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エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略・レオ・アンド・ピノ)78

「よし、周りを調べるぞ」

 みんなふたりペアになってばらけた。レオはアイシャさんと、ピノはロメオ君とだ。

 僕はヘモジを連れ最後のミノタウロスが現われた付近を調べた。

 特に隠密性に優れているわけでもないミノタウロスが、僕やリオナの目を逃れられたとは到底思えなかったのである。

 この茂みの辺りに必ず何かあるはずだと探したら見つかった。

 投石機の残骸に隠れていた大きなミノタウロスの像、ボキリと根元から折れて転がっているのだが、その台座の裏から階段が見つかった。

 アイシャさんに後を任せて、潜ってみることにした。

 手彫りの階段が下に向かって伸びていた。

 明かりを灯すと突き当たりに通路が見えた。

 屋敷の方に向かっているようだ。

「よし、行こう」

 通路には明かりが灯ったままになっていた。

 さっきのミノタウロスだけか? 迎撃に出てきた連中の最後の一体が奴だったのか?

 一本道で隠れる場所がないなと思いながら奥まで進んだ。

 上りの階段が現われた。

 階段を何度か折り返したところで突き当たりの踊り場に出た。

 どうやらここが行き止まり、出口のようだ。だが扉の類いが見つからない。隠し扉か……

 ヘモジがミョルニルで壁を破砕しようとしたら、いきなり目の前の壁が開いた。

「なんだ、いたですか?」

 リオナが僕たちに明かりを向けた。

「眩しッ。どこだ、ここ?」

「この家の主の書斎なのです」

 リオナとナガレによって部屋は既に荒らされた後だった。

 引き抜かれた引き出しが中身と一緒に散乱していた。

 ほお、大きな窓の外には川を見下ろす絶景が広がっていた。

「ナー?」

 ヘモジが天井を見上げて固まっているので、僕もリオナもナガレも誘われるように天井を見上げた。

「ああッ!」

 三人でハモった。

「落書き見つけたのです」

 大地が揺れた!

「来た!」

「来たのです!」

 リオナたちは窓に向かって駆け出した。

 僕も後を追ってバルコニーに出た。

 すると遠くに新手のキメラが姿を現わした。

 方角は南東。南東エリアだ。

「しめしめ」

 遠くの喧噪を余所に僕は屋敷漁りに戻った。

「地図はなさそうだね」

 ロメオ君とピノがやって来た。

「うわっ!」

 ピノはバルコニーの窓から飛び出してリオナたちと合流した。

「やっぱり街道沿いのどこかかな?」

「そうかもね」

 僕たちも新手のキメラに釘付けだ。

「籠あったわよー」

「あった」

 ロザリアとオクタヴィアが一つ籠をゲットしてきた。早速茶色の糸玉だけをまとめてその籠に入れた。

「こっちは空振りじゃ」

 すぐ後ろからアイシャさんとレオもやって来た。

 レオはピノと同じ行動を取った。

「どうする? まだ日があるようじゃが。このまま街道沿いまで調べるか?」

「敵の大半はあっちに行ったみたいだし。リセットしないで済むならしない方がいいと思うけど」

 ロメオ君が言った。


 移動する前に僕たちは一つの選択を余儀なくされた。

 それはこの落書きの部屋をどの糸玉に記憶するか、あるいはしないかである。

 恐らく僕たちが通ってきた通路はこの部屋の主の脱出用で、普段は敵が配置されていないと推察できた。

 いくらミノタウロスのサイズとは言え、踊り場は狭いし落ちたら危ないので、ゲートを開くのは階段下の通路にすることにした。

 だがどの糸玉を使うか。

 糸玉を持たずに飛んだ場合、出口はスタート地点からと決まっている。上手く東エリアでリセットできたら、味方を呼びに行くために記録を更新する手筈になっているから茶色は使えない。

 なので残りの九色から選ばなければいけない。

 未到達エリアのスタート地点の記録は維持したい。

 となれば最初の小屋、空き地、入り江、酒蔵、武器屋のどれかを捨てないといけない。最初の三つはそれぞれのエリアに侵入するための物だし、残る二つも捨てたくない……

 考えた末、攻略がほぼ済んでいる南の入り江を使うことにした。いざとなれば酒蔵から戻るのもよし、南西エリアから飛空艇で回り込むもよしだ。元々敵が少ないエリアなので弊害も少ないはずだ。

