エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略ギーヴルVSちょこちゃん)93
ギーヴルは屋敷に狙いを定めた。
多数のバリスタより単発の投石機が狙い目と判断したようだ。
バリスタの射程から逃れようとするギーヴルをミノタウロスの兵士たちは必死に食い止めようとした。だが尻尾を警戒して接近できないでいるミノタウロスは、持ち前の怪力を発揮できずにどんどん後退を余儀なくされていた。
バリスタの射程を逃れたギーヴルはまた羽を羽ばたかせた。
一瞬にして屋敷の麓に飛んだギーヴルは空に向けて炎を吐いた。
せり出した地形が炎を跳ね返す。
身を隠していたミノタウロスはお返しとばかりに斜面に向けて岩を落とした。
ギーヴルは蜥蜴のように這いつくばって斜面を登り始める。背中に無数の矢を浴びながら一歩また一歩と前進し続けた。
そして遂に投石機のある庭の縁に爪を掛けた。
近過ぎて投石機はもう機能していない。岩を落とすにも高度がなければ威力もない。
近接戦闘をギーヴルの顔面に食らわせようと戦士たちか大きな斧を振り上げて殴りかかる。
が、屋敷は一瞬で炎に巻かれた。
ギーヴルは勝利の雄叫びを上げる。
もはや屋敷の庭はギーヴルの物である。ゆっくりと体力を回復させていく。
ミノタウロスの単発攻撃はもはや結界の前に無力であった。
時間だけが過ぎていく。
「ミノタウロス側からはどうしようもないの」
「自分たちの砦だもんね。あれがいたら攻略無理だよ」
傷口は塞がり、魔力以外は何もかも元通りになった。魔力の方はもうだいぶ減っているような気がするが。時間を置けばそれも回復してしまう。
「梃子入れする?」
「どうしよ?」
「ナーナ」
ヘモジはやる気満々である。
しばらくして退屈になったらしいギーヴルは山を下り始めた。羽を羽ばたかせ、飛距離を稼ぎながら坂を滑り下りる。
ミノタウロスは前線をさらに北のエリアに引き下げた。
ギーヴルは売られた喧嘩は最後まで買う気らしい。だが、警戒して城壁側には近づこうとはしなかった。
「一方的だな」
「これってさ、キメラを当てたらどうなるのかな?」
ロメオ君が言った。
「もしかしてだけど、冒険者があれを倒すのを手助けしてくれるのがキメラだったんじゃないかな?」
「お助けキャラ?」
オクタヴィアが呟いた。
「だって、あれ倒すの大変そうだよ」
回復したギーヴルは手が付けられなかった。炎こそ吐かなくなったがその分尻尾を振り回すようになった。
「下手するとミノタウロスの方に影響が出るかも」
「三つ巴、我らを入れたら四つ巴じゃな」
「試してみる?」
圧倒的な展開というものは見ていて退屈なものである。故に演出家は梃子入れをする。
「じゃ、行くか」
僕たちはギーヴルがいなくなった屋敷に降り立ったが、屋敷の落書きは既に倒壊した瓦礫の下で見ることができなかった。
「ここは駄目だ。北東エリアに行こう」
外周ギリギリを飛んだ。進入禁止エリアすれすれをギーヴルに見つからないように。
このエリアの落書きは東エリアとの境界近くだ。
まさにギーヴルのすぐ横である。ドラゴンは魔力に敏感だ。この船が近づき過ぎればすぐ見つかってしまう。転移も駄目だ。
「ちょこちゃんを起こさずに、さらに北に飛ぶか?」
駄目だ、次の落書きはあのゴーレムの尻の下だ。ゴーレムまで敵にしてしまいそうだ。
大型の飛空艇なら真上から降下する手もあるのだが、如何せんこれでは高度が足りない。間違いなく見つかる。
もう少し奴が前進してくれれば、尾根伝いにちょこちゃんを起こす落書きのある木造一戸建てに侵入できるのに。
「行けそうなのです」
「リオナが行ってくるのです」
「ヘモジ…… は魔力探知されるからな」
「お主が行くのがバランスがよかろう」
じゃあ行くか。
尾根のスレスレまで船を降ろして貰うと僕たちは飛び降りた。
そして尾根を駆け下り、眼下に見える町並みに紛れた。
「こっちなのです」
僕はリオナの案内に従って進んだ。
「止まるです!」
「オルトロスか?」
リオナが頷いた。
「二匹だな」
僕たちは銃を構える。
お互い頷くと、わざと物音を立てた。
家屋の遙か向こうにいるオルトロスが気付いた。
わざともう一度音を立てる。
オルトロスが駆けだした。
角を一つ曲がり、一直線に近付いてくる。そのカーブを曲がれば姿が見えてくる!
リオナが発砲した。
オルトロスが空中に舞った。
そして二匹目も一撃で仕留めた。
「お見事!」
「必中は楽ちんなのです」
威力の低い部分はスキルで補完だ。
ギーヴルに見つからなかったことを確かめると、僕たちはミノタウロスを回避して進んだ。
「ここなのです」
「相変わらず暗いな」
懐中電灯でなかを照らす。
そして、ちょこちゃんを起こす落書きを見た。
ちょこちゃんだけは地鳴りがしないんだよな。
「よし、急いで戻ろう」
実は船の位置が大分まずい位置にあるのだ。
ギーヴルをやり過ごして北側に越えられないと、ちょこちゃんとギーヴルに挟み撃ちにされてしまうのだ。上手く尾根に隠れながらやり過ごさなければいけない。
僕たちは予定の場所に向かった。再び尾根を駆け上がり、北を目指す。そして尾根の陰で船と合流するのだ。
身体強化の指輪を嵌めて、なおかつ『千変万化』で加速してようやくリオナの足に追い付く。
尾根に辿り着くと後方を振り返る。
「うわっ」
ギーヴルと船が尾根を挟んで急接近だ。船は高度を下げて少しでも距離を取ろうとしている。
魔石による補助も止めて、今はただ浮いているだけだ。
いざとなったらヘモジが出るだろう。と言うか、ヘモジも一旦下げた方がいいのではないか?
危なくなったらナガレと一緒に自主的に退去してくれるとは思うが。
ギーヴルが突然、吠えた。
「見つかった?」
僕は『魔弾』を撃ち込もうとその場でライフルを構えた。
が、次の瞬間空に向けて炎を吐いた。
「ちょこちゃん!」
リオナが叫んだ!
ちょこちゃんはブレス攻撃をさらりと避けた。
そして抱えてきた大岩をギーヴル目掛けて落としていった。
双方が金切り声を上げる。
ギーヴルが船から離れていく。
僕たちは船の甲板に急いで飛び乗った。
船は一気に加速して、尾根を足場に高度を取った。
ちょこちゃんとほぼ同高度を確保したが、ここにいると巻き込まれそうなので、北に進路を取りながら、距離を置いた。
バリスタの矢がギーヴルに降り注いだ。
「懲りないのです」
ちょこちゃんを追い掛けて射程にまた入り込んだようだ。ちょこちゃんはバリスタの雨を避けて空を悠然と舞っている。
空飛ぶ敵はやっぱり厄介だ。ちょこちゃんは漁夫の利を狙う気満々のようだ。
だが、ギーヴルはまたもや窮地を脱出した。
さすがドラゴン、しぶといな。
弱ったところにちょこちゃんが襲いかかった。
足のかぎ爪で首元を押さえ込むと、鋭い嘴で抉った。
ギーヴルはたまらず、衝撃波を放つが、ちょこちゃんは同じ属性を持つらしくビクともしなかった。
炎を吐いて、暴れても食い込んだかぎ爪は抜けることはなかった。
尻尾をばたつかせるが、ちょこちゃんは羽を広げて応酬する。
ドラゴンが負けるのか? そう思ったその時、ドラゴンは自ら加速して、城壁に突っ込んだ。
双方頭から壁にぶち当たって、堀の底に落ちていった。




