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エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略・プラスにゃん)88

 起き上がるとちょうど僕たちのいる頂の高さになった。

 うわぁあああ。見つかる。

 僕たちは魔力を最低限に絞って、息を潜めた。ピノたちが心配だったが、元々隠遁レベルが高い獣人ふたりと狩人の血を引いたレオだ。

 むしろロザリアやロメオ君の方が危ない。と思ったらロザリアが何やら新しい護符を展開していた。ヘモジは暢気にそのなかで欠伸している。

「新種の護符かな?」

 巨大なゴーレムは僕たちを発見することなく、キメラに向かって駆け出した。

 そして宗教的なオブジェだと思っていた、大地に突き刺さった巨大な石の剣を引き抜くとキメラに向かって振り下ろした。

 石の剣は衝撃で表面が四散し、なかから鋼の剣が姿を現わした。

 ロックトードの粘液が飛び散ったが、物ともせず二撃目が振るわれた。

「格好いいな」

 思わず僕も身を乗り出す。

 あれだよ、あれ! ロメオ君じゃないけど、あのゴーレムの作り方を知りたいんだよ!

 異世界では勇者が操る勇者ロボなる物が存在していて、それで巨大な悪をやっつけるんだよなぁ。

 あいつのコアを壊さず持ち帰れたら、ロメオ君の研究に役立つかも。

「!」

 バキバキバキッ。森林に番人が投げ飛ばされた。

 浴びた粘液が固まりだしたのだ。番人は身動きが取れなくなって一方的にやられ始めた。

 キメラの方も二撃目で大傷を負っていて、こちらも背中からどくどくと体液を流していた。双方、息絶えるまで時間の問題のようであった。

 ミノタウロスが盛んに放火と爆破作業に勤しんでいた。

 キメラが身をよじる度に大勢のミノタウロスが巻き込まれていった。

 やがて番人はすっかり抵抗できなくなってしまった。機能停止までには陥っていなかったが、こうなるとどうなるのだろう?

 生きたまま研究材料にならないものか。

 ロメオ君も顎に手を掛けていろいろ考えているようだった。

 ボフッ!

 突然、キメラが爆発を起こした。自らの粘液で固まったところに槍の先端を差し込まれて爆発、内圧が上がって一気に吹き飛んだのだ。そして粘液を広い範囲に撒き散らした。

「うぎゃ、気持ち悪い……」

 双方討ち死にだ。

 彼らに退却の二文字は用意されていないのだろうか?

 あの粘液がどうなるか分からないからな。亡骸と共に消えた場合、まだ息がある魔物はどうなるのか? 死亡認定されるのか? そうではないのか? 粘液が消えない場合は余り考えたくない。

「取り敢えず、落書きポイントの確認を……」

「今のうちだね! あっちだよ」

 ロメオ君が指し示した場所はまさにあの格好いいゴーレムが鎮座していた窪地の大岩辺りだったのだ。生きていたら、戦闘にもなりかねないので急いで確認作業に向かうことにした。

