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エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略・レオ・アンド・ピノ)81

「夜に攻略するエリアなんだろうね。あそこは」

 ロメオ君は三機の投石機がある平原の攻略方法をまだ考えていた。

 僕は「ああ、成る程」と感心した。

 確かに昼と夜とではあの場所の脅威レベルは大きく変わりそうだった。

 僕たちは南東エリアを放棄して、北西エリアに入り直した。

 西エリアで三つ首のケルベロスキメラを起こしてから入り直したので、町は既に廃墟になっていて、敵の数も激減していた。

 投石機も既になく、地図と落書き探しだけが僕たちの目的になった。

「オルトロス!」

「ナーナーナー」

 出た。鉢巻きヘモジ。

 見晴らしのいい直線で足を止め、ボーガンで狙いを定めた。

 ビュン、と射たボルトは明後日の方角に飛んでいった。と思ったらそこにはミノタウロスの魔導士が隠れていた。

 矢が爆発して瓦礫と一緒に吹き飛んだ。

 突っ込んできた番犬はナガレに一網打尽にされた。

「オルトロスに誘われて飛び出していたら燃やされてたかな?」

「消音結界はずるいのです」

「その分物理結界はしてなかったろ? おあいこだ」

「むー」

 まず物理結界からだろうと思うのは僕たちが弱い人族だからだ。

 そもそも頑強な身体を持っている彼らには物理結界が二の次だったというだけの話である。

 一言で言うならこちらをその程度と侮ったのだ。

「でもちゃんと風下に陣を張ってたよね」

「身体が大きいということをまず自覚して欲しいのです」

「確かに隠れきれてなかった」

「ナーナ」

「おー、言ってるそばから」

 道を折れたところに倒壊した建物が横たわっていた。

 複数の敵がその向こう側で手ぐすねを引いて待っている。

 僕は魔法で建物ごと吹き飛ばしてやった。

 ピノが盾を落とした。

 刺激が強すぎたか?

 後は這い上がってきたところを全員で一斉攻撃、殲滅した。

「敵影なし」

「なー、クシュ」

 オクタヴィアがくしゃみした。埃が鼻をくすぐったようだ。

「街道はあっちだね」

 ロメオ君が舞い上がった埃を払いながら言った。

 町はすっかり破壊されているのでロメオ君もマッピングは簡単にしかしていない。

 地図が隠されている場所の特徴として、大型の魔物による破壊が軽微であることが挙げられる。となれば今回も破壊を免れているはずだ。

 瓦礫のなかに不自然に残っている建物を見つけた。赤い日除けの庇が目に付いた。

 罠に注意しながら前進する。

 敵影はない。

 どうやらこの一角に関しては打ち止めのようだ。

「青果屋?」

 こんな場所に地図があるのか?

 生憎、生物は残っていなかった。ヘモジが落胆したことは言うまでもない。

 地図は隣りの倉庫から見つかった。


 さて残る目標は一つ。落書きである。

 大まかな予想では北エリアとの境界付近にあるらしい。

 この先はキメラの破壊を免れ、町並みはそのまま残っている。

 だが、大きな断崖が東西に走っていて北エリアへの侵入経路は間に架かった石橋に絞られていた。

 恐らくあの辺りに落書きはある。

「詰め所か……」

 周囲にも敵は多い。

 どの道殲滅するしかないのなら一気にやってしまいたいものだが。

「おやつの時間なのです」


 作戦会議を兼ねて、最寄りの橋を見下ろせる高台に陣取った。

 腐りかけの洋館である。

 手摺りに慎重に体重を掛けながらレオは庭を眺めた。

 ピノはお皿に載ったカヌレが気になるらしく、匂いを嗅いではソワソワして床を踏み抜いた。

 この菓子はさる料理人から教えて貰ったレシピだ。外はカリッ、中はしっとりだ。なかなか火加減の難しい料理らしい。

 甘ったるさが、紅茶の渋さに実に合う。

「十体ぐらいですかね」

 レオが皿を突きながら言った。

「偵察が散らばっておるからの、やり過ごせれば、この辺の連中だけだ」

「飛びますか?」

「そうじゃな。あの建物の裏手はどうじゃ?」

「地上はここから見えないから、屋上かな?」

「ゴーレムがいるかもなのです」

 そうだ、ゴーレムもいたのだ。狙撃ポイントが事前に潰されている可能性もある。

「いるとしたら、あの陰だけだよ」

「あー、ピノ、三個食べた!」

「ピノを囮に使うか?」

 全員がピノを見た。

 ピノはカヌレを頬張ってほっぺたを膨らませていた。

「ご、ごめんなさい……」

 ヘモジ突撃隊長に頑張って貰うことにした。

「ヘモジが突撃したら、オルトロスを避けるために僕たちは階段の類いをすべて破壊する」

 甘ったるさを堪能したら、作戦開始である。

 