 僕たちはクローゼットの壁に扮した隠れ扉の奥にある通路に出て、黄緑色の糸玉に記録すべく、階段を下りた。


 スタート地点に戻った僕たちは街道に向かった。

 唯々住宅地だった。

 キメラ戦に向かった連中がまだ戻ってきていなかったので、スイスイである。

 番犬オルトロスが戻ってきたのは、街道に辿り着いてからだった。

 ただタイミングが悪すぎて囲まれてしまったが。

 ヘモジが飛びかかるオルトロスを簡単に叩き落とした。リオナが簡単に切り裂いた。ナガレが一網打尽にした。現われたミノタウロスをアイシャさんが、ロメオ君が、ロザリアが圧倒した。

 僕だけはいつの間にか定位置で、肩にオクタヴィアを載せていた。リュックの重さがないとなんとも落ち着かない。違和感があるのはオクタヴィアも同じだった。自分の寝床がなくて今日はずっと寝られずにいる。さすがに抱えてやるわけにもいかないし、お互い我慢だな。

 レオとピノは真剣だった。ピノはいつの間にかヘモジに、レオはナガレに釘付けになっていた。

「?」

 僕たちはある建物の前で立ち止まった。

『地図有ります』

 これは信じていいのか?

 ミノタウロスが本を読むとは思えないが、そこにあったのは本屋だった。

「ナー」

 ヘモジが呆れている。

 オクタヴィアも口を噤んで髭をひくつかせている。

 ロメオ君は既にある情報に印を付けた。

 周囲をぐるりと見回して、敵がいないことを確認して入口の扉を開けた。

「うわっ、埃っぽい」

 換気がまるでされていなかったようだ。

「これが本?」

「どこが?」

「メモ書きにも劣るの」

 窓を開けて光を通すついでに換気した。

 壁に幾つもの革のタペストリーのような物がまるで絵画を飾るかのように掛けられていた。

 ミノタウロスも文字を書く。これを字と評してよいのなら。

 でかい手で何が原料か分からない顔料を使って動物の皮に塗りたくった物だ。字と言うよりまさに絵である。実にカラフルだった。

「絵画としての価値の方がありそうじゃな」

 アイシャさんも同意見か。

「こんな所に人間が使う地図があるのかな?」

 早速ロメオ君は革の束を漁り始めた。ロザリアが明かりを灯した。レオもピノもこれには参加した。

 僕は壁に掛けられた意味不明なカラフルな絵を楽しんだ。

 おや?

「おや、おや、おや?」

 僕は『地図コーナー』と標準語でなぜか書かれた一角で何枚かの絵に興味を抱いた。

「これって…… 落書きだ!」

 壁の落書きと同じ物だ!

 カラフルに塗りたくった下絵の上に白いペンキのような物で丸に点々である。

「地図だったのか!」

 僕は絵にかぶり付く。これが地図だとしたら……

 丸印で思い当たるのが、目の前を横断している街道だ。四十七層それぞれのエリアを貫通している一本道だ。正確に言うと南西エリアと南で途切れているのだが、牛頭のミノタウロスはそんな些細なことまで気にしないだろう。

 僕は過去に拾ったメモを取り出した。あ、さっきの場所のメモは…… 見落としたか?

「ちょっとロメオ君、地図貸して」

「どうしたの?」

「ちょっとね」

 僕は壁に掛かった一枚を剥がした。面白いことに回収した地図とサイズ的に余り変らない。

 見比べるにこの点の位置は…… 二つ目の落書きがあった場所ではないか?

 壁に掛かった他の絵を見る。

 ロメオ君も見比べている。

「これで…… 落書きの在処が分かる?」

 ミノタウロスの指は太いので、ピンポイントでとはいかない。精々スタート地点からどの方角か程度であるが、それでも大進歩である。できればバリスタの位置や、地図のある場所も分かればいいのだが。

「合計八枚」

「城の分はないんだな」

「もう分かってるからいいんじゃない」

 ロメオ君がすべての場所を記録した。落書きのメモだと思っていた物も重要なアイテムだということで資料の一部として扱うことにした。

 ただメモ書きと現場の落書きにはこの場所の絵にない物が記されていた。

「この点と点が繋がっているのは何だろう?」

 同じような絵はここにはなかった。


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