 山道を下りていたら大回りになる。

 僕は最短距離をゲートで繋いだ。

 そして大岩の陰に潜むことができた。

 窪地の壁には巨大な扉のレリーフが描かれている。

 どうやらあのゴーレムが守っていたのはこの扉のようだ。何かしら宗教的意味合いがあるのだろうが、開くようにはできていないようだ。

 仮に開いたとしてもとてもじゃないが僕たちには重くて開けられないだろう。ヘモジを使うのが手だろうが、周囲の敵を一掃してからの話になるだろう。

 そして……

「あったよー」

 チコたちが落書きを見つけた。

 また足元に新たな振動が伝わってきた。

 窪地のなかからでは周囲を見渡せないので、僕たちは元いた場所に戻ることにした。


 北東エリアで煙が上がっていた。新たに出現した魔物が動き出したようだ。

「よっしゃ、残る落書きは北東エリアと南東のみだ!」

「その前に地図の回収だよ」

 そうだった。

 待つこと数分、ようやくキメラや死んでいった者たちの亡骸が消えた。懸念していた粘液も残らず消えてくれた。

「助かった」

 今行けば大量の魔石が転がっているに違いないが、僕たちの行き先は街道方面だ。

「番人はどうなったのかな?」

 ロメオ君が気にしている。

 森のなかから起き上がる姿が見えた。

「健在か……」


(いにしえ)のゴーレム レベル? ?』


「レベル設定がない? どういうことだ?」

 ゴーレムは大地に足を下ろして踏ん張った。

 そして起き上がろうと重心を移動した途端、踏ん張っていた脚が砂に還った。同時に手を突いていた腕の肩口も砂に変わってもぎ取れた。

 ゴーレムは再び森に沈んだ。

「魔力切れ?」

 俊敏な動きも剣捌きもオーバーブーストのようなものだったのか?

「コアが欲しかったな」

 残念ながら手遅れだ。今頃あの辺りには倒した報酬にはまるで見合わない、小さな宝石が転がっているはずだ。

「番人と戦わずに済んだか」

「起動させると厄介じゃな」

「起動する前に仕留めないとね」

 ここの落書きを作動させるのが一番難儀そうだ。

 生き残った兵士たちは起き上がると雄叫びを上げた。

 粘液で固まっていただけの連中も死亡認定は免れたようだ。

 雄叫びを上げるだけ上げると持ち場にのっそりと戻っていった。

「ええと…… 街道はあの辺りだから……」

 頭一つ高い建物が襲撃を免れていた。

「あれかな?」

「よし、取り敢えずあそこを目指そうか?」

 全員が頷いた。

 僕たちは山道を下った。

 どうやらこの神聖なエリアにはオルトロスは入れて貰えないようで、却ってこちらは楽をさせて貰った。

 番犬がいないおかげで、容易く裏をかけたので、戦闘は必要最小限で済ませることができた。


「楽勝だったのです」

 目的の場所に来た僕たちは建物の辺りを探った。

「これって防具屋だよね」

 それらしい看板を見上げた。

 無駄にでかい建物だと思ったら。然もありなん。

 鍵の掛かった扉を壊してなかに入った。

「大きい……」

 でかい防具が目白押しだった。

 ここの物を着れるのはヘモジだけだが、肝心のヘモジは見向きもしなかった。ただ兜コーナーを除いて。

 角の生えた兜には相変わらずご執心であった。

 他のみんなには目的の地図を探して貰った。

 僕はヘモジと兜漁りである。

「ナーナ」

 あれも違う、これも違うと掴んでは投げ、掴んでは投げしている。

 地図も見つからないようだ。

「ナ?」

 目の前の漆喰の壁が吹き飛んだ。

「ヘモジ!」

 急に魔力の反応が!

「どうしたの?」

 チコの声だ。

「こっちへ来るな! みんなの所に行け!」

 ゴーレムだ! 壁の向こうにいたのか。

 ヘモジが頭を振っている。足元もおぼつかない。

「いきなり起動してくるな!」

 急所なんて探している暇はない! 切り刻んでやる!

『無刃剣』を乱射した。まずは肩から腕を落とし、次に脚を切り落とした。まだ動く気でいるので頭を吹き飛ばした。

 どうやらコアは頭にあったようだ。

「もういいぞ」

 全員が部屋に入ってきた。

 そしてゴーレムを見て状況を納得した。

「壁の向こうか?」

 恐る恐る亀裂の向こう側を覗いた。

 懐中電灯を隣りの部屋にかざした。

「あった」

「何?」

 地図があった。これ見よがしに壁に掛かっていた。

「ナア?」

 ヘモジも目的の物を崩れた商品の山から見つけ出した。

 両脇に螺旋を描いた大きな巻き角が付いていた。

 他のと何が違うんだ?

「ナーナ、ナナナナ」

 全然違うと抗議してくるが、僕には分からなかった。

 恒例の再召喚をしてやると、ヘモジサイズに調整された兜が頭の上に乗っていた。

「ナーナーナ」

 ゴン!

 ポージングを決めてのけ反ったら、頭を棚にぶつけて、前のめりに倒れ込んだ。


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