 ヘモジが詰め所の向かいの屋上に転移した。僕たちは後に続いた。

 そして散開すると階段を落としに掛かった。

「ナーナ!」

「ゴーレムいないって」

 オクタヴィアが通訳を入れた。

「いた!」

 リオナが指差した。

「どこ?」

 別の建物の上にいた。

「地上から行くとあそこがスポットになるのだろう」

 番犬が吠えまくっている。

 階段を落とした。

「よし、戦闘開始だ!」

 建物の周りにいる敵はすべて遠距離攻撃で倒していった。

「よし、下りるぞ」

 魔法を使って落とした階段の代わりに足場を作る。

「ワイヤートラップがある」

 アイシャさんは魔法で丸い球をこしらえると転がした。

 仕掛けられた矢が反対側の壁に突き刺さった。

「ナーナ」

 次のトラップを見つける。

 同じ要領で発動させてやると天井を支えていた支え棒が折れて天井が崩れてきた。そして天井の上に積まれていた大きな丸石がゴロゴロと階段下に落ちていった。

 下から上がってくる敵を想定したものだろうが、建物の強度をまず考えた方がいい。木造の安っぽい建物にそんな仕掛けを施したら床抜けるわ。

「これも狙ったですか?」

「下にいたら危なかったね」

 床がぶち抜かれただけでなく、階段まで壊された。

 よし、行こう。別の意味で怖いわ。

 敵がこちらに気付いて接近してきた。

 ドーン。

 自分たちの罠に嵌まって土煙を上げた。

 が、ミノタウロスは白くなっただけでケロッとしている。番犬はもろに吹き飛ばされて反応が消えた。

 こちらの存在に気付くと、牙を剥き出しにして突進してきた。

「それで怒るのはお門違いじゃないだろうか?」

 だが、接近する前に凍らされて砕かれた。

「凄ーっ」

 ピノが呟いた。

 やっと外に出た。

 矢が飛んできた!

 僕たちは咄嗟に建物のなかに戻った。

 どこからだ?

 瓦礫を道に放り投げた。すると矢が飛んできて、瓦礫を撃ち抜いた。

「うわっ、いい腕してる」

 矢の飛んできた方角を調べると向かい側の屋根の上に弓兵がいた。

 ワンランク上の装備をしていた。奴がここのリーダか?

 ロザリアが閃光を放った。

 僕たちは一斉に飛び出して奴のいた場所に集中攻撃を仕掛けながら、詰め所のなかに飛び込んだ。

「誰か仕留めたか?」

 全員が首を振った。

 おい。

「見つけたです!」

 リオナが上階を見上げた。

 僕も見つけた。まだ生きている!

「あ! ああ?」

 反応が突然消えた。

 僕たちは警戒しながら上階に向かった。

「またトラップだ」

 今回は引っ掛からないようによけながら進んだ。

 床に張り付くようにしてくたばっている弓兵を見つけた。

「上から落ちてきたみたいだね」

 上の階を見上げると吹き抜けの手摺りが壊れていた。どうやらあそこから落ちてきたようだった。

 階段を上がると罠を見つけた。

「ワイヤー切れてるよ」

 天井にゆらゆらと丸太がぶら下がっていた。

「なるほど」

 全員弓兵との位置関係を見比べて納得した。

 奴はここから下を狙う気でいたらしい。だが罠に掛かってしまって、丸太に殴られ、勢い余って手摺りから落っこちたのだ。

 落ちたぐらいで死ぬ玉じゃなさそうなのだが。運が悪かったようだ。


 敵の殲滅を確認した。

 落書きを見つける作業に移行したが、いくら探しても見つからなかった。

 最下層の牢獄まで確認したが見つからない。

「おかしいな」

 ここじゃなかったのかな。

「あああああ!」

 外でリオナたちが叫んだ。

「どうした!」

 建物が大きく揺れた。

 見つけたのか?

 僕は外に飛び出した。

 リオナたちが指差したのは石橋の側壁だった。二つのアーチの間、橋脚の上の側壁に落書きがあったのだ。

 ヘモジがメモ書きを持ってきた。

「ナーナーナ」

 小っこい指で木箱が積み上げられる橋台を指差した。

 落書きには新たな点が加えられていた。だが線では繋がれていなかった。

「苦労する必要なかったな」

 新しいキメラが橋の向こうで暴れ始めていた。

 僕たちは糸玉を記録できる場所を探した。

 橋の下も考えたのだが、上には見張りが当然いるだろうし、番犬もいるので却下した。

 南西エリアと同じで隠れるポイントが見つからなかった。


 仕方がないのでスタート地点から戸締まりの利く腐りかけの洋館に橙色の糸玉を移動した。


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