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エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略・レオ・アンド・ピノ)77

 翌日、みんなと額を集めた結果、四十七階層に限り、レオ君を荷物持ちに採用することにした。大きな理由は二つ。一つはアンジェラさんがレオを仲間はずれにするのはどうかと言い出したことだ。ピノといっしょに狩りに行く日はいい。でもそれ以外の日は独学と言えば聞こえはいいが、要は孤独な時間を過ごさせているのではないかと言うのである。

 アイシャさん程人の世界に溶け込んでいるわけでもなく、確固とした趣味があるわけでもない。元々人懐こいだけが取り柄の奴だから誰とでも仲良くなれはするけれど、ピノたちはやはり年下で、やはり同年代の僕たちと行動を共にするのが一番よいのではないかと主張した。

 アイシャさんとしてはピノたちがちょうどレオの外見に見合う歳頃になれば竹馬の友としていい関係が築けるとふんでのことだったらしいが。それまで保たないというのがアンジェラさんの意見だった。

 アンジェラさんは疎外感だけはなんとかしてやってくれと強く主張した。確かにこの家でレオだけが門外漢だ。話題も装備一式にしてもだ。

 町の外の森を散策して兎の肉を狩るくらいなら、同伴させてもいいのではないか?

 オクタヴィアでさえ付いてきているのに。

 四十七階層も概要が掴めてきたし、敵のレベルもほぼ掌握したと言っていいだろう。取り敢えずこのフロアに限り、大した荷物はないが荷物持ちにすることに決めた。

 装備はすぐには間に合わないが、早速ミコーレにドラゴン装備を発注した。この際、アクセサリーも調達し、武器も一新最強装備に切り替えさせる予定だ。そのためには資金がいるので今日のところは普段装備に魔法の盾と使わないアクセサリーを宛がって急場を凌ぐことにした。

「レオ、今日からしばらく僕たちの狩りに同行して貰う。ただし、戦闘はなしだ」

 レオはきょとんとして耳を疑った。

「狩り場の状況が大体掌握できたのでな。うちのリーダーが特別荷物持ちとして見学を許すそうじゃ」とアイシャさんが繰り返した。

「いいの?」

 レオは何度も聞き返した。

「ずるいぞ! 兄ちゃん! アイシャもずるい! 俺も行く!」

 来ると思っていたよ。

 アイシャさんにこめかみを拳でギリギリされていた。

「イダ、イダ、イダイ!」

「凄いね、ピノ。伯母さんを呼びす…… あ」

「イダダダダダッ!」

 仲良きことは美しきことかな。

「ピノ、お前も見学だけだ」


 そしてやって参りました。糸玉を使って、昨日の続きから再開です。

 東のスタート地点。時間は昼。

「これ……」

「迷宮のなかなの?」

 ふたりは周囲を見渡し空を見上げた。

 東エリアは東側に大河があり進入不可エリアになっていた。その向こうには盆地らしく山がそびえているがそっちまで行くことはできない。

 町並みは平地にあって、見晴らしという点では余りよろしくなかった。

 それでもスタート地点は一段高い所にあるから、それなりに望めるのだが、南西エリアほど感動するものではなかった。

 ひたすら続く屋根が見えるだけだ。

「ええと、ここの投石機は」

 マップ情報を確認する。

 今いる高台のすぐ脇にある実力者の屋敷みたいな場所にあるらしい。というか斜面の向こう側を覗き込んだら見えた。石壁に囲まれた庭に不釣り合いなものが置かれていた。

「ここから届くんじゃないか?」

 逆に向こうからも届くという状況であるから、見つかったら大変だ。

 僕はライフルを花が咲き誇る屋敷の庭に置かれた無骨な攻城戦兵器に向けた。

 投石機の側にいた工兵に照準を合わせてみる。

『一撃必殺』が作動した。

 届くみたいだ。

「よし、見つかる前に狙撃する」

 庭の投石機が吹き飛んだ。

 兵隊がワラワラと屋敷から現われた。

「んー」

 あそこは兵士の詰め所になっているのか?

