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エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略検証)99

 前言通り、マリアさんが拉致られた。

「ちょっと弟君、今度は何したのよ」

「四十七階層の地図完成させただけですけど」

「それだけで、お姉さんたちが乗り込んでくるわけないでしょ!」

 よく分かってらっしゃる。

「大丈夫だ。マリア、報酬ははずんでやるから」

「わたしは行かないわよ! 現役引退したんだから! この面子は絶対普通じゃないから!」

「謙遜するな。お前の弓の腕は一流だ」

 姉さんが言った。

「おだてたって何も出ないわよ」

「大丈夫なのです。ドラゴンを見学しに行くだけなのです」

「ドッ! やっぱり帰らせて!」

「一緒に来た方が身のためだぞ。四十七階層の情報をこちらが提出したら、どの道、エルネストの担当のお前が検証作業の指揮をとることになるだろう? 広いエリアだと言うから、お前も駆り出されることになるんじゃないのか? そのとき我らは同行してやれんぞ。ドラゴン二体とどうやって戦うつもりだ?」

「二体! ほんとなの?」

「一体はコモドだけど、もう一体は強いですよ」

「マリア、ここは下見だと思って付いてらっしゃいよ。ドラゴンは新種だそうよ」

「ヴァレンティーナ様!」

「見学の仕方があるのです。それを知っていれば、無理に戦わなくて済むのです!」

 マリアさんは損得勘定の結果、付いて来ることに決めた。


「マリアさんのときは最初の侵入どうしましたか? ゲートは外から開いたんですか? 中からでしたか?」

「中からは危ないから、外からだったと思うわよ」

 僕たちはやはりと頷いた。

「えー、これからいきなりドラゴンが出てきますが、合図するまで攻撃は一切無用にお願いします。ではちょっと準備してきます」

 僕とロメオ君は東エリアか南東エリアに当たるまで入退出を繰り返した。

「南東入れたよ」

 ロメオ君が糸玉を持って脱出してきた。

 準備完了だ。

 灯台行きの紫色の糸玉を出してゲートを開いた。

 現場の時間は朝と昼の間だ。

「ここは?」

「ここなのです」

 リオナが姉さんに預けた地図の隅っこを指差した。

 マリアさんも嫌がってた割には真剣に見ている。

「その地図何枚あるのかしら?」

「手書きの物も含めて九枚ですね」

「その地図はこの階層で?」

「後で説明するのです」

 まずは落書きを見ないことには。

「えー、この扉の鍵は他のエリアの落書きをすべて見ないと開きません。ですのでこの先に進む人は余りいないかと思います」

 僕は鍵を開けた。

「最後の落書きは塔の上です」

 エンリエッタさんとサリーさん、マリアさんが続いて、手摺りのない螺旋階段を上がっていった。

「煤けた天井にあります」

「了解した」


 そして遠くに巨大な魔物の反応が現われた。

「あれがギーヴルドラゴンです」

 外に飛び出した一行にロメオ君が説明した。

「聞かぬ名だ」

「アイシャさんは古代のドラゴンだと言ってたけど。レベルは七十です」


 エンリエッタさんたちも外に出たところで僕は船を出した。

「はあぁ?」

 姉さんとヴァレンティーナ様は涼しい顔をしていたが、エンリエッタさんたち三人は唖然としていた。

「早く乗り込むのです」

 一番小さなリオナが梯子を登った。

 その後に続いてロメオ君は操縦席に着いた。

「これは?」

「ああ、『ビアンコ商会』で売られている飛空艇の小型版です。気嚢をアップグレードしてますから、売られている物より高く飛べます」

 マリアさんが聞いてきたので答えた。

「言われてみれば一回り大きいわね」

 小型艇を普段見ているサリーさんが言った。

「商会はこのサイズの気嚢の船を中型艇として売る気でいますよ」

「これで遠巻きに追い掛けます。ギーヴルは空を飛べないんで」

「でもブレスの距離は他のドラゴンより長いのです。注意するのです」

 僕たちは舞い上がった。

 僕が小型艇を持ち込んだことに関しては既成事実化してすっとぼけていたら誰からも指摘されなかった。

 姉さんは知ってるわけだし。誰に教えるかは姉さんの判断だ。

「このエリアの地図はさっきの灯台で見つけたです」

 バリスタの矢が降ってきた。前哨戦の始まりである。

「先にコモドをやるとあのバリスタが壊滅しますから、ミノタウロスの軍勢は圧倒的に不利な状況からのスタートになります。冒険者の手で倒したいというなら別ですが、ギーブルをやるなら得策ではありません」

 僕たちは遠巻きにドラゴン退治を眺めながら北上を続けた。

 ここからはミノタウロスとの壮絶な戦いを傍観しながらの質疑応答タイムである。


 説明することもほぼなくなったとき、ミノタウロスの軍勢は総崩れを起こした。前回とほぼ同じ場所での停滞である。

 僕たちは既に先回りをして北側に抜けている。

「ちょこちゃん、起こす?」

「そうだな。このまま膠着状態は困るからな」

 さすがに二度目ともなると段取りも心得ている。先回りして僕たちはちょこちゃん用の落書きがある建物を見下ろせる場所まで来ていた。

「ちょっと行って来ます」

 僕はリオナと転移して目的の建物の屋根に降り立った。

 オルトロスが接近してきていたのでリオナが仕留めた。

 三度目ともなるとさすがに敵の配置も分かってくる。

 周囲に敵がいないことを確認すると、建物に潜入して落書きを見つけた。


「ちょこちゃん来たですか?」

 転移して戻ったら既に戦いが始まっていた。

 さすがにこれには姉さんもヴァレンティーナ様も目を見開いていた。

 巨大な魔物同士の戦いである。そこにミノタウロスの軍勢が加わってしっちゃかだ。

 僕たちは船をさらに北に向けながら、ギーヴルがやってくるのを待った。

 そして今回もまたちょこちゃんは敗戦して息絶えた。

 ギーヴルは怒り心頭。破壊の限りを尽くしながらマップを北上して、休憩場所を探す。そして先客を見つける。

「ゴーレム!」

 全員が手摺りにかじり付いた。

「えー、戦闘に参加される方は、ゴーレムの一撃後にお願いします。ゴーレムの性能が見たい場合は攻撃は程々に願います」

 エンリエッタさんとサリーさんとヴァレンティーナ様が参加した。それとマリアさんも参加させられた。姉さんはどうやら既に称号を手にしているらしい。

 そしてゴーレムの強烈な一撃がギーヴルに突き刺さる。

「格好いい」

 操縦席でロメオ君も感動している。

 ゴーレムが戻っていく。そして例の大扉のレリーフの前で立像になった。

 僕たちは前回同様、このエリアのスタート地点に船を降ろし、大扉の前に降り立った。

「このなかに例の?」

 僕たちは頷いた。

 姉さんが何やら魔法を掛けて扉を調べている。もしかして魔法でも鍵が開けられるのか?

「やはり無理ね。最高レベルのガードが入ってる。死ぬ気で開ける必要があるみたいね」

 罠の難易度を探る魔法らしい。完璧ではないそうだが、便利な魔法があったものだ。

 後でものにしよう。

 僕はあっさり鍵を使って扉を開けた。

 二枚目が手に入ったりするのだろうか? 設計図は宝物庫に置いてきたが。

「見つけました」

 エンリエッタさんが何か見つけた。

 出てきたのはまた読めない言語で書かれたコアの図面だった。

「これも?」

 同じ物ではなさそうだが。

「別物かしら?」

 僕たちはこの場を切り上げ、今度はコモドを見に行くことにした。

 リオナは休憩を入れたがったが、皆忙しいらしく、すぐ終わるならとぶっ続けで攻略することになった。

 リオナはこれ見よがしに一人でクッキーを頬張った。小さな抵抗である。


 コモドは今更語ることもない。ただ双方共倒れの状況を見せて終わりである。

「呆気なかったわね」

「これは僕たちが探し当てた攻略法だからね。情報とは別だから」

 どうやらマリアさんを除く全員が『ドラゴンを殺せしもの』の称号を手に入れたようだ。また僕とヘモジの優越感が……

 そしてラストイベント、宝物庫である。

 ここでも姉さんは魔法を掛けて鍵を調べた。

 そしてここでもお手上げのポーズ。

「開示しても問題なさそうね」

「えー」

 マリアさんが拒否反応を示した。

 ここまで来れる冒険者がここでやらかすとは思えないが、職員には嫌な仕事が増えることになる。

「本日の報酬になります」

 僕は全員をなかに誘った。

 すっかり観光案内の様相を呈していた。手土産まで用意して。

 一通り見て貰ったら宝物庫のアイテムをすべて持ち出して終了である。

 マリアさんの分は現金化が終わった段階で小切手を切ることになった。

 我が家に溜まった分も、姉さんたちがついでに引き取ってくれることになった。

 ドラゴンの亡骸は二体とも回収しなかった。既に僕が持ち込んでいたし、一体は毒持ちだし。いつでも取りに来られるとなったらこんなものである。


 かくして『銀花の紋章団』による書類提出前の事前調査は終わりである。後はすべての資料の複製を作り、冒険者ギルドとの折衝である。事態が事態なので冒険者ギルドの総本山からお偉いさんを招くことになるらしい。


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