストが一体だけで引き下がったわけじゃ」

 リオナも警戒して動かなくなった。だが姿勢はどんどん低くなっていく。

 そこへナガレの電撃が落ちた。完璧に敵を捕らえた。

「麻痺だ!」

 今度こそ動けないだろう。

 ヘモジが盾を叩き落とした。そしてリオナが喉元に剣先を突き立てた。

 反応が消えた。

「強かったのです」

 昨日とは別の強さだ。今日は巧みに盾を捌いていた。防御主体の戦闘スタイルだった。

 早速、アイテムの確認をする。

 アイシャさんにパイプを吹かして貰って確認する。

 リオナの言う通り、兜に印があった。

「剣もなかなかいい性能よ」

 ロザリアが僕に見せた。

「……」

 僕はうなだれた。

 昨日欲しかった……

 ピノたちにやったら面白がって魔石使い果たしそうだな。

「リオナが使ってみるのです。雷攻撃なのです」

「……」

 片方の剣を腰の鞘に戻して、雷の剣を抜き身で握った。

「ロメオがいないと痒いところに手が届かんな」

 妙な言い方だが意味は分かる。

 ロメオ君の攻撃魔法の制御能力はチームで断トツなのだ。さっきのように前衛が敵に近く、後衛の軸線もずらせない状況では制御能力が肝なのだ。どんなに強力な魔法も前衛に当ててしまっては意味がない。だから僕のように制御能力のない大砲うちは乱戦になると攻撃できなくなるのだ。銃があるだけまだましなのだが。

 要するにアイシャさんの言う痒いところとは、乱戦中の魔法による援護のことだ。

 今頼りになるのは必中付きのナガレのブリューナクのみである。

 接敵前に倒せなければ、前衛の負担は大きくなる。かと言って前衛に僕かアイシャさんが入ってもふたりの変則的な戦闘スタイルにはマイナスだ。

 ロザリアも制御だけなら一品なのだが、こちらは持続力優先の細く長くが売りであるから、攻撃には向かない。使い魔は本末転倒だし。

 本来なら総合力一番のアイシャさんの独壇場なのだが、如何せん親分肌で雑魚相手に前に出てきてくれないのだ。

 結局、最初の一撃で沈めるのが確実なのだ。

「罠なのです」

 地図にないところを見るとランダムだろう。一応チェックを入れておく。

 魔法で作った石を投げて作動させてみる。

 ダーン! もの凄い音がした。

 天井から吊り下げられた大斧が振り子のように落ちてきて、石壁に激突したのだ。

 危ないので綱を切っておく。

 音で敵に気付かれた!

 次の獲物がやってくる。

 麻痺が効くみたいなので衝撃波の後、健在なら雷撃を叩き込む。前衛はその後だ。


 作戦はうまく行った。と言うか一撃だった。

 倒した本人が一番つまらなそうな顔をしている。

 今度の敵はリオナ張りの二刀流だったが、衝撃波の射程を完全に見誤ったようだ。もろに衝撃を食らってバラバラになった。装備もチェーンメイルだった。

「同じレベルなのよね?」

 ロザリアも首を捻るが、その通りである。

 双剣ということでリオナが興味を持ったが、残念装備だった。ただ本体の足装備がなかなかいい性能だった。改造したらいいところまで行けるのではないだろうか?

 プレート相手に入れる一撃を軽量化を優先させたチェーンメイルに叩き込んだのだから然もありなんだ。

「面倒臭い連中ね」

 ナガレも呆れた。

 固定の罠を通り抜けて、次の相手に接近する。

 あ、動いた。

「向こうからやって来てくれるのはありがたい話じゃな」

 姿が見えた! と思ったらいきなり手斧を投げ込まれた。これには僕が驚いた。

 だがその後が悪い。ゆっくり剣など抜いていてはアイシャさんの格好の的だ。

 敵は衝撃をもろに被った。だが平然としている。

「当たりじゃな」

 アイシャさんが呟いた。

 魔法に耐性がある何かがある!

 魔法が駄目なら、リオナが銃弾を浴びせる。

 ヘモジが盾を落としに行った。

 ソウルはミョルニルを真っ正面から盾で受け止めた。

 動かなくなった。

 鎧がガラガラと床に崩れた。

「何?」

「盾が本体だったです」

「間抜けね」

 ナガレに言われた。

「本体が前面に出てどうする」

 アイシャさんは呆れながらパイプをふかした。

 でも、その盾は当たりだろう。アイシャさんの衝撃波を完全に無効化したんだ。

「風耐性のようじゃな」

 耐性十割の思い切り変則盾だった。

「世間一般ではこれをはずれと言うのよね」

 ナガレの言葉に全員が頷いた。

「当たりだと思ったんだけどな」

 アイシャさんとふたり溜め息をついた。


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