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エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略・インターバル)82

 家に帰るとアガタの店に直行した。

 北門から入って商会に寄ってから行きたかったのだが、店仕舞いが早いアガタの店から寄ることにした。

 真っ二つになったピノの盾はさすがに再生できないので、新規に新型を作成して貰うことにした。ついでにレオの分も注文するが、こちらは自前の魔力で何とかなるので、魔石を嵌め込む場所は一つで構わないだろう。

 店まで行くと、表の営業はやはり終わっていて、裏で製作作業をしていた。忙しそうであったが、快く迎えられた。

 エルフが金床にハンマー持ってミスリルを叩いている!

 見た目華奢だが、ドワーフ仕事とやってることは変わらない。やはりスキル依存なのだろうか?

「坊ちゃん、エルフの秘技を凝視しちゃいけませんよ」

 近くの店員に注意された。

「見たって真似できねえから価値があるんだ。秘技やら秘伝ってのはそういうもんだろ」

 アガタが奥から出てきた。

「忙しそうだな」

「おかげさまでね。ミスリルの注文もコンスタントに入るようになってきたからな。あいつも里に面目が立つってもんだ。と言うより里の誰よりもミスリル叩いてるんじゃないか? いずれ奴の鍛えた名のある剣ができあがるかも知れねーな」

「そのときはぜひ一振り」

「お前にはドワーフの名剣があるだろ!」

「この町にはドワーフとエルフが切磋琢磨する工房があると、子々孫々伝えたいですからね」

「相変わらず口だけは達者だな」

 いろいろ達者なつもりなのだが。

「そうだ、レオの剣の注文来てます?」

「ああ、今打ってるのがそうだ。お得意様からの依頼だからな。なるべく早く仕上げるさ」

「実は追加でお願いしたいんだけど……」

 僕は真っ二つにされた魔法の盾を出した。

 運用ミスなので盾に責任はないことを繰り返し説明した。敵はレベル六十七の魔物だったことも、扱っていたのがピノだということも。

 だがアガタは怒った。自分の作った盾がこんなことになるなんてと恥じ入って涙した。

 僕は必死に取り繕った。魔法の盾の運用方法は特殊であると。正しく使えばドラゴンのブレスにも堪えうる素晴らしい性能を発揮するが、如何せん魔法付与主体の盾なので魔力切れを起こしたらこうなるだけであって。製作者には爪の垢ほども責任がないことを懇々と説明した。

 改めて注文をするだけなのに思いっきり苦労した。

 その癖、獣人向けの盾の改造点を説明すると「これでまた売れるぞ」と踊り出すのだから手に負えない。

 最近、魔法の盾は行き渡った感があって、売れ行きが下がってきていたらしい。

 これで新たな買い換え需要ができると改修型を宣伝していくそうだ。

 早速レオの盾も改修型にしないかと言いだした。

 ほんと猪突猛進だ。全く以て愛すべきドワーフ、我が隣人である。


 時間を食ったが、『ビアンコ商会』に向かった。

 早速、棟梁に新型小型艇が失敗だったと報告した。

「だから言ったじゃねーか。水の上でどっしり構えてる船じゃないんだから、空にプカプカ浮いてる船にラムなんて無理だって」

「でも男のロマンだって棟梁も言ってたでしょ」

「わしはロマンと現実は分ける質じゃ」

 あれだけ刃先をピカピカに磨いておいてよく言うよ。

「オプション二番の鏃型鍋底に変更して明後日には使いたいんですけど。無理ですかね?」

「まあ、オプションはもうあるからな。組むだけなら時間もかからんが…… さすがに一日でとなるとな」

「いつもの酒一瓶でどうだ!」

「一樽だ」

「よし乗った!」

 樽で振る舞うぐらいの人員が掛かると言うことらしい。

 

 家に戻ると皆装備を外してくつろいでいた。

 リオナとピノは夕飯の準備に忙しいアンジェラさんとエミリーにカヌレの感動を必死に伝えていた。

 どうやら相当気に入ったようで、次回作をなるべく短いサイクルでと、ごまをすっているらしかった。

「僕が出てから、ずっとやってるのか?」と尋ねたら、ヘモジとオクタヴィアが「五回目の催促」と口を揃えた。

「いい加減におし! 冒険に行くのにおやつなんてなんでもいいだろ!」

 さすがに煙たくなってきたようだ。

「重大な案件なのです!」

「そうだよ。俺のパーティーも毎回あんな美味しいのが食べたい。レオもいるんだしさ。たまにはおにぎり以外の物が欲しい」

「そりゃ、おやつじゃなくてあんたの昼飯だろ!」

 ピノとリオナの要求は続く。

「そうだ、レオ。ちょっと」


 僕は宝物庫にレオを呼んだ。

 そして僕専用スペースに不釣り合いに鎮座する竹籠を取ると、中に入ったぬいぐるみから一つ選べと指示した。

「なんですか、これ?」

「『身代わりぬいぐるみ』という魔導具だ」

 いろいろ突っ込まれると困るので簡単に効能を説明した。

「どうして僕に? 死にかけたから?」

「レオだけが持ってないからだ。ピノも持ってる。一応、トップシークレットだから、他言無用だ。なくすなよ」

「とてもそんな大層な物に見えないんですけど?」

 そりゃ傍目(はため)、ただのぬいぐるみだからな。

「どれでもいいんですか?」

「肌身離さず持っている物だから好みでいいぞ。気に入ったのがなかったら雑貨屋でぬいぐるみを自分で選んできてもいいぞ」

 僕は自分の何かよく分からないぬいぐるみを見せた。

「そのときはエミリーに裁縫して貰うといい」

「それ、自分で選んだんですか?」

 僕の物を見て怪訝そうな顔をされた。

「適当に選んで後悔してる」

「余り深刻に考えなくてもいいんですね」と笑われた。

 そしてレオが選んだのは……

 緑色のキュウリ、チェトリオーロがなぜか帽子を被っている物だった。

「後で自分で選んでおきます」

「それがいいね…… 僕も買い換えようかな」


 食事はいつものがっつり肉料理に新鮮な野菜サラダだ。それとトマトの冷製スープという物が出された。こちらもカヌレ同様、さる料理研究家から頂いたレシピにあったものだそうだ。

 スープのタイトルに『ヘモジちゃんに愛を込めて』とあったらしい。

 ヘモジは満面の笑みを浮かべながらスープを美味しそうに口のなかに運んだ。


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