「どうしたですか?」

「あの屋敷怪しくないか?」

「何が?」

「この辺りの建物で大きな建物はあそこだけだ。落書きか地図がありそうな気がするんだけど」

「敵のど真ん中ですよ!」

 レオが言った。

 因みにレオの背中の荷物は僕の荷物をピノとふたりで半分ずつにした物だ。重いものは『楽園』に放り込んであるので、普段初級迷宮に行くときの装備より軽いはずだ。

 僕は輪を掛けていつも以上にフレキシブルに動けるようになったわけだ。

「どの道見て回ることだし」

 ロメオ君が言った。


 僕とリオナは敵の数を減らすために周囲の見張りから削っていった。

 今日は僕も隠密要員として最前列だ。

 ロメオ君とヘモジとナガレがその後に続いた。

 レオとピノは魔法の盾を持ってアイシャさんとロザリアといっしょに最後尾にいる。

 危なそうな連中を一通り排除するとロメオ君に前進するように合図を送った。

 敵は釣られて建物のなかから出てくるが悉く餌食になっていく。

 僕はライフルを構えて建物の上にいる弓兵を狙撃する。

 弓兵はバルコニーの陰に沈んだ。

 僕は屋根の上に転移した。

「よし狙撃ポイント確保だ」

 外に出てくる敵は一網打尽だ。

「エルリンがいると仕事が早いのです」

 いつもはおびき出してからの殲滅戦だからな。リオナに裁量権を与えたらこれくらいやるだろうが、何かあったときに駆けつけてやれないからな。当分はお預けだ。


 全員で建物に残っている敵を倒して戦闘は地味に終了した。

 僕たちもロメオ君たちと合流する。

 ふたりが目を丸くして僕たちを迎えた。

 リオナは兎も角、僕まで自分たちのスキルで追跡できなくなったことに驚いているようだ。

 一体の敵が庭に現われた。

「どこから現われた?」

 仕留めようとしたら「試しにやってみるか?」とアイシャさんがふたりをけしかけた。

「いいの?」

 ピノは盾を構えた。

「やるよ」

 レオが唾を飲み込んだ。

 どうやらレオが先制攻撃を仕掛け、ピノがけりを付ける算段らしい。初級迷宮ではそうしているのだろう。

 守る準備だけはしておく。ヘモジもリオナも割り込む気満々である。

「レベル六十越えの魔物がそう簡単に落せるものか」

 わざわざ僕に消音結界を張ってまで耳打ちしてきた。

「分かっているならなんで?」

「自分の目の前の敵を正しく評価するのも狩りのうちじゃ。あのふたり、ピクニック気分なのでな、少し手綱を締めておいてやらんと」

 お優しいことで。

 レオが雷を落とした。

 そしてピノが飛び込んだ。麻痺したところを狙う気だったのだろう。

 ピノが盾ごと斧の一撃で吹き飛んだ。豪快に吹き飛んだことで二撃目を食らわずに済んだ。 レオが二発目を撃ち込む。が、魔力の密度が足りなくてダメージを食らわせられないでいる。

 自分たちの攻撃がまるで利かないことに愕然としている。

「弓を使え!」

 アイシャさんがアドバイスをする。

 レオは咄嗟に弓を構えようとするが、敵の気迫と大きさに圧倒されて手が震えている。

「うおりゃああああ」

 ピノが割り込んで『シールドバッシュ』をミノタウロスの太いすねに撃ち込んだ。これはさすがに利いたようでミノタウロスは膝を突いた。

「レオ!」

 レオは渾身の力で弓を引き絞り、矢を放った。ミノタウロスの片目を奪った。

 ミノタウロスは痛みに堪えかねて闇雲に斧を横に振り回した。

 ピノはレオを突き飛ばし、盾を構えた。

 盾が弾け飛び、ピノは腕を折られて投げ出された。

 ヘモジがピノの前にカバーに入った。

 レオはこの時初めて本気を見せた。

 ハイエルフの底力だ。膨大な魔力に裏打ちされた強力な稲妻がミノタウロスの頭を直撃した。

 レオは結果を見ずに走り出した。

 ピノは腕を抱えてうずくまったが、口にはもう完全回復薬の小瓶がくわられていた。

「ハー、死ぬかと思った」

 痛い目にあった癖にいい顔してる。

 一方のレオと来たらピノに抱きついて泣きじゃくること泣きじゃくること。

「実戦じゃないと本気を出さないタイプじゃったか」

 甥を見下ろしながらアイシャさんが皮肉った。

 ヘモジがピノの魔法の盾を持ってやって来た。見事に割れていた。仕込んでいた魔石が空になって、衝撃に耐えられなかったようだ。

 ピノはそれを悲しそうに見詰めた。

「直しておいてやるよ」

 僕はそれを取り上げ、『楽園』に放り込んだ。

 一瞬ふたりは驚いたようだが、今はそれどころではないようだ。

 レオは僕が預けた盾をピノに差し出した。

 ピノは起き上がると黙ってそれを受け取り装備した。

「一石二鳥になったの」

 アイシャさんが呟いた。

 レオは心の底から年下のピノを盾持ちとして信頼することに決めたようだ。あの状況で割り込める身体能力もそうだが、よくもまあ片腕一本で済ませたものだ。

 うちの盾持ちとしてスカウトしたいくらいだ。

 

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