エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略検証)98
「どんなゴーレムだ!」
「それはまだ情報を紐解いてみないと」
「四十七階層のゴーレムというのは?」
「古のゴーレム」
「聞かん名だ。もしかして塔が出てくるフロアで見たという奴か?」
「そうだけど」
ふたり揃って黙り込んでしまった。
「すまん。約束は守ってやれないかも知れない」
「な!」
「例の亀裂とこれが呼応した事象だとしたらどうだ?」
「どうだって?」
「監視者はコアを量産しろと言ってるのかもしれんぞ。お前たちが見た四十階層の世界を再現したいのかも知れん」
「そんなこと!」
「仮説に過ぎんが…… タイミングがよすぎると思わないか?」
「それじゃ僕たちが踊らされているとでも?」
「監督者なら宝箱の中身ぐらいすり替えられるのではないかと勘繰ったまでだ」
「そんなのイカサマじゃないか!」
「と言うより鍵があったからこそ到達できたとも考えられるわね」
「文句は監督者に言うんだな。わたしたちじゃどうにもしてやれん」
「そうね。監督者に早く会いに行かなきゃいけないわね」
嬉しくない話である。
「もしかすると想定より時間がないのかもしれないわね」とヴァレンティーナ様は呟いた。
「妹に手錠は酷くないですか?」
「侵入者対策でうちの館は結構物騒なのよ。なのに逃げ回るんだから」
「凍らせるわけにもいかんしな」
「おかげで屋敷中てんやわんやよ。だからあれなの」
「ごめんなさいなのです」
「どうやって捕まったのか知りたいところだね」
「何簡単だ。厨房で肉を一枚焼いて待っていればいい」
「匂いに誘われてやって来たところを、網で捕縛されちゃったのよね」
妹をからかった。
「あれは瓦版だったのです!」
「それを言うならお庭番。てか、チョロ過ぎだろ!」
「頑張り過ぎたです」
「ありがとう。リオナちゃん」
ロメオ君が自分のために黙秘を続けてくれたリオナに礼を言った。
「えへへ、照れるのです」
「ゴーレム製造に関しては前から考えていたことがある。ロメオが研究していたことは以前から知っていたし、いずれ完成させるだろうとも思っていたからな」
「それって?」
「簡単だ、工房を作ってしまえばいいんだ。工房には守秘義務が自然に発生するし、強制的な情報開示もそうそう行われない。国中の工房の目があるからな。わたしやヴァレンティーナの名前を出資者の末席に名を連ねておくだけでも大概の面倒ごとからは解放されるだろう」
「工房ですか?」
ロメオ君も意外な策になんと答えていいか分からないようだ。
「今は確かに水面下で動く方がいいだろう。だが、世紀の大発見を欲しがる輩は大勢いるからな」
「箱物は後にするとしても、書類だけでも先に作ってしまった方がいいわね」
「姉さんたちは欲しくないの?」
「欲しいが、我らが手に入れてしまってはお前が懸念する事態になってしまうだろ? わたしは魔法の塔に、ヴァレンティーナは王家に縛られているのは紛れもない事実だ。『弟と妹のためならいつでもしがらみぐらい捨ててやる』と言いたいところだが、塔の子飼いの連中や、この町の住人たちを捨て置くわけには行くまい」
「だからって謀反は駄目よ」
「しないってば!」
「冗談よ。それより一つ疑問なんだけど、リオナじゃ埒が明かなくて」
「何?」
「リセットってどういう仕組みなのかしら? 他のパーティーと被った場合、時間の流れが変わってしまったり、倒したはずの敵が復活してしまったりするんじゃないかしら? その辺どうなの?」
「マリアさんの話だと複数のパーティーで侵入できたと言うから、四十階層のようにパーティーごとに世界が用意されてるわけじゃなさそうだけど。後に侵入してきた人たちの時間軸や状況に左右されるというのも、先に侵入した人たちには迷惑な話だし……」
矛盾してる。
「リセットの裏技使ったときはどうだったですか? みんな違う時間だったですか?」
僕とロメオ君は顔を見合わせた。
「違ったよね?」
出現ポイントに設定されていた時間が適用されていた。ということは、僕たちはそのときそれぞれ独立していたと考えられるわけだ。
それだと四十階層と同じということになる。でもそうなると他のパーティーと合同というのは……
僕たちの場合は糸玉に記録して、それを使って出現させたゲートで全員入り直していたからそもそも問題はなかったけれど。
「あ、そう言うことか! 仕組みは四十階層と同じだ! ただ糸玉を利用した場合や、正解のルートに出た人が内側から他の連中を導けば、設定を維持したまま人を呼び込めるんだよ」
ロメオ君が言った。
「糸玉を使ってゲートを開く人間が外で待機しつつ、団体を順番に送り込むか、あるいは内側から脱出ゲートを開いて、招待し続けるか。後者は他の利用者との兼ね合いで危険な行為でもあるから、恐らく前者だ」
「検証してみないとだけど」
「おかしなことになってはな。報告するとき早めに検証するように言っておこう」
「後で書類をまとめてわたしの所へ。ギルドマスターのわたしが交渉に当たります。異存は?」
「特に」
「ありません!」
リオナもこくりと頷いた。
「工房の申請は任せておきなさい。そうね、魔法で動くおもちゃの人形を作る工房とでもしておくといいわ?」
「嘘は言ってないのです」
「そうだね」
「じゃ、そういうことにしておくから。責任者はロメオでいいのね?」
「はい。お願いします」
「じゃ、明日エルネストは私たちを観光案内に連れて行くように」
「百聞は一見にしかずというものね」
「ええ? また行くの?」
しばらく行きたくないんだけど……
無理か。
翌朝、僕とロメオ君とリオナは領主館に向かった。するといつものメンバーが待っていた。
自分の仕事もあるのにエンリエッタさんとサリーさんが気の毒でならない。
ロメオ君を呼んだのは船を操縦して貰うのに欠かせないからだ。僕が操縦してもいいのだが、そうすると案内役がいなくなってしまうのでお願いした。
リオナはお姉ちゃんと遊びたいらしく、勝手に付いてきただけである。
「ヘモジとナガレはどうした?」
「ヘモジは今日一日、畑仕事かな」
「ナガレは冬に備えてチョビたちの住処を作ると言ってたです」
池が凍ったらワカサギ釣りみたいに、氷の上にテント張るとか言ってたな。穴開けて釣り糸を垂れるとか。あいつら自身が冷凍蟹にならなければいいのだが。
姉さんとヴァレンティーナ様が呆れながら、館のゲートまで先導した。
「途中でマリアも引っ張り出すからな」と姉さんが言った。
可哀相に……
「ほんとにドラゴン二種類とやれるのか?」
サリーさんが聞いてきた。どうやら例の称号取得も目的の一つになっているようだ。




