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エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略インターバル二)90

「これが二代目ちょこちゃんか」

 ピーヨピーヨと黄色い毛むくじゃらが居間のテーブルの上を横断していく。

「普通のひよこだね」

 わざわざ居残ったロメオ君が呟いた。

 オクタヴィアは恨めしそうにひよこを遠くから見ていた。

「全部ですか?」

 後ろでチコを迎えにきたチッタとリオナとピノが何やら相談していた。

「俺は昨日の分も。盾代の分だけ残しといて」

「うちは全額、当分使う予定ないから」

 どうやらお金のことらしい? 何か問題でも?


「レジーナ姉ちゃんがリオナ基金を作ったのです。ここにあるピノたちのお金はリオナ基金の原資になっているのです」

 リオナが言った。

「はあ? 聞いてないぞ!」

「これは子供たちの問題なのです」

 どこがだよ!

 早めの解散だったので、夕飯までまだ大分時間があった。リオナに強引に誘われたチッタとチコはそれまで遊んでいく羽目になり、ロメオ君も居残ることになったのだが。僕は姉さんに急用ができたので領主の館に向かった。


 詰まるところ、姉さんはいずれ僕がピノたちだけを優遇していると批判を浴びることを想定していたのである。それを回避するために、どうせすぐには使い切れないリオナとピノたちの蓄えを原資に、獣人村に限定した互助会制度を作ったのだ。

 それがリオナ基金。領主様がやっている援助では届かないこの村の特殊な事情を考慮するために設立された基金である。

 領主の各種行政サービスは生活や福祉に関するものから、新しい事業を興したり、運転資金を捻出したり、冒険者になるための初期投資などといった資金繰りの相談まで含まれていた。

 が、ここで獣人たちの生活様式が問題になるのである。それは個人資産という物を余り持たないライフスタイルが原因であった。特にうちの獣人村では土地家屋自体が借物と言うことなので、貸し付ける方も担保の取りようがなくて困ってしまうのである。

 結果的に大家の僕に陳情することになるのだが、そんなことをされても僕の方が困るわけで。

 だから長老に丸投げしているのだが、長老だって資産家ではない。村人に隠れてこっそり鶏肉を食うのが関の山である。

 個人の生活に関することまで僕が監督するというのはやはりどうかと思うし、双方にとっても余りよくないことだと思う。

 そこで編み出されたのがリオナ基金である。すべては姉さんの入れ知恵だった。これによって獣人村のなかだけで貸し借りを完結する仕組みを構築したのである。

 ただ、元本が僕では意味がないので、そこで利用されたのが子供たちのドラゴンスレイヤーとしての莫大な資産である。これによって高利貸しに頼ることなく、町長に審査を委ねるだけでよくなったのである。

 最近は村人たちの暮らしも一段落して、みんなで積み立てるようになってきてはいるのだが、子供たちの資産は基金の基礎になっているのだそうだ。

「要するにだ、子供たちは私産を稼げば稼ぐ程村に貢献できるという仕組みなわけだ」

 僕は姉さんを睨み付けた。

「言ってなかったか?」

「言ってない」

 子供たちが当座に使う分以外は全て預金していたけど、その先までは聞いてなかった。

「それで、不満なのか?」

「別に」

「ならリオナに任せておけ」

「四十七階層に付いてくる荷物持ちの給金って普通いくらぐらいなのかな?」

「エルーダは階層と同額だったはずだ。銀貨四十七枚。金貨半分だな」

「姉さんならどうする? 等分配にする?」

「ふたりの望みは金儲けではなかろう? もしそうならお前は連れて行ったりしなかった」

「ふたりは自分の進む先を覗きたかっただけだと思う」

「報酬を幾ら払うかなんて、こっちの都合だ。踏ん反り返っていろ。もし文句を言う奴がいたらこう言ってやれ。『気にするな、お前は雇わん』とな」

「そうだ、姉さん。話は変わるんだけど、これ何か思い当たらない?」

 僕は四十七階層で拾った落書きのメモを見て貰った。

 メモは最後に回収した物で南東エリアの点を残してすべてが記入されている。

 丸の外側に七つの点が記され、その内何点かが不規則に繋がっていた。南西と西を結ぶ線と、新たにできた北から東までの三点を結ぶ線。そして丸の中央の点。

 確かに地図にはなっているのだが、この点を結ぶ線が気に掛かるのだ。この線が何を意味するのか? しないのか? 

 姉さんはしばしメモを見てたが、やはり思い当たる節はなさそうだった。

「地下で繋がっているとか?」

「そんな様子はなかったけど」

「気になるのか?」

「うん…… 何かね。どこかで見た気がするんだけど」

 問題はそれが余りいい印象ではないことなんだよな。

「これだけではなんとも言えんな」

「明日最後の一点を揃えてくるよ」

「明日も連れて行くのか?」

「いや、明日は大変そうだからね」

「なんだもう帰るのか?」

 僕が上着を着込むと姉さんが言った。

「夕飯が待ってるんで」

「カヌレ……」

「ん? 気に入った?」

「ヴァレンティーナがまだ食べてないとごねてたぞ」

「もっといい物食べてるでしょうに」

「顔を出せと言ってるんだ」

「分かった。そうするよ」

 リオナといっしょにね。

「明日の狩りが済んだら次のフロア攻略まで休みを入れる予定だから。リオナの学校もあるし」

「四十七階層クリアの話でもしてやるといい」

「そうするよ。じゃあ、姉さん、お休み」


 家に戻るとちょこちゃんがまだいた。おかげでオクタヴィアは食堂の隅に追いやられていた。

 オクタヴィアが襲うはずないのにね。気の毒に。

 テトとピオトが増えて、いつものメンバーで双六をしていた。

「そろそろコタツの季節だな」

 全員の耳がこちらを向いたから、びっくりした。

 その期待を込めた視線はやめろ!

 入り浸る気満々だな。マンダリノ多めに買っておかないとな。

「コタツ、天国」

「ナーナ」

 オクタヴィアとヘモジも興奮していた。

「おまたせ、ひよこは逃げないようにおし」

 食堂からいい匂いがしてきた。

 みんな一斉に配膳の手伝いに向かった